「抵抗」、「スリ」、「ラルジャン」「ブローニュの森の貴婦人たち」などの傑作の数々を監督し、現代フランス映画史上に屹立するロベール・ブレッソン。映画史を勉強する上で重要な人物の一人でもあり、唯一無二の存在ともいえる。1959年製作「スリ」に出演した女優マリカ・グリーンは「ブレッソン監督作品に出演した女優たちはお互い攻撃的で、協調性がない。」と述べている。それは嫉妬とはまた違う感情のようだ。女優1人ひとりの中にそれぞれの<ブレッソン>が存在しているのだ。この様に、「虜」という言葉がふさわしいブレッソンはいったいどういう人物なのだろうか。
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 ブレッソンは、芝居がかった演技や、俳優の人工的な演技行為の意味、感情を表すことをひどく嫌っていたため、1つひとつの作品に対して素人ばかりを採用していた。その出演者たちをブレッソンは「モデル」と表現していた。また作品の中で、音楽の使用を最小限に抑え、センチメンタリズムの排除、派手さを抑えた作風を貫くなど、独自のルールに基づいた作風が特徴である。そうした自らの作品群を「映画」とは呼ばずに「シネマトグラフ」と総称した。この様に、オリジナルな映像世界を創造してきたため、彼は寡作の天才でもあり、映像作家と呼ぶにふさわしい人物の1人であろう。
 
 
 また彼はストーリー性をも重要視しない。重要視したのは登場人物の目線や動作のフォルムの様式化である。これらが観客に対して決して忘れることのできない印象を残すのだ。「スリ」や「ラルジャン」を例にあげてみよう。共に主人公をはじめ、登場人物のほとんどがニコリともしない。冷淡さを保ちつつ、クールな進行の中でハードボイルドな心理描写をしている。また上で述べたように、挿入される音楽も必要最小限に抑えられ、ドアの開け閉めなどの音の一つ一つが緊張感を煽っている。登場人物の冷酷さや計り知れない緊張感、ブレッソンが作り出す世界観に観客は引き込まれていき、ブレッソン映画の虜にさせるものなのかもしれない。

 出演者も観客をも虜にさせてしまうロベール・ブレッソン。そのロベール・ブレッソンを特集するシネマテークが12月に池袋の新文芸坐で行われる。12月18日(金)『罪の天使たち』(1948年)、12月25日(金)『ジャンヌ・ダルク裁判』(1962年)が上映される。是非足を運び、彼の虜になってほしい。

http://indietokyo.com/?page_id=14

参考文献
http://blogs.indiewire.com/theplaylist/the-films-of-robert-bresson-a-retrospective-20120418

船津 遥
World News担当。学習院大学文学部フランス語圏文化学科所属。サイレント映画、ウェス・アンダーソンのとりこ。日活映画にもはまっている20代女子。(量産型キラキラ系女子ではありません。)


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