第67回カンヌ映画祭は、トルコ映画『Winter Sleep』を最高賞に選んで無事閉幕した。コンペティション部門には、巨匠たちの新作を中心に充実した作品が並び、それぞれに対する評価の声も高かった。しかしながら、日本の各種メディアは、パルム・ドールの行方を含めたコンペ部門以外を、あまり積極的に取り上げることはなかったように思う。もちろん、コンペが映画祭において大きな目玉となることは否定できないが、カンヌには他にもさまざまな部門が存在している。

例えば、映画祭の会長ジル・ジャコブが創設した「ある視点」部門。ここには、新人監督による作品や、実績のある監督の野心的な作品が並ぶ。非コンペながら審査員も存在し、過去の受賞作としては、黒沢清の『トウキョウソナタ』や、キム・ギドクの『アリラン』などまさに先鋭的な作品ばかりだ。また近年では『わたしはロランス』のグザヴィエ・ドランなど、新しい才能が発掘される事例も数多く存在する。コンペ部門が比較的有名な監督で埋められる事を考えると、「ある視点」部門はいわば、“コンペの足りない部分”を補う部門であると言えるだろう。逆に言えば、この部門を知ることなしに「カンヌの全貌」を理解することはできないはずだ。

今回「ある視点」部門で作品賞を受賞したのは、コーネル・ムンドゥルッツオ監督の『The White God』(ハンガリー・ドイツ・スウェーデン合作)。純血種を優遇する法律が適用されたことをきっかけに、人間と犬との間で戦いが起こるというもの。いわば『猿の惑星』の犬バージョンのようなテイストで、現代のヨーロッパの姿を象徴的に示した作品だ。「ホラー映画やディズニー映画といった1つの枠に当てはまらない、そうした点が魅力的な作品」(*1)といった評価を受け、主役と呼べる犬ハーゲンを演じたボディとルークには、もっとも優れた演技(?)をした犬に与えられる「パルム・ドッグ」賞が与えられた。

審査員賞はスウェーデン映画『Turist』。雪山での事件をきっかけに、一家での信頼が揺らぐ父親。彼はなんとか家庭内の地位を取り戻そうと奮闘し、その過程を通して現代の家族のあり方が問い直されていく。リューベン・オストルンド監督は「映画史上、最高に派手な雪崩のシーンを作ることができた」と語り(*2)、それが映画の上でも、大きな目玉になっているよう。オストルンドは今回が4作目という若い監督であり、今後はコンペティション部門での登場も期待される。

また、新人賞(カメラ・ドール)、アンサンブル賞を合わせて受賞した、『Party Girl』も注目作の1つだった。マリー・アマシューケリをはじめとした3人の監督によって撮られた本作は、60歳のホステスの、常連客との恋が中心的なプロットとなる。批評では賛否両論あるものの、「『変われない』女性の心理を知る上で興味深い作品だ」(*3)といった評価もあり、複数の監督ならではの利点も生かされているよう。

他にも、マチュー・アマルリックの心理スリラー『The Blue Room』など、俳優を本業とする監督たちの3本の作品や、ヴィム・ヴェンダースによる世界的写真家を追ったドキュメンタリー『The Salt Of The Earth』など、それぞれ上記の作品も含め、まさにバラエティに富んだ21作品が揃った。評価は作品によって差があったとはいえ、これらの作品が今年のカンヌを、色濃く飾ったことは間違いない。

上記のような作品が、日本で公開される機会は現状あまり多くはない。しかしながら、「ある視点」部門を含めたコンペ外のラインナップ、批評家週間や監督週間などの出品作には、世界の映画の現状や、監督の知られざる顔を見ることが出る作品が多く存在している。そうした作品に触れることで、コンペでは見えてこなかった一面も、私たちには確かに見えてくるだろう。カンヌの多様性を深く知るために、より“知られざる”映画へと、興味の幅を広げてみることが重要ではないだろうか。

若林良

(*1)
http://www.filmcomment.com/entry/cannes-2014-homesman-mr-turner-foxcatcher-maps-to-the-stars-saint-laurent
(*2)
http://www.festival-cannes.com/jp/theDailyArticle/60953.html
(*3)
http://www.filmdivider.com/cannes-party-girl-review/


コメントを残す