【250】マティアス・ピニエィロ監督が選ぶシェイクスピア原作映画


日本では2014年に紹介されるなど、少しずつ名前を広めつつあるマティアス・ピニエィロ監督。ブエノスアイレスに生まれた彼は、ラテンアメリカの新進気鋭の監督として世界中で注目されつつあります。彼の作風はずばり、古典文学と映画の関係を探るスタイルです。彼の全5作品中『The Princess of France』、『ロザリンダ』と『ヴィエラ』はシェイクスピアの演劇から、あとの二作品『盗まれた男』と『みんな嘘つき』もアルゼンチンの作家からそれぞれ着想を得ています。

 

ピニエィロ映画では、まるでリヴェット映画のように演劇のリハーサルが繰り返されます。Filmcomment誌では以下のように紹介されています。

「専属の役者たちと続けて仕事をしていくことが、繰り返しの役割を際立たせます。彼らは互いの役を交換して劇を上演するだけでなく、現実生活でも入れ替わることが出来るかのようなのです。」(*1)

彼の作品は、いわば世界=劇場のような、つまりシェイクスピア的問題系にあると言って良いかもしれません。

 

そうした彼の作品は日本で簡単に見れません。これからのチャンスを待つしかないのですが、少しでもどのような映画を撮る監督か分かる情報を送りたいです。今回はIndiewire誌に掲載された記事(*2)から、彼が評価するシェイクスピア劇の映画とそのコメントを紹介することで、彼の作品を夢想する種になればと思います。重要なモチーフとなる演劇と映画の関係をどう評価するかは、彼が映画をどう考えるか覗き見ることになるはずです。

 

『オーソンウェルズのファルスタッフ』(オーソン・ウェルズ,1965)

「驚くべき、一番好きな作品です。オーソン・ウェルズの作品はシェイクスピア劇を撮るにあたって最も参考になりました。『オーソンウェルズのファルスタッフ』の驚きは、どのように原作のテキストを使うかという点です。私は、原作と映画を何度も見比べて、彼が使わなかったところを消していきました。すると彼がどれだけ残虐であるか、ということに驚いたのです。多くの人はそうは思わないかもしれません(…)しかし、いつ原作に干渉すべきかを彼はきちんと心得ていたのです。そうしたことに驚き、安心しました。」

 

『ヘンリー5世』(ローレンス・オリヴィエ,1944)

「素晴らしい作品です。この作品は偉大な劇中劇の映画として評価されるはずだったかと思います。ですが、それは間違っています。実際は、ローレンス・オリヴィエ監督が予想を大きく裏切ってくることに気付くでしょう。演劇を映画の中に取り込むには、美しいやり方です。彼は、演劇の映画化ではなく、演技をしていることを見せるのです。ヘンリー5世でいるとは、その時代の人間であるとはどういうことか。この映画の観客は、演劇の上演をしているところを見ることから始まり、グローブ座の中で人々が劇を見ている姿、ステージの裏側を見ることになります。そのとき、スタジオの内部に進むほど奇妙なものが出てくるのですけど、遂にはフランスの戦場に行き着くわけです。とても不思議なシーンですが、劇場から始まり、『ブレイブハート』のような戦場へと我々を連れて行くようになっているのです。」

 

『キス・ミー・ケイト』(ジョージ・シドニー,1948)

「この映画は単純に翻案せず、『じゃじゃ馬馴らし』を新しい物語を作るための道具にしています。それは原作を二重化ないし、反転させるようなことです。俳優が俳優の役をやるところを見ることが楽しいのです。というのも、彼らの仮面が晒されるために、喜びはその成果から得られるからなのです。ということから、翻案として無理に成立させるのではなく、シェイクスピアのコンセプトとして成立する映画があることを知った初めての作品なのです。」

 

このように、ピニエィロ監督は単純に文学の映画化ということを考えていません。文学と映画、演劇と映画の間にある様々な条件の違いを、むしろ利用して、新しいものを作りだしている作品を評価しています。さらにそのことが、結果的にシェイクスピアを最もよく現すということに気付いてる監督なのではないか、ということも伺えます。また、雑誌『NOBODY』42号(*3)には日本語で読めるインタビューも載っているのでそちらも是非参考にして、このマティアス・ピニエィロ監督のことを知って欲しいです。

 

(*1)http://www.filmcomment.com/entry/film-of-the-week-the-princess-of-france

(*2)http://www.indiewire.com/article/5-essential-shakespeare-adaptations-from-the-director-of-the-princess-of-france-20150629

(*3)NOBODYサイト

http://www.nobodymag.com/

日本公開時のアップリンクとアテネフランセのページ

http://www.uplink.co.jp/event/2014/30794

http://www.athenee.net/culturalcenter/program/pi/pineiro.html

 

三浦翔
アーティクル部門担当、横浜国立大学人間文化課程4年、映画雑誌NOBODY編集部員、舞踏公演『グランヴァカンス』大橋可也&ダンサーズ(2013)出演、映画やインスタレーションアートなど思考するための芸術としてジャンルを定めずに制作活動を行う。


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