コンテンツ産業の危機を語る際に、「○○が××を殺す」というレトリックが多用されます。××に入る言葉は音楽、本など多岐に渡りますが、○○に入る言葉に関しては近ごろはただひとつ、<インターネット>です。インターネット配信による視聴スタイルの多様化によって、昔ながらのコンテンツ産業は大きな変化を迫られています。もちろん映画産業も、例外ではありません。

ビデオ・オン・デマンド(インターネット回線によりユーザーが好みの映像の視聴を行えるシステム)の普及により、多くの人が映画を自宅で視聴できるようになっています。なかでも最近争点となっているのはビデオ・オン・デマンドの公開即日配信(day-and-date)です。

公開即日に新作がビデオ・オン・デマンドで配信されれば、当然映画館に足を運ぶ人が減ることが予想されますが、一方で最初から普段映画館に足を運ぶ習慣のない人に新作映画を視聴してもらうことで、公開時の口コミの広がりを期待することができます。また、ビデオ・オン・デマンドのコンテンツごとに課金するシステム(pay-per-view)を使って新作映画にある程度高額な(映画館で映画を見るのと同程度の)金額設定を課すことで、コンテンツ産業が得られる収入のアップも望めるでしょう。「映画館で映画を見ることにはこだわりがないけれど、映画が新鮮なうちに視聴したい」という層を掘り起こすのです。

IndieWireのパウラ・バースタインは、映画館に通う層とビデオ・オン・デマンドで全てを済まそうとする層との重なるところは僅かで、深刻なカニバリズムは起こらないと分析します。そして大規模なプロモーションを打つ事ができないインディペンデントな映画にとって、むしろビデオ・オン・デマンドは福音であるかもしれないとも。(1)

実際映画というのも全てが一様でなく、どうしても映画館で見たい映画もあれば、とにかく早くチェックして話題に乗りたいという映画もあるでしょう。例えば「『ゼロ・グラビティ』は時間を調整して映画館で体験したいけれど、『As I Lay Dying』は視聴環境はどうあれいち早くチェックして、SNSのジェームス・フランコ祭りに加わりたい」というような……(ジェームス・フランコに関しては inside IndieTokyoの大寺氏の記事 http://on.fb.me/1mzde3p に詳しく書かれているのでご参照ください!)。そしてニッチではあるけれど、全国的に一定の需要が見込めるような映画に関してはビデオ・オン・デマンドの活用が視聴率のアップにダイレクトに影響するでしょう。実際、ドキュメンタリー映画の分野はビデオ・オン・デマンド活用で視聴者数が増えているというデータもあります。(2)

インターネットは今や我々の生活の隅々まで行き渡っており、最新のニールセンのリポートによれば、既にビデオ・オン・デマンドのアメリカ家庭での普及率は60%にものぼるそう。(1) 結局のところコンテンツ産業はインターネット配信を敵視せずに、活用するより他ないのです。そして最も直接的に打撃を受ける映画館は、家庭での視聴では得られない<体験>をどれだけ提供できるかに、今後の存亡がかかってきているといえるかもしれません。

蜂谷智子
編集者・ライター Facebook( https://www.facebook.com/tmkhachiya )

(1) http://www.indiewire.com/article/is-vod-the-future-of-independent-film-yes-and-no?
(2) http://www.indiewire.com/article/reality-checks-documentaries-are-struggling-at-the-box-office-but-vod-may-yet-save-the-day-20140710


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