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映画監督への入り口は様々な扉があるが、その中でも本日ご紹介したいのがミュージックビデオと映画監督の関係、そしてこれからの映画界での活躍を期待したいMV監督たちだ。

MVと略される「ミュージックビデオ」の始まりは1894年にまで遡る。その原形は新譜のプロモーションのために楽譜出版社が電気技師に頼み映像と宣伝したい音楽を同時に流すというもので “illustrated song”としてエンターテイメントの一種となった。その後、1940-46年にアメリカで流行ったジュークボックス用の映像としてアーティストの演奏している様子やダンスなどの様々なパフォーマンスを混ぜた3分ほどのものが作られるようになった。1960年に入り、ビートルズがミュージックビデオを活用するようになった影響で一気にMVの存在がメジャーになり様々なアーティストが彼らの後を追うようにビデオを制作するようになった。(*1, 2) その中でも1981年に設立されたMTV(音楽専門チャンネルのケーブルテレビ局)の存在はミュージックビデオ界、そしてこの業界から今の映画界で活躍する監督の数々を生み出した背景に欠かせない。80年代90年代に活躍した監督の多くは現在映画監督として名を挙げている傾向にある。

この代表的な例がアントン・コービン。元々はオランダ出身の写真家として活躍していたが1980年以降80本以上ものミュージックビデオを監督してきた。主なアーティストとしてU2、デペッシュ・モード、ジョニー・キャッシュ、コールドプレイなどが挙げられる。写真家としての経験を活かし洗練されたショットの数々は映像の中にも生きている。2007年に長編監督デビューとして『コントロール』を発表し数々の賞を受賞する。その後、今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマン主演の『誰よりも狙われた男』、ジェームズ・ディーンと写真家でニス・ストックとの関係を描いた『ディーン、君がいた瞬間(とき)』などがある。(*3,4)
Anton Corbijn

同じ時代に若くして活躍していたのがスパイク・ジョーンズ。彼もアントン同様に最初は写真家として活動していたがCMなどを手がけるようになりそこからミュージックビデオの制作に積極的に関わるようになった。ビョークの不思議な世界観やダフト・パンク、ケミカルブラザーズ、アーケイド・ファイアなどのMVを手がけている。素朴でホームビデオ的な懐かしさのあるシンンプルさと同時にテーマ性やオリジナルの解釈が表面化する作風が多く、それは彼の映画を観ていると感じることのできる特徴のひとつだ。つい先月末にはカニエ・ウェストとポール・マッカートニーの新曲 “Only One”のMVを発表した。映画監督として、脚本家チャーリー・カウフマンと組み『マルコヴィッチの穴』で長編デビューし高い評価を受け、同様のコンビで製作した『アダプテーション』はベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞。その後、自身で脚本を書いた『her/世界でひとつの彼女』でアカデミー賞脚本賞を受賞した。(*5, 6)

2000年代に入り、YouTubeの登場によって一気にいままでのミュージックビデオ界のあり方が変化していった。映像作家としてインディペンデントに活動する監督が特にミュージックビデオ界で増えていった。簡単に自分で撮った作品をアップロードし不特定多数の人達に見てもらうことできる。様々な音楽のジャンルが発展し、ミックスされていく中でミュージックビデオはただ音楽のための映像以上にクオリティはもちろんのこと音楽から想像する独特な世界観、近年では物語性をもった映像など今までとはまた違った要素を求められている。こうした背景をのもとに活躍する若手のMV監督たちの多くは映画に引けを取らない斬新でオリジナルな試みをもった作品を次々に発表し映像の世界を揺るがせている。

今年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞した、『The Swiss Army』はポール・ダノ、ダニエル・ラドクリフ、メアリー・エリザベス・ウィンステッドなど豪華キャストを起用し、様々なタブーに挑戦する衝撃的なサバイバルコメディ映画だ。今作品の監督の二人組 DANIELS(ダニエル・クウァンとダニエル・シーナート)は元々ミュージックビデオ界で活躍していた。フォスター・ザ・ピープル、DJ SNAKE、パッション・ピットなどのアーティストたちのMVを手がけ、MTV VMA(MTV Video Music Awards)をはじめ、様々な映画祭や広告関連分野のミュージックビデオ部門や映像部門で賞を受賞している。(SXSW映画祭、ロンドン・インターナショナル・アワーズ、D&AD Awards等)インタビューでは彼らはこれからの活動として映画監督だけに限らず、幅広いジャンルを網羅していきたいと話しておりこれからもミュージックビデオも作り続けていきたいと話している。(*7-9)
DANIELS

カナダ出身の女性監督エミリー・カイ・ボックはアーケイド・ファイアのMVを手がけ一躍有名になった。グライムス、マジカル・クラウズなどの同じカナダ出身のアーティストのMVを手がけ、グラミー賞受賞アーティスト、ロードなどのMVも手がけている。彼女の作品の多くはストーリー性に富んでおり、人間的な繊細さを描いている。他にも女性ボクサーを撮ったドキュメンタリーなども制作しており、MVに限らず写真やCMなどでも活躍している。昨年公開されたSF映画『ザ・ギバー』にも関わっており、映画界で彼女の名前を聞く日もそう遠くないかもしれない。これからどのような作品を発表していくのかとても楽しみだ。(*10)
Emily Kai Bock

音楽という形をとる物語を視覚化し、その世界観をより多くに届けていくという役を担うMVの未来は映像を撮ることがとてもメジャーになった今、いかにしてその音楽が語るストーリーを捉え想像し映像へ落とし込んでいくことができるかというのが鍵になってくるのかもしれない。

そしてそのプロセスを踏んだところから生まれる映画監督には今までにない新しい世界の見方を提示してくれるだろう。これからの映画界に吹く新たな風をなりそうだ。

*1 http://www.history.com/…/the-music-video-before-music…

*2 http://moviepilot.com/posts/2697224

*3 http://www.imdb.com/name/nm0179221/?ref_=nv_sr_3

*4 http://antoncorbijn.com/

*5 http://www.imdb.com/name/nm0005069/?ref_=nv_sr_1

*6 http://thecreatorsproject.vice.com/…/her-spike-jonzes…

*7 http://screencrush.com/swiss-army-men-directors/

*8 http://www.imdb.com/title/tt4034354/?ref_=nv_sr_1

*9 http://prettybirdus.com/creatives/daniels/biography/

*10 http://www.emilykaibock.com/

http://blogs.indiewire.com/…/10-music-video-directors…

http://www.highsnobiety.com/…/best-music-video-directors/

mugiho
早稲田大学在学中。
日本国内を南から北へ、そして南半球の国を行き来していまはとりあえず東京に落ち着いています。ただただ映画・活字・音楽・書くことが好きな人間です。物語を語るということが好きなものにすべて共通していて映画もそこに一番惹かれます。知識などもなくまだまだ学ぶことがたくさんありますが自分なりの映画の見方を持ちながらどんどん学んでいきたいです。好奇心旺盛で飽き性な人間で集中力が乏しいのがいまの課題。最近、短編を書き始めました。


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