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 あるモロッコ移民の親子のフランスでのありのままの現実を描いた『Fatima』が最優秀作品賞に輝いた今年の第41回セザール賞。パリで行われたこの授賞式は、黒人差別問題に揺れる米アカデミー賞を尻目に、人種・宗教問題を取り扱った社会派作品の活躍が目立った。同時に、誰もが納得のヴァンサン・ランドンやアルノー・デプレシャンのセザール初受賞という嬉しいサプライズも。フランスの映画産業における多様性を感じられる結果となり、フランス国内でも非常に満足のいくものとなった様子。そして、司会の国民的コメディエンヌ、フロランス・フォレスティが会場を沸かせた今回、“女性賛歌”の回になったことも言うまでもない。

 最高賞に選ばれたフィリップ・フォコンの描く『Fatima』でリヨンのバンリュー(banlieue=低所得世帯用団地)に住むファティマを演じたソリア・ゼルーアルは、『偉大なるマルグリット』で音痴な歌手を演じたカトリーヌ・フロの圧巻の演技に賞を譲るも、演技未経験ながら堂々のノミネートだった。また、有望若手女優賞には同じく『Fatima』からジ26才のジタ・ハンロが選ばれた。

 そして、とりわけ注目されていたのがデニズ・ガンゼ・エルグウェン監督の『Mustang』(邦題:裸足の季節)。5人のトルコ人姉妹の社会・宗教への反抗を描いた本作は、以前World News[271]でも取り上げている。フランスだけでなく、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされており、惜しくも受賞は逃したが、世界的にその名を知らしめた。また、『Maryland』(15)が公開され次世代女性監督として活躍が期待されるアリス・ウィノクールが共同脚本を務め、オリジナル脚本賞を受賞し二人揃って壇上に上がった。さらに、マチルド・ヴァン・デ・ムールテルが編集賞を受賞し、まさに女性による女性のための映画となった。

 そして、メラニー・ロラン。女優としてだけでなく、『呼吸-友情と破壊』(14)で監督としても高く評価される存在になった彼女が、今回はパートナーのシルヴィ・ギエムと共に長編ドキュメンタリー賞を受賞した。自ら取材に赴き、インタビュー映像で構成された『Demain』は商業的にも成功を収めた。母親になったメラニーの見据える先はフェミニズムではなく、環境問題のようだ。

 また、昨年のカンヌ映画祭で脚光を浴びたエマニュエル・ベルコ。彼女が監督を務めた『La Tête haute』は、当時18歳の演技が評価されたロッド・パラドを輩出しただけでなく、カトリーヌ・ドヌーブやサラ・フォレスティエ、助演男優賞を受賞したブノワ・マジメルら豪華キャストで話題になっている。また、ヴァンサン・カッセルと共演した『Mon Roi』では、静かに崩れていくカップルの姿をリアルに演じ、自身も主演女優賞にノミネートされていた。

 一方で、その『Mon Roi』を監督したのも同じく女性監督、マイウェン。当日表彰式には姿を現さなかった彼女の、直後のインスタグラムへの投稿が話題になっている。エマニュエル・ベアールがプレゼンターとして壇上した際、先日亡くなったシャック・リヴェットの名前を出したことに対し、昨年10月に亡くなったシャンタル・アケルマンへの特別な追悼がなかったことについて批判的なコメントをしている。「シャンタル・アケルマンへ誰もなんのオマージュもなし。76年に『ブリュッセル 1080コメルス河畔通り23番地 ジャンヌ・ディエルマン』を世に出した女性シネアストの第一人者なのよ。」

 『水の中のつぼみ』(08)や同賞助演女優賞を受賞した『スザンヌ』(13)での好演で知られるアデル・エネルは、2月24日Telerama誌掲載のインタビューで、今年のセザール賞についてこう答えている。「私たちは生きていくために、社会問題に向き合わなくていけない。映画は、多少なりともそれに貢献できるはず。『Fatima』とモロッコの娼婦を描いた『Much Loved』は私のお気に入りよ。それらは教えてくれるわ。“目を覚ませ。あなたたちは意地悪ではない、無関心なのだ”と。女性に対する蔑みの現実を目の当たりにするでしょう。なんとか前述の二つの映画を挙げることができたけど、まだまだ映画は白人主義で男社会。確かに出来はいいかもしれない。でも、誰がハットを被った男達が世界を救う物語が見たいって? 私はうんざりね」と、スピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ』を挙げ、“個人的見解”を述べている。

 社会学者ピエール・ブルデューの『La Domination masculine(男の支配)』を読んでいるという彼女は、最後にこのように述べた。「女性たちの叫びは、まぎれもない事実を訴えている。もっと声をあげて、変えていかないと。黒人と同様、“私たちは女である”という自覚を持つことが大切よ。」

 

 アデルの言うように、映画界はいまだに白人主義で男社会。女性先進国のようにも見えるフランスも、実際に女性映画監督は全体のわずか2割ほどだという。時を同じくして、エマ・ワトソン、マギー・ジレンホール、サルマ・ハエック、ジェニファー・ローレンスらがハリウッドにおける女性差別を告発し、改善を求める積極的な動きが盛んに報じられている。そんな中、今年のセザール賞は女性たちの活躍しか目に入らなかった。それは何故か。単純に、彼女たちが優れていたからだ。

 

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参考URL:

http://www.telerama.fr/cinema/adele-haenel-comedienne-le-cinema-blanc-et-masculin-j-en-ai-marre,138772.php

http://next.liberation.fr/cinema/2014/10/22/la-banlieue-un-sujet-en-beton-pour-le-cinema_1126576

http://indietokyo.com/?p=2515

http://www.lefigaro.fr/cinema/2016/02/28/03002-20160228ARTFIG00147-cesar-2016-maiwenn-fachee-par-l-absence-d-hommage-a-chantal-akerman.php

http://www.lefigaro.fr/cinema/2016/02/27/03002-20160227ARTFIG00137-les-cesar-2016-n-ont-eu-d-yeux-que-pour-les-femmes.php

http://www.canalplus.fr/c-cinema/c-ceremonie-des-cesar-sur-canal/pid5429-nominations-cesar.html

 

 

田中めぐみ
World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。


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