3.11以後、日本では当然、福島に関するドキュメンタリー映画が増え、また注目された。同じく原発事故といえば、チェルノブイリに関するドキュメンタリーも当然のことながら、また注目を集めている。しかし、多くの作品が事故の不条理を伝えるということに終始している。もちろん現状をありのまま見つめることは大事であるが、原子力問題に関して、我々はどのように批判的な視線を得ることが出来るのか。今回紹介する、“The Russian Woodpecker”(Chad Gracia監督)は、チェルノブイリを別の視点から見ることに果敢に挑戦したドキュメンタリー映画である。

 

「チェルノブイリは事故では無かった。それは、あらかじめ計画されて、モスクワによって実行されたのである。チェルノブイリは無意味な兵器製造を隠蔽するために引き起こされたのだ。」(*1)そう攻撃的に語るのは、ウクライナの美術家Fedor Alexandrovichである。

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写真を見て頂きたい。この巨大な建築物はソ連時代に立てられたミサイルの電波をキャッチし警告するシステムである。70億ドルも掛かったこの建築物は、当時一大スキャンダルであった。Fedorが語るのは、チェルノブイリ原発事故がこうした兵器製造の失敗を隠蔽するために計画されていた、ということである。

 

「ウクライナはソヴィエト連邦共和国の復活のための第一歩である。そして次に待っているのは第三次世界大戦である。」(*1)こうも語られる。誇張されすぎているようにも感じられるが、この作家および映画が注目に値するのは想像力ではないだろうか。実際にチェルノブイリ原発事故が陰謀であったかどうか、本当の真相は(少なくとも私には)分からない。しかし(限りはあるが)膨大な資料と調査から導かれる<別の物語>は、現在のウクライナ情勢を見る上で非常に面白い。

 

rusian woodpecker2「Fedor,とGracia、そして Fedorの友人であり、ときどきカメラを担当してくれてもいる Artem Ryzhykovの3人は、チェルノブイリ周辺の立ち入り禁止区域を調査した。そこにはタルコフスキーの『ストーカー』(1979)の中に出てくるような、割れたガラスと蔦でいっぱいの、廃棄され、横領された施設があった。その場所で、彼の奇妙な映画を撮影するため、Fedor 自身が、裸に透明なラップでぐるぐる巻きにした状態で、手にたいまつを持ち、床に敷き詰められたガスマスクの上を歩いていった。」(*2)このように、パフォーマンス性を持ちながら、問題にアプローチしていく。

 

「ファンタジーと現実の危ない政治との衝突関係が、現在のウクライナの激しい政治状況と重なり、Fedorの奇妙な旅程で無ければきっと混乱してしまうことだろう。この映画の魅力は、そうした通常あり得ないアートと政治活動の融合から来ている。東欧民族の明るい物語=期待と、プーチン政権下の世界に向けて“第3次世界大戦が終わる”という縁起の悪い警告を要請するエンディング、ふたつのことを混同することによって。」(*3)

 

劇的な想像力は、複雑で見えにくい政治状況への新たなアプローチに成りうるはずである。この作品は2015年のサンダンス映画祭ワールド・ドキュメンタリー部門でグランプリを受賞した。10月16日に米国で劇場公開され、現在ネットでも配信を行われている。

 

公式サイト

http://www.russianwoodpecker.com/

 

引用元

(*1)埋め込みビデオ内スピーチ

http://www.indiewire.com/article/watch-ukraine-is-full-of-ghosts-in-exclusive-the-russian-woodpecker-clip-20151015

 

(*2)

http://www.hollywoodreporter.com/review/russian-woodpecker-sundance-review-768716

 

(*3)

http://www.theguardian.com/film/2015/jan/30/sundance-2015-review-the-russian-woodpecker-chernobyl-ukraine

三浦翔
アーティクル部門担当、横浜国立大学人間文化課程4年、季刊NOBODY編集部員、舞踏公演『グランヴァカンス』大橋可也&ダンサーズ(2013)出演等、映画やインスタレーションアートなどの制作活動を通じて現代社会の在り方を問う。


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