cdn.indiewire.psdops.com フィルムかデジタルか。DCP上映が普及していくなかで、フィルムで上映することの価値やフィルム保存の必要性をめぐる議論はこれまでさまざまな場所でひんぱんに行われてきた。しかし、多くの映画館がDCP用の映写機を導入し、そうした設備を導入することのできない映画館の多くが閉館を余儀なくされた現在、フィルム活用をめぐる議論はやや下火になってきている印象を受ける。

 11月4日から25日までMoMAでは、『保存と映写:第13回MoMA国際フィルム保存フェスティバル』という催しが今年も開催された。また、日本でも、2013年にDCP上映の問題点を投げかけるシンポジウムを開いた東京フィルメックスフィルムが先日、無事に閉幕したばかりだ。映画のフィルムに関しては、フィルム産業が縮小していくなかで、今後新たに撮影される映画のためのフィルムをどう確保し、現像や上映の機会をどう確保していくのかという問題と、過去にフィルムで撮影された映画をどうやって保存・復元していくかという二つの大きな問題がある。今回の記事では、後者の問題について、フィルム保存の意義を伝える海外からの声を紹介したい。

 MoMAでの企画に外部キュレーターとして携わったデイブ・カーはフィルム保存の現在についてこう語る。
「私たちはデジタルとフィルムの間でダブルバインドの状況に陥っているという意味で危機的な状況にあります。古い映画のプリントを見つけることは不可能になってきています。しかし、その一方でDCPも古い映画を大量に作り出すことができていません。古い35ミリのプリントは擦り切れ、デジタルデータへのコピーも終わっていないいま、古典的名作でさえも保存が危ぶまれる状況になっています」。
「どれだけの作品がフィルムからデジタルへの過渡期を越えて残っていけるか。デジタル化にかかる費用が1本あたり最低でも40000ドルを越え、その費用もどんどん上がっている以上、コストの面から言ってスタジオはデジタル化するという決断をとることができません。NetflixやiTunesにも古典的名作は少なくて、まだ期待することができない。フィルムとデジタルという二つの領域の狭間で失われていく映画が大量に出てきているのです」。

 なぜフィルムがそれほど重要なメディアだと言えるのか? 同企画のゲスト・プレゼンターを務めたカナダの映画監督ガイ・マディンは次のように語る。
「僕はある意味、フィルムの力に取り憑かれていると言えるね。フィルムが被写体を捉えた瞬間からフィルムに投影された像と元の人間とは違う時間の流れを歩み出す。映された俳優が死んでも残るそれはまるで幽霊みたいな存在さ。僕はそんな時間を超える力を持つフィルムに魅せられているんだ」。
「絵画や文学や他の芸術作品を保存していくことに疑問を持つ人がいるだろうか?これはフィルムの価値を考えるときにとても重要な問いだと思う。例えば、子どもの頃に家で撮った写真があるとしよう。それは何十年も経って、そこに家がありそこで暮らしていた人がいたことを伝える。それは時とともに移り変わり、やがては消えてしまうものかもしれないけれど、それゆえに爆発的な力を持つと思うんだ」。

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 こうしたフィルム保存への危機感を抱いている映画人としてマーティン・スコセッシはあまりにも有名だろう。フィルムへの偏愛を表明する彼はフィルム・ファウンデーションを設立し、700近い映画の修復を支援してきた。
スコセッシは「フィルム・ファウンデーションの役割は、スタジオの人びとに彼らがもつアーカイブの価値を認識させることだと思っている。スタジオの役割はフィルムの製作や配給だけに留まらない。彼らは製作・配給・保存を一手に担っていたのだから」。

 デイブ・カーはこうした役割は映画の製作者自身にもあると考えている。
「いまや多くのインディペンデントなプロダクションが乱立し、そのどれもが長期的な保存を担えるわけではありません。磁気テープは不安定なメディアです。MoMAではフィルムをデジタル化して保存するときには、3つのコピーをとっていますが、それすらも安全だとは言い切れません。だから、私たちは安全なアーカイブを作れる技術革新を待ち望んでいます。もし、スタジオからビッグタイトルが消えるようなことになれば、人びとも大きな関心を払うようになるでしょうけれど……」。

 古典映画のフィルム保存の問題はいま大きな過渡期を迎えている。どのような形で映画を保存していくことがベストなのか。映画ファンはこのような問題にも注視していく必要があるだろう。

参考資料
1) The Current Film Preservation Crisis and What Needs to Be Done

2) Guy Maddin on His Obsession with Lost Films and Why We Need to Preserve Them

3) Martin Scorsese on Fighting For Film Preservation and Not Believing in ‘Old Movies’

4) To Save and Project: The 13th MoMA International Festival of Film Preservation

坂雄史
World News部門担当。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程。学部時代はロバート・ロッセン監督の作品を研究。留学経験はないけれど、ネイティブレベルを目指して日々英語と格闘中。カラオケの十八番はCHAGE and ASKA。


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