[293]コンラード・ヴォルフ賞 「映画監督」シュリンゲンズィーフへ


[293]コンラード・ヴォルフ賞 「映画監督」シュリンゲンズィーフへ

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 10月22日、故クリストフ・シュリンゲンズィーフが今年のコンラード・ヴォルフ賞を受賞した。この賞はベルリン芸術アカデミー賞によって授けられた。
 昨年のフェスティバル・トーキョーや、今年大阪大学にて行われた映像特集などで、シュリンゲンズィーフのアクショニスト/劇作家としての活躍は日本でも紹介されてきた。遠く離れた日本での反応を見ても明らかな通り、演劇人としての彼の評価は国際的にも高い。そんななか今回の受賞について特筆したいのは、この賞があくまで「映画監督」シュリンゲンズィーフに贈られたということだ。
 コンラード・ヴォルフ賞とは、映画の過去、現在、未来において功績を残した人物に贈られる賞だ。
 映画監督クリストフ・シュリンゲンズィーフはこの世を去ったが、その作品は生き続けている。というよりも、その作品はどんどん形を変えて、様々な人に影響を与え、生まれたばかりの子供のように成長し続けているのだ。
シュリンゲンズィーフの死は早すぎたが、彼の世界を見る目線は本当に唯一無二のものだった。彼の撮る映画はスタジオシステムや成功にとらわれない、自由なものだった。つまり、彼の芸術は世界への批判そのものだったのだ。その批評は直接的に作品に現れることもあったし、センセーショナルな作品を発表することで、観客の間で批評を巻き起こすこともあった。
 彼は映画の歴史やジャンルを飛び越えて、新しい発見を映画館の観客たちにもたらし続けたのだ。脚本や演出、編集は支離滅裂なこともあったが、その映像にはなにか身体に訴えかけるような強烈さがあった。ナンニ・モレッティの日記映画のように、人物をそのまま提示するのはまた違う方法で既存の映画の語り口を壊したのだ。

 シュリンゲンズィーフのファンにはパンクスが多かった。
 シュリンゲンズィーフは同世代の監督達とは違い、映画で直接社会批判をするということはしなかった。それと同時に手法においても、映画の型などは気にせずにもっと自由に映画で世界を語ったので、社会の型にはまることを嫌うパンクスの気持ちに沿っていたのだ。
 神話など様々な視覚芸術や音楽からモティーフを借りてきて、ごった煮にしたものを客の前に提供するという多層的な作風が、彼らに受け入れられたのも不思議はない。
 世界に対する批判や疑問といったものを、従来の映画の手法から離れた形で提案したのだ。それゆえ、いわゆる批評家からの評価は低かったが、味のある作家として、大衆には受け入れられた。
 シュリンゲンズィーフが描き出す世界は決して美しいものではなかったが、映画で社会にコミットしようというゴダールのような姿勢は見られた。たとえば『ドイツチェーンソー大呂虐殺』では、当時問題となっていた統一後の東西間の格差をカニバリズムを使って皮肉ってみせたし、『ユナイテット・トラッシュ』では、ヨーロッパにおけるポストコロニアリズム時代での偽善活動を皮肉るなど、当時アクチュアルにおこっていた社会問題を軽やかにとりあげ、娯楽性のつよい作品へと紹介していった。
 センセーショナルな作品を発表し続けていったシュリンゲンズィーフだったが、彼のカメラは人を傷つける武器としは機能していなかった。彼の芸術はあくまで大衆を扇動するものではなく、ただ世界の状況を写し取るための道具として使用したのだ。(*1)

去る10月24日、クリストフ・シュリンゲンズィーフは(生きていれば)54歳になった。2010年8月21日、死の直前にマックス・ダックスと行われた対談からの抜粋を以下述べる。
「私は芸術の多方面で作品を作り、しばしばそれらを並行し、つなぎあわせてきた。そうやって作品を交錯させていくことでえも言えない瞬間が訪れることがあるのだ。しかし、なにかテクストにして残すということはなんというか、気が重いのだ。なぜならテクストにした時点で思考はある種定義づけられたものとなる気がするから。しゃべる方が気が楽なんだな。そうでなければ夜中のテンションで書いちゃうとかね。夜中はなんだか神秘的なものがあるからね。」(*2)
 この言葉からもわかるように、彼の作品は常に流動的でアクチュアルであり続けた。
 死後5年が経ち、ヨーロッパにおける移民問題など社会の状況が変わった今、シュリンゲンズィーフが生きていたらこの情勢をどう切り取るのだろうかとの思いが残る。受賞をきっかけに彼の過去作に目を向け、私たちが彼の目線に近づき、カメラを撮ることで、新たに見えてくることがあるのかもしれない。

(*1)http://nachtkritik.de/index.php?option=com_content&view=article&id=11668%3Alaudatio-fuer-christoph-schlingensief-anlaesslich-der-posthumen-verleihung-des-konrad-wolf-preises-2015&catid=53%3Aportraet-a-profil&Itemid=83(*2)
http://www.spex.de/2015/10/23/schlingensief-in-der-dunkelheit-fuehle-ich-mich-wie-im-kino

藤原理子
World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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