[284]シャルリー後のフランスを映画化、“他者の恐怖”と“明日の恐怖” 


今年2015年1月7日にパリの風刺週刊誌会社が襲撃され12名が命を落とし、翌日と翌々日、銃撃戦や人質立籠りが相次ぎ、フランスのみならず世界全体を揺るがす非常事態となった。惨事から9ヶ月が経った今月7日に、シャルリー・エブド襲撃事件以後のフランス社会を映像化したドキュメンタリー『Même pas peur !』が同国で公開された。 MPP_bougies-554x312 『Même pas peur !』の映像は1月11日にフランス全土で起こった « Je suis Charlie »の大規模なデモの翌日より始まる。デモでは事件の犠牲者への追悼、反武力行使、風刺画家殺人によって脅かされた表現の自由の重要さが唱えられた。さまざまなバックグラウンドを持つ市民で通りは溢れ、デモの参加者も参加理由も多様だった。連日の事件は過去に比類を見ないような衝撃と混乱をフランス社会にもたらし、監督のアナ・ドゥミトレスクはテロ事件そのものだけではなく、それ以降の人々と社会のリアクションに重要性を感じ取った。

ドゥミトレスク監督は事件の後、人々やメディアの反応を通して一番強く受けた印象が「Même pas peur」というメッセージだったと言う。(* 2) 「Même pas peur」は訳せば「怖くなんかない」という意味になるが、このフレーズはやはり事件直後に « Je suis Charlie »デモの参加者の間などで頻繁に使われ、「テロに屈しない」という意志も込められているのだろう。

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「でもこのフレーズがまったく反対のことを言っているのです。“怖くない”と言うことは、“そこに恐怖が存在している”と逆説的に言っています。この恐怖はもちろんテロ襲撃に結びついていますが、それだけではないと感じました。」(*2)

「タイトルの“恐怖”(peur)とは何を対象としているのでしょう?」という質問にインタビューでこう答えている。「映画は二つの根源的な恐怖に軸を据えています。“他者の恐怖”と“明日の恐怖”です。両者が結びつけば痛々しい結果を引き起こすでしょう。その二つが結晶化されたのがまさに今回の事件だったのです。他者からの恐怖(ロマ人、テロ、移民、イスラム、難民など)が、フランス社会に内在していた社会的状況における恐怖と不安(失業、育児、宗教的対立、政治、アイデンティティクライシスなど)に行き着いたのです。」(*2)

アナ・ドゥミトレスク監督は多岐にわたるメディアで活躍する著名なレポーターであり、今作は二つ目の長編映画となる。前作では2012年に『 KHAOS, les Visages Humains de la Crise Grecque(カオス-ギリシャ危機の人間たちの顔-)』でその前年に勃発したギリシャ危機を市民の側からアプローチし、アテネからトリカラを辿るロードムービーという形のドキュメンタリーを撮っている。(*1) orosemane-min-2本作は20人のフランス市民に対するインタビューから成っている。シャルリー以後のフランス社会において、どのような反応や省察がなされているのか、哲学者、経済学者、アーティストや社会学者たちが彼らの分析や印象を語る。アラン・トゥーレーヌ(社会学者)、ジャン・ボベロ(歴史家・宗教社会学者)、モニク・シュミリエ=ジャンドロー(法学者)、サミア・オロズマン(ムスリム・コメディアンヌ)などが出演している。

なお先月トロント映画祭では『L’Humour à mort/ Je suis Charlie(死に至る笑い/ 私はシャルリー)』というシャルリー・エブド社の編集者たちに認可されたドキュメンタリー映画も上映された。出版社襲撃の現場にいたスタッフたちとの新しいインタビューが盛り込まれた作品となっているようだ(*3)。先月日本では、皮肉にも事件当日に発売となったフランス人作家ミシェル・ウェルベックの『服従』の日本語訳が刊行され、本国では既にベストセラーとなっている。2022年フランス大統領選挙でイスラム政党が政権を掌握するというフィクションを描いた小説だ。シャルリー・エブド事件を巡る世界的反響の波はまだ収まることはなく、この現象が単なる偶然的なものでも一元的なものでもないことを強く示している。『Même pas peur !』は歴史に残る激変を経験し、世界から注目を浴びている共和国が今後どのような道を進んでいくのかを垣間見せてくれるだろう。

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1) http://www.memepaspeur-film.com/

2) https://www.youtube.com/watch?v=3DcRTYE4nd4

3) http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/reviews/je-suis-charlie-toronto-film-festival-review-a-powerful-eulogy-for-the-victims-10508650.html

保坂瞳 上智大学外国語学部フランス語学科所属。都内のとある映画館スタッフ。ときに宗教学。『ドリーマーズ』のような生活を夢見てパリに行くが、どこまで成就したのかは分からない。好きなものは抽象名詞。


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