世代の異なる3人のアメリカ人映画作家たち(61歳、37歳、30歳)によって、それぞれインディペンデント映画への考えが述べられた2つの記事が掲載されました。
一つは、インディペンデント映画のレジェンドと呼ぶべきジム・ジャームッシュのインタビュー(#1)、そしてもう一つは、先日開催されたロカルノ国際映画祭で大きな話題を読んだアレックス・ロス・ペリー(#2)とジョエル・ポトリカス(#3)による対談記事です(#4)。
両記事から幾つかの部分をザックリ取り上げ以下に訳すことで、彼らの目から見たインディペンデント映画について考えたいと思います。
まず、現在の彼を取り巻く状況について尋ねられたジャームッシュは、次のように答えています。
「僕はこの形式が好きなんだ。映画はとても美しい形式だと思う。でも、状況はどんどん難しくなる。5年前と比べても、今では映画の資金を獲得するのはとても難しい仕事になってしまった。どう言えば良いか分からないよ。ただ前に進むだけだ。」
「でも、面白いものは常にメインストリームの外側にあると思う。マイナーなものこそが僕を感動させる。歴史を振り返ると、文化にはいつだってメインストリームとマイナーが存在した。そして、最も革新的なものはマイナー文化にこそ存在するんだ。僕自身も間違いなくマイナーな場所にいるよ。でも、僕が尊敬するのは、僕よりさらにマイナーな場所にいて、あらゆるルールを破壊する勇気を持った人たちだ。」
「インディペンデント映画とは何か?それはその言葉を君がどう定義するかによるね。今では、ある種のマーケティングツールにもなってしまったからだ。とりわけアメリカではね。物事は変わってしまった。世界的な経済危機、新しい映画のディストリビューション方法、これらが映画のファイナンスを変えてしまったんだ。未来がどうなるかなんて分からない。でも、低予算で作られたギリシャ映画のニュー・ウェーブにはまさに未来と呼ぶべきものが備わってる。
例えば、ロックンロールについて考えてみよう。僕が若かった頃には、みんなもうスタジアムを埋め尽くすメインストリームの商業ロックに飽き飽きだったんだ。そこへザ・ストゥージズが、セックス・ピストルズが、そしてラモーンズが現れた。そのアイディアとは、一番大事な要素まで切り詰めるってことだ。プロじゃないからって怖れる必要はない。映画の未来もまた、きっとこういう場所にある。全部切り詰めるんだ。」
「ギリシャでも、ルーマニアでも、そしてイランではもう何年も前から、こういう映画が生まれてきている。みんなこう思うんだ。「どうやってこの人たちにはこんな映画が作れるんだろう、この世界的な経済危機の最中に?」って。でも、それは実際に起こっていることだ。僕はそこに大きな期待を寄せている。こうした美しい形式は簡単に壊されることがない。しかし同時に、たくさんのお金を出したからって、その手助けをすることもできないんだ。」
インディペンデント映画のスピリット、その商業的支配からの独立について語るジャームッシュは、しかし同時に、作品を作る発想の全てが彼独自の、つまりインディペンデントなものであることを否定しています。
「僕はきっとあちこちから<盗んで>きてるよ。意識してる訳じゃないけどね。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』には、他の映画への明確なリフェランスは存在しない。でも、インスピレーションの源はたくさんある。
<盗む>というのが適切な言葉か分からないけど、言いたいことはつまり、オリジナルなアイディアなんて存在しないってことだ。こう考えるのは美しいことだと思うんだけど、アイディアというのは波のようなものなんだ。一つの波は過去の波とつながってる。興味を持ったもの、影響を受けたものの全てを受け入れて、それら全てと調和しながら自分の作品を作るんだ。それこそ、あらゆるアーティストが常にやってきたことだよ。この考えを否定する人たちってのは、嘘をついてるか、自分がオリジナルな存在だと見られなくなることを怖れてるんだろうね。」
ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は、デトロイトで撮影されました。その理由を当地の映画製作に対する税制優遇措置にあるのではないかと推測するジョエル・ポトリカス(彼は生まれ故郷のデトロイトでこれまで同じ仲間たちとずっと映画製作を続けてきた)は、次のように述べています。
ポトリカス「ジャームッシュは、街の歴史やデトロイトの音楽文化についてすごく興味を引かれたんだと思う。でも、結局のところ、一番重要だったのは経済的理由だと思うよ。オレらが撮る映画は彼のよりずっと低予算だから、その税制措置の恩恵を被ることはできない。オレがここで映画を作り続けるのは、同じ仲間と仕事するのが好きだからだ。」
SXSWで大きな注目を集め、ハリウッド映画プロデューサーからの招待状も舞い込むようになったジョエル・ポトリカス、そして、今年のロカルノ国際映画祭で審査員特別賞を受賞したアレックス・ロス・ペリーは、現在、アメリカのインディペンデント映画新世代を代表する映画作家として世界的に大きな注目を集めつつあります。
彼らはこれまできわめて低予算(マイナー)な映画作りを続けてきましたが、さらに大きな規模(メインストリーム)の映画へと飛躍を遂げつつあるように見えます。
しかし、アレックス・ロス・ペリーは、次のように言います。
ペリー「国際的な映画祭に出られるようになって、いろんな映画作家と会って話すことができた。でも、その全員が同じ問題について話すんだ。資金が足りないって。カンヌで新作がプレミア上映されるような映画作家だって同じ。伝説的な映画監督、僕のヒーローたち、みんなが同じ資金繰りの困難について語るんだ。アメリカの映画監督ってのは、ヨーロッパの映画作家が十分な資金を得ているってロマンを抱きがちなんだけど、彼らだって同じなんだ。「僕は望まれてない」って悩みを持ってる。」
「でも、僕の前作『カラー・ホイール』がサンダンスでお披露目され世界的に賞賛された4ヶ月後に考えたんだけど、僕は絶対に「自分の名刺代わりになるような映画」(ハリウッドのプロデューサーから声をかけられるような映画)は作らないって決めたんだ。『リッスン・アップ・フィリップ』には、明らかにその真逆の要素がある。熟練したプロデューサーであれば、こいつとはうまく付き合えないなって思わせるような要素がね。でも、そうした要素は同時に、国際的な映画祭や価値ある映画メディアで大きく取り上げてもらうには、重要な役割を果たすんだ。君も同じだと思うけど、僕らは僕らのヒーローたちがやってきたことと同じ事をやる。つまり、僕らの大好きな映画祭に何度も何度も戻ってくるってことをね。だって、僕らはそこで支援され、育てられてきたんだから。」
エリザベス・モスやジョナサン・プライス、ジェイソン・シュワルツマンといった名の知られた俳優たちを使って『リッスン・アップ・フィリップ』を作ることができたペリーに対して、これまで幼なじみの仲間たちと映画作りを続けてきたポトリカスは、その一歩後を追いかけているようにも見えます。
ポトリカス「オレのやってるローファイな映画作りは、主に資金的制約に由来するものだ。でも、ミシガンには映画が万引きしてやるべき風景がいっぱいあるんだ。ここは誰のレーダーにも引っかからないからね。オレたちのクルーは6人、照明もないし移動撮影なんてできない。だからこそ、セブンイレブンの店内で誰にも気づかれず撮影することができるんだ。ファストフードやコンビニはお気に入りの場所だよ。ハイアートとローアートの混合がいいんだ。ドリトスにはペーソスがあるってことを見せたい。『バザード』のジャンクフード文化をリンカーン・センターやMoMAで上映できたのは、ものすごく名誉なことだったよ。」
「ラモーンズは同じ曲を何度も何度も作った。どんなに人気が出ても。同じ道を歩みたいと思ってるよ。大金が欲しくないって訳じゃないんだ。いつだっていただくよ。オレが作るのも「名刺代わりになる映画」じゃないって指摘されたんだけど、ハリウッドのコマになるため映画を作ってる訳じゃないからね。理想を言えば、その逆をやりたいと思ってる。あいつらに別の方法があるって事を見せるんだ。まあ、現実的に言えば、海外資本の獲得を目指すことになるだろうね。ヨーロッパは、アメリカではあり得ない形でオレの映画を受け入れてくれる。彼らは「映画のレンズ」を通じて物事を見てくれるんだ。」
「オレは自分の見たい映画を作って行きたい。冒険を引き受けて軌道を外れたような映画が好きなんだ。ハリウッドはもう長い間レールから外れてないからね。ヨーロッパでは、不快なものや怒りが込められたもの、好ましくないものでさえ受け入れてくれる。『リッスン・アップ・フィリップ』も『バザード』も、ともにアメリカとヨーロッパの両方で評価されたけど、ヨーロッパではずっと長くそれが続くと思うんだ。新作ばかりが持て囃されるVODの精神は、ここには存在しないからね。良い映画ってものは、6ヶ月でその賞味期限が切れるものじゃない筈なんだ。」
「オレはすっごく安上がりに生きてるよ。それがオレのやり方なんだ。安く生きて、安く映画を作る。ただし、そこにありったけの魂を込める。オレにとって、映画には魂がなけりゃダメなんだ。『アメリカン・ヒストリーX』(トニー・ケイ, 1998)には魂がなかった。しかし、『メイド・イン・ブリテン』(アラン・クラーク, 1982)にはあった。誰のせいかは知らない。作り手かシステムのせいか。いずれにせよ、映画から魂を奪い、どこにでもいるキャラクターやお馴染みの構造に置き換えようとする奴らがいるんだ。最終的に、オレがやりたいのは仲間たちと森で奇妙な小屋を建てるようなことだ。大勢の知らない連中がウロウロする悪趣味な高層建築を作ることじゃなくてね。」
大寺眞輔
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#1
http://www.indiewire.com/…/jim-jarmusch-on-vampires-music-a…
#2
Alex Ross Perry
1984年生まれ。アメリカの新世代インディペンデント映画作家を代表する作家の一人として、国際的に評価が高い。マンブルコアなスクリューボールコメディやピンチョン風の奇怪なSFコメディなど奇妙にハズシたテイストが持ち味。
三本の長編(『インポレックス』『カラー・ホイール』『リッスン・アップ・フィリップ』)をこれまでに撮っており、最新作でロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞した。
http://www.imdb.com/name/nm3504405/
アレックス・ロス・ペリーについて書いた拙稿。
http://blog.ecri.biz/?p=1949
#3
Joel Potrykus
1977年生まれ。スタンダップ・コメディアンなど幾つかの職を経た後、ミシガンで幼なじみの仲間たちと超低予算の映画作りを続けてきた。映画評論も行う。ジョシュア・バージを主演に撮った短編『コヨーテ』、処女長編『エイプ』、そして最新作『バザード』はいずれも動物の名前にタイトルを取り、ロカルノやSXSWといった映画祭で大きな注目を浴びた。『エイプ』は、2012年のロカルノ国際映画祭でBest New Director賞を受賞している。
http://www.imdb.com/name/nm1811127/
ジョエル・ポトリカスについて書いた拙稿。
http://boid-mag.publishers.fm/issue/886/
http://blog.ecri.biz/?p=1955
http://blog.ecri.biz/?p=1940
#4
http://cinema-scope.com/…/declarations-independence-conver…/


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