[272] イングリッド・バーグマン生誕100年


今年は20世紀を代表する国際的女優のひとり、イングリッド・バーグマンの生誕100周年の年です。5月に開催されたカンヌ国際映画祭の公式ポスターで彼女の写真が使用されたのをはじめ、すでに世界各国で回顧展や記念イベントが開催されているようですが、彼女の誕生日(1915年)であり命日(1982年)でもある8月29日から、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で”Ingrid Bergman: A Centennial Celebration”と題されたエキシビションが始まりました。[*1] 9月10日まで開催されるこのエキシビションでは、ハリウッド進出のきっかけとなったスウェーデン映画『間奏曲』(36年、3年後に『別離』としてリメイク)、ハリウッド時代の代表作『カサブランカ』(42)『ガス燈』(44)『聖メリーの鐘』(45)、ヒッチコック作品からは『汚名』(46)と『山羊座のもとに』(49)、そしてバーグマン自らがラヴコールを送り、私生活でもパートナーとなったロベルト・ロッセリーニの『ストロンボリ/神の土地』(49)『イタリア旅行』(53)『不安』(54)など全14作品が上映。またバーグマンの3人の娘たち、ピア・リンドストローム(ジャーナリスト)、イザべラ・ロッセリーニ(女優)、イングリッド・ロッセリーニ(イタリア文学者)によるティーチ・インも行われます。

MoMAでの回顧展に先駆けて、The Guardianに掲載されたイザベラ・ロッセリーニのインタヴュー[*2]によれば、彼女はMoMAのキュレーター、イェッテ・イェンセンさんと一緒に2006年からこの展覧会の企画を進めていたとのこと(不幸なことに、イェンセンさんは今年の3月に亡くなられたそうで、このエキシビションは彼女に捧げられています)。
イザべラ・ロッセリーニはインタヴューの中で、母親であり同業者でもあるバーグマンについてこのように語っています。
「彼女(バーグマン)が女性に愛されたのは、飾らず淡々としているように見えたからでしょう。彼女はハイヒールを履きませんでした。“だって背中が痛くなるのに、何故履かなきゃいけないの?”と言ってね。踵の低い靴は履いていましたけど、ハイヒールは一度も履いたことがありませんでした」
さらにロッセリーニは、『ストロンボリ/神の土地』の撮影前に父親であるロベルト・ロッセリーニがバーグマンに宛てた手紙についても紹介しています。
「父はこう書いています。“車で走っていた時に遠い場所から流れてきた難民キャンプの一行を見かけました。その中にいたひとりの金髪の女性がまるで私を誘惑するかのように微笑みかけてきました。私は彼女がキャンプの外に出たがっているのだ、そうしなければもはや存在しないかもしれない祖国に送還されてしまうと恐れているのだと思いました。”この美しい手紙は、映画監督がどのように仕事をし、映画の着想を得ているかを示すものです」

MoMAでのレトロスぺクティヴの後も、イングリッド・バーグマンの生誕100年を記念したイベントや上映は続きます。9月12日~29日にはBAM(ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック)[*3]で特集上映が開催。初日にはウェズリアン大学で保管されていた[*4]バーグマン自身が撮影した写真や映像の上映とともに、彼女が書いた手紙や自伝をイザベラ・ロッセリーニとジェレミー・アイアンズが朗読するパフォーマンス”The Ingrid Bergman Tribute”が行われます。このパフォーマンスはロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールやパリのテアトル・ドゥ・シャトレでも上演されるとのこと。ロッセリーニによれば、同パフォーマンスで公開される写真の中には、「村がまるごと建設された巨大なセットの中に大勢のスタッフやエキストラがいる『ジャンヌ・ダーク』のようなハリウッド大作の撮影風景」が収められた写真がある一方で、「スタッフが13人しかおらず、関係ない人が私の母のそばを歩いている」ロッセリーニの撮影現場を写したものなどもあり、映画史を知る上でも貴重な写真がたくさんあるようです。

さらにバーグマンについてのドキュメンタリー映画”Ingrid Bergman — In Her Own Words”の公開も始まっています。今年のカンヌ国際映画祭に出品された同作は、8月24日にバーグマンの故郷であるストックホルムでプレミア上映が行われたばかりです。監督はイングマール・ベルイマンやラース・フォン・トリアーのドキュメンタリーを手掛けてきたスティーグ・ビョークマン。Varietyに掲載された彼のインタヴュー[*5]によれば、彼にドキュメンタリーの制作を持ちかけたのもイザベラ・ロッセリーニで、同作でもバーグマンが生涯に渡って保管し、その死後は彼女の子供たちやウェズリアン大学によってアーカイブ化された膨大な書簡や日記、写真、8ミリ/16ミリフィルムで撮影された映像が重要な役割を占めているといいます。
「彼女(バーグマン)はほぼ全てを保管していた。彼女の両親が婚約期間に交わしていた手紙まで残していた。彼女はそうすることであまりにも早く失くしてしまった家族のことを記憶し、身近に感じようとしていたんだと思う。イングリッドは3歳で母親を、13歳で父親を亡くしているからね。スウェーデンからハリウッド、そしてイタリア、パリ、最後はロンドンと移動ばかりの人生だったにも関わらず、彼女は生涯に渡って自身のアーカイブを手元に置いていたんだ」
「僕は彼女のプライベートとプロフェッショナル、両方の人生について多くのことを学び、彼女の勇気と独立心に深い感銘を受けた。彼女は私生活と出演作のどちらをとっても初期のフェミニストだった言える。映画の観客たちも型にはまらない選択をしてきた彼女の人生に心を動かされてきたはずだ。この映画によってイングリッド・バーグマンというひとりの人間の、新しく、より豊かな、驚きに満ちたイメージを与えられたら嬉しい」
”Ingrid Bergman — In Her Own Words”は10月頭にニューヨーク映画祭で上映された後、11月からアメリカで公開。現時点では20カ国での公開が決まっているそうです。

INGRID BERGMAN - IN HER OWN WORDS

*1
https://www.moma.org/visit/calendar/films/1592

*2
http://www.theguardian.com/film/2015/aug/24/ingrid-bergman-centennial-celebration-moma-isabella-rossellini

*3
http://www.bam.org/theater/2015/the-ingrid-bergman-tribute

*4
http://www.wesleyan.edu/cinema/collections/bergman.html

*5
http://variety.com/2015/film/festivals/haugesund-bjorkman-ingrid-bergman-1201571027/

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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