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今日、移民問題は世界中でますます大きなものとして取り上げられるようになりましたが、アメリカ社会ではアイルランドからの移民が長きにわたって独自のポジションを得ています。そうしたアイルランド精神あふれた作品が、今年のサンダンス国際映画祭でプレミア上映され、大きな話題となりました。アイルランドの著名作家コルム・トービン原作による『Brooklyn』です。米国では11月初頭に公開され、高い評価を得ています。

1950年代に小さなアイルランドの町から、ニューヨークのブルックリンへと移住し、家族や友人、そして異なる土地で出会った二人の男性を通して彼女の成長と激動の人生を描く国をまたいだ、壮大なスケールのヒューマンドラマです。主演は『つぐない』でアカデミー賞助演女優ノミネートされ、一気に女優への階段を駆け上がりその後もジョー・ライト監督の『ハンナ』やウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』などで活躍するシアーシャ・ローナン。『BOY A』の監督ジョン・クロウリー、『アバウト・タイム』のドーナル・グリーソンと、アイルランド人によるアイルランドの映画に仕上がっていて、本作でシアーシャも初めて自分の故郷であるアイルランドの主人公を演じることになりました。(*1)

自分のアイルランド人としてのアイデンティティ、女優として新しいステージに上がったということ、そして今作品で学んだことについてインタビューで語っています。

あなたはアメリカのニューヨーク州ブロンクスで生まれ、その後幼い頃にアイルランドに家族で戻ってきていますね。『ブルックリン』の内容にとても共感する部分があったのではないですか?
私がアイルランドに引っ越したのは3歳半の時でした。この映画の内容は私よりは私の両親の物語に近いかもしれません。彼らは80年代にアメリカへ渡りました。向こうではとても苦労し、無一文だった時期もありました。私の母は乳母として働いていて、独立した強い女性です。それもきっとニューヨークという場所が彼女を作り上げたのでしょう。父はあるバーで働いていて、そこで出会ったアイルランド 人俳優のクリス・オニールという人に見出され、演技の道へ進むことになりました。

『Brooklyn』との相似点がすごいですね。
ニューヨークと私の両親の体験、そして自分と全てがつながったような気がして、すぐにこの作品の精神と雰囲気が気に入りました。

今作品の原作と脚本、そしてあなたと監督との関係という違う素材をどのように組み合わせていきましたか?
原作は脚本でも取り上げないような細かいところを理解するのにとても役立ちました。例えば、主人公エリスと彼女の父親との関係から母親やとても仲の良い姉妹の関係などが浮かび上がってくる様子。他にも環境や過去に何が起こったのかということを理解するのにとても良い材料になりました。故郷から離れるという心境をとても上手く捉えている著書を読めたことはとても光栄なことです。(*2)

映画を撮り始める直前に、それともそれより前に原作を読みましたか?
映画の話があるずっと前に読んでいて、その時にとても気に入りました。でも実際に映画を撮ることになって読んだとき、全く違う意味を持つようになりました。脚本を読んでから映画を撮り始める間までに自分の私生活においてもロンドンに引っ越して一人暮らしを始めたりと、たくさんの変化が起こり、その体験も踏まえてこの物語は自分にとって深い意味を持つようになりました。(*3)

ニック・ホーンビィは『17歳の肖像』や『わたしに会うまでの1600キロ』でみせたようにオリジナルの材料を尊重するのが上手いのと同時に自分の映画を表現するのにとても長けていますよね。
脚本が本当に素晴らしかった。撮影が始まる約1年前に脚本を読みましたが、一目で気に入りました。これが自分のやりたい映画だと思いました。ニックは私たちアイルランド人がお互いにどのように会話し、生きているかというその精神と感性をとても上手く捉えていて、一面的なものにしませんでした。過去に多くの人達がしたように、ステレオタイプなアイルランド人像せずに、本物の物語を語ってくれたことがとても嬉しかったです。

監督とのコラボレーションはどんな感じでしたか?
彼は脚本を全く新しい面から理解させてくれました。私が想像し得なかった物語のさらに奥にあるものをたくさん教えてくれました。彼がこの作品について言っていたことで忘れられない言葉があります。「この作品は究極的には映画が終わるまでにエリスがなすべき選択について描いた物語だ。彼女は十分にたくさんのことを経験してきていて、自分の足でしっかり立ち、何が自分にとって正しいのかということがわかっている。そしてそれを決めるのは全て彼女にかかっているんだ」と。(*2)

『Brooklyn』はとてもエモーショナルな作品であると同時に、その時代を蘇らせるのにセットや衣装、ロケーションがとても細かく意識されていますよね。セットは全て作られたのですか?どのようにして50年代の雰囲気を再現したのでしょうか?
衣装はオディール・ディックスという衣装デザイナーで、自分の担当する作品の時代にとても忠実な素晴らしい人でした。その年代のブラやストッキングを身につけて、合わなかったらそれがぴったり合うまで調整しました。とても真剣で、できる限り本物に近づけようとしていました。セットは殆ど作られました。少しだけCGを使いましたが、それ以外は全て手作りです。アイルランドのエニスコーシーという町で撮った時は、その町の通りの時代を全て細かく作り変えていきました。50年代のお店の看板や外装を取り付け、ダンスホールなども時代に合わせてセッティングしていきました。なんでもCGで終わらせてしまう現代の中で、このようにして一から作っていくことはとてもいい経験でした。雰囲気を出していくのにとても重要な役割を果たしていると思います。(*3)

この作品のような演技はトレーニングや自分の信念などの全てを合わせてその感情を表現させてくれると思いますが、自分の考えを行動に移すコツはありますか?
私は演技指導を受けたことがありません。いつもただ自分の直感と与えられた指示に従うだけです。私はもらった脚本に従って、あとは自分で脚本の内容に関することを調べ、他に参考にできるものがあるかを探します。この作業はとても役に立ちますね。でもどこから感情が湧きあがってくるとか、どのようにしてそこへ到達するかということにおいて技術的になったことは一度もありません。

『Brooklyn』はあなたの女優としての新しいステージを示唆しているように思います。今までの純粋な少女を演じるのではなく、もっと大人の女性を演じたり、より強い心情的な作品に取り組んでいくような。
次のステージに進んでいくことにとてもワクワクしています。この作品はその足がかりととしてとてもいいものだったと思います。若い女性が多くの経験を通して、一人の独立した女性へと成長してく過程はとても大人なことです。私は少女から女性への移行以上の変化を求めています。10歳からずっと女優として活動してきていて、21歳になった今、新しい段階へ行く準備ができています。年を重ねるにつれて、より情熱的になってきているように思いますね。(*2)

一段と大人になった彼女のこれからの活躍がますます楽しみです。

*1 http://www.imdb.com/title/tt2381111/

*2 http://www.rogerebert.com/sundance/sundance-2015-interview-saoirse-ronan-on-brooklyn

*3 http://lwlies.com/interviews/saoirse-ronan-brooklyn/

mugiho
早稲田大学在学中。
日本国内を南から北へ、そして南半球の国を行き来していまはとりあえず東京に落ち着いています。ただただ映画・活字・音楽・書くことが好きな人間です。物語を語るということが好きなものにすべて共通していて映画もそこに一番惹かれます。知識などもなくまだまだ学ぶことがたくさんありますが自分なりの映画の見方を持ちながらどんどん学んでいきたいです。好奇心旺盛で飽き性な人間で集中力が乏しいのがいまの課題。最近、短編を書き始めました。


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