[303]老舗映画館、新オーナー求む。


 アメリカ、メイン州ホールデンにある映画館テンプルシアターでは現在、ある前代未聞のコンテストが開催されている。そのコンテストとは”Win the Temple Theatre Essay Contest”といい、“なぜあなたがテンプルシアターの所有者に適しているのか”というお題でエッセイを募集し、なんとその最優秀者には映画館の経営権を譲渡するという、“新しいオーナー探し”が目的のコンテストだ。

 応募者は、250語程度のエッセイで自らの経営プランをアピールする。エントリー代として100ドル払えば誰でも、家族・グループ問わず応募可能。優勝者は3人の審査員によって選出され、98年の歴史を持つ映画館が手に入るチャンスだ。

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“もし人と映画が好きなら、映画館を持てばいい”

 現オーナーのマイケル・ハーレイ氏は、十年以上前からこのテンプルシアターを経営し続けている。テンプルシアターとの出会いを、彼はこう語る。「あるニュースで、アメリカ北部のホールトンという田舎町にある古びて放置され、閉館した映画館の存在を知りました。そこの看板には、館主が最後に残したと思われる言葉が綴られていたんです。“ずさんな管理体制よ、ありがとう”と。使命感に駆られた私は、すぐに北へ向け出発した。そして、一瞬にしてそのシアターと恋に落ちたんです。とても手が付けられる状態ではなかったけどね。」

 当時、客足の遠退いた元映画館は悲惨な状態だった。ハーレイ氏を中心とした仲間は来る日も来る日も清掃を重ね、さらには装飾から内装まで一新し、営業再開に向けて動き出した。そして2002年11月4日、テンプルシアターはついにリニューアルオープンを果たした。

 その後の経営について、彼はこう述べる。「ここ数年は素晴らしい時間でした。『ハンガー・ゲーム』、『ハリー・ポッター』、『アバター』、『ロード・オブ・ザ・リング』等の大作や、インディペンデント系など多くの作品を上演しました。この町の子供たちは、感謝祭とクリスマスの間の時期に開催される“フリーホリデイ”(大人も子供も無料で映画を観れる)で育ったといってもいいでしょう。『ロスト・イン・トランスレーション』や『リトル・ミス・サンシャイン』、『ザ・ファイター』などの当時はあまり知られていなかった良作や、歴史に名を残すであろう失敗作や問題作もあえて上映してきました。『ジョン・カーター』や『ローン・レンジャー』、『ザ・インタビュー』とかね。あと、アダム・サンドラー作品は絶対に欠かせません。ああ、あの頃はよかったなぁ!」確かに、冒頭の写真からもアダム・サンドラーの『HOTEL TRANSYLVANIA 2』(邦題:モンスターホテル2、劇場公開未定)が上映中であることがうかがえる。個人的にファンなのだろうか。

 テンプルシアター再建から14年経った今、なぜこのコンテストを開こうと思い立ったのか。「あの頃は50で、気付けばもう65。まさか人里離れた小さな町の映画館を14年も経営することになるとは夢にも思ってなかったし、あっという間でした。ずっと現地の人間がやるべきだと思っているし、私自身今が引き際なんです。」これに先立って、同じメイン州内で“Win the inn”というホテルの所有権を懸けたエッセイコンテストが行なわれており、これが意外にも評判が良かったことを知った彼がこの斬新なアイデアに飛びついた、というわけだ。

 では、求められる人材とはどのような人間なのか。「私たちは、私たちのように映画を愛している人を求めています。支配人として映画業界の最先端に居られることは、喜びであり、誇りなのです。多くのフィルムメーカーたちは幼い頃の映画館での鑑賞をきっかけに映画の道を志した、という話をよく耳にしました。そういう場所を提供し続けていく義務があります。簡単な話、もし人と映画が好きなら、自分で映画館を持てばいいんです。こんな魅力的なビジネス、他にはありません。」

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“老舗映画館だからこそ得られるものがある”

 さらに、小さな田舎町での生活を好む人が求められるようだ。「メイン州はハリウッドでなければニューヨークでもない。メイン州の最北に位置しするホールトンを都庁所在地とするアルーストック郡 は、農業が盛んで健康的なアクティビティが楽しめます。映画仲間を作ったり、ご近所さんとの仲を深めたり、子供たちはのどかな環境ですくすく育ちます。」

 そして、こう付け加える。「将来的に、優勝者には実践的なビジネススキルを身に付けてもらいます。劇場の責任者として、ただ“楽しい”とは言っていられません。1918年に造られてからまもなく98年の歴史を誇る当映画館は、2016年1月に新オーナーを迎え、その後2018年には創立100周年記念イベントを控えています。チャールズ・チャップリンの名作から『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(年末公開予定)まで、100年の映画史をたどるラインナップを予定しており、想像しただけでも心が躍る映画通を唸らせるイベントになることでしょう。」伝統ある映画館だけあって、新オーナーへの期待とプレッシャーも格別のようだ。

 映画とその町を愛する人… 今回の機会は、とくに『ニュー・シネマ・パラダイス』を繰り返し観た人にとって夢であり、ロマンであり、『ニュー・シネマ・パラダイス』の世界そのものではないか。フィルムとデジタルシネマ、素材と時代は違うものの、映画を愛し、映画を伝え、映画と人々を繋ぎ、ひたむきに映画館を守ってきたハーレイ氏の姿はまさに現代のアルフレードである。アダム・サンドラ―を推し続けてきた彼のように、自ら贔屓する俳優や監督の作品をリピート上映したり、映画祭やレトロスペクティブを開催したっていい。または、映画館という枠を超え、広大な敷地を活かし、アイデア次第では革新的なことにも挑戦できる。全てはオーナー次第、つまりエッセイコンテストの優勝者次第である。“一つのエッセイの実現化”をじっくりと見守るとしよう。

 

応募期間は2015年9月30日から2016年1月15日まで。興味のある方は是非エントリーを。

Win the Temple Theatre Essay Contest:http://landing.dreamlocal.com/temple-theatre/

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参考URL:

http://www.indiewire.com/article/heres-your-chance-to-own-a-historic-movie-theater-20151109

http://bangordailynews.com/2014/10/05/living/after-95-years-of-film-houlton-movie-theater-to-enter-digital-age/

http://wincenterlovellinn.com/

http://www.templemovies.com/

 

田中めぐみ
World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。


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