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 とある映画監督のお薦め映画作品のリストを見かけることはないだろうか。例えばマーティン・スコセッシが薦める39作品の外国映画リストなど、自分が気になる映画監督なら、尚更そのリストにある映画を見てみたいと思うだろう。*(1) しかし、こうしたリストの中には滅多に見られないような貴重な作品などが紛れており、作品を見ることさえ叶わないことがある。だが、もし映画監督たちが選んだ映画作品のリストが貴重な作品も含めすべてオンライン上で手軽に視聴可能になるとしたら?

 先週の木曜日からフランスでサービスが開始された映画監督たちによるオンライン上のシネマテーク、Cinetek(シネテック)はアニエス・ヴァルダ、オリヴィエ・アサイヤス、アルノー・デプレシャン、ベルトラン・ボネロ、ジャック・ドワイヨン、ジェームズ・グレイ、是枝裕和、リュック・ムレやアピチャッポン・ウィーラセタクンなど、世界の様々な著名映画監督たちが名を連ね、彼らが選び抜いた50作品の映画リストを見て、その幾つかの作品を実際に視聴することが出来るようになっている。まだ著作権交渉中の作品に関しては随時、アップデートされていくようだ。現在、監督たちによって選び抜かれた900作品の中で400作品が視聴可能で、そのうち140作品が本サービスのために初めてVOD化されたという。レンタルするとSDが2,99ユーロ、HDが3,99ユーロ。購入すると7,99から9,99ユーロとなっている。*(2) 

 このVODのプロジェクトは映画監督のパスカル・フェランとセドリック・クラピッシュが発案したもので、インターネット上で今の自分たちを作り上げた映画、また見直したい映画たちを再び見つけたいというシネアストたちの願望を叶えるためのものだったという。シネフィルのための有名な番組などが失われてから、映画が伝達されていく場の欠如が目立っていた為、それを補うものとして考案されたようだ。CNC(フランス国立映画センター)とイル=ド=フランス地域圏の援助を受け、40万ユーロ(約500万円)の資金をもとにプロジェクトはスタートし、今現在でも他の資金援助を探しているとのこと。*(3)

 シネテックは毎月様々な映画監督による映画リストを更新していき、毎年600もの作品を紹介していくのが目標となっているようだ。選ばれた作品からは監督の嗜好などが垣間見られるものとなっており、ジャック・オディアール、オリヴィエ・アサイヤス、アルノ―・デプレシャンのようにグリフィス、ムルナウ、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーなどの古典映画を挙げる監督たちも居れば、アピチャッポン・ウィーラセタクンのようにアンディー・ウォ―ホールやロバート・ブリアの実験映画などを挙げる監督、またセリーヌ・シアマのように『スター・ウォ―ズ エピソード5/帝国の逆襲』や『アキラ』、『となりのトトロ』などの作品を挙げる監督もおり、実に多種多様で豊富な映画リストとなっている。しかし残念ながら、このVODサービスは現在フランスでのみ利用可能となっている。今後、このサービスがどのように展開していくのかは未定だが、今のところフランス国外にいる人たちは自分が気になる映画監督がどういった作品を選んだのかチェックするだけでも一見の価値はあるかもしれない。

シネテック ホームページ:
http://www.lacinetek.com/fr/

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参考資料: 
http://www.lesinrocks.com/2014/10/17/cinema/scorsese-11530328/ *(1) 
http://www.lacinetek.com/fr/ *(2)
http://next.liberation.fr/cinema/2015/11/06/la-cinethek-revise-ses-classiques_1411693 *(3)
http://www.lesinrocks.com/2015/11/06/cinema/lancement-de-lacinetek-premiere-plateforme-vad-concue-par-des-cineastes-11785793/
画像はすべてシネテックのホームページからキャプチャしたもの。

楠大史 World News担当。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士2年、アンスティチュ・フランセ日本のメディア・コンテンツ文化産業部門アシスタント、映画雑誌NOBODY編集部員。高校卒業までフランスで生まれ育ち、大学ではストローブ=ユイレ研究を行う。一見しっかりしていそうで、どこか抜けている。


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