orson処女作『市民ケーン』を代表に、監督として、ときに俳優としても名高く語り続けられるオーソン・ウェルズ。
彼の生誕100周年を迎えた今年、その知られざる未完の遺作がクラウドファンディング団体・Indiegogoの活動により息を吹き込まれようとしています。

この革新的な活動を紹介する前に、クラウドファンディングとは何か、について簡単に触れておきましょう。
直訳すると「群集による資金調達」を意味するこの概念、徐々に浸透しつつあるものの、その実態をどことなく身近に感じられない人も少なくないはず。そのような難解なイメージを払拭するかのように、Indiegogoのサイト上では活動の流れが単純明快な3つのステップで示されています。

1. Start a campaign(行動を起こす)
2. Activate your community(活動を広げる)
3. Fund your dream(集めた資金で夢を叶える)

Indiegogoをはじめとするクラウドファンディング団体はこのステップを踏まえ、「個人のアイディアを公的にバックアップし、グローバルなコミュニテイの力で夢を実現させる」ためにさまざまな活動を行っています。*3

さて、そのような数多くの「夢」の一つに選ばれたウェルズの遺作、『ジ・アザー・サイド・オブ・ザ・ウィンド(原題:The Other Side of the Wind)』とは一体どのような作品なのでしょうか。

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ウェルズは1985年に70歳で没しましたが、1970年からの15年間、この作品の制作に情熱を燃やし続けたと言われています。「ハリウッドにおける友情、裏切り、メディアを巡る野望のなかで映画を取ろうとした伝説の映画監督」を描いたこの映画を、出演者の一人であるピーター・ボグダノヴィッチは現代で言う「モキュメンタリー」と称し、生誕100周年が映画を完成させるにふさわしい機会だと語っています。
「この究極のモキュメンタリーが生誕祭の場で上映され、監督の生涯最後の日々を映し出す。その場に招かれた記者、学生、映画志望者といった人々がこぞってカメラやスマホを手にその映像を記録し、そうしてようやく映画は完成を迎えるのだ。」*1

ボグダノヴィッチは70年代の制作当時、ウェルズと映画の完成を誓い合ったものの、ウェルズの死後30年にわたる権利闘争により、フィルムは未完のまま陽の目を浴びることはありませんでした。

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その状況を打開するかもしれないindiegogoの活動に、ボグダノヴィッチやプロデューサーのフィリップ・ラムザ、ウェルズの娘であるベアトリス、そしてウェルズの長年の制作パートナーであるオヤ・コダールら関係者は、概ね一致した見解を示しています。
「ウェルズは、うまくいけば一般市民が映画を完成させてしまう、という皮肉ともいえる状況をさぞ楽しんだことだろう。もし彼が生きていたら、すぐさまクラウドファンディングに関心を持ち飛びついただろうね。そして今実際にこの方法で映画が完成するかもしれないことを満足気に眺めているだろうし、そのためにこそ、こうして我々は奮闘しているんだ。」*1

ウェルズが生前に着手できた本編は約45分と一部に過ぎず、それ以外の部分はラムザの手元に残された制作ノートをもとに編集していかなければなりません。その必要制作費としてindiegogoでは200万ドルの調達を目標としていますが、現状の達成率は1/4と、まだまだ苦戦中といえるでしょう。 *2
なお、寄付の金額は10ドルから10万ドルまで幅広く選ぶことができ、更に一定の金額を越えるとスタッフとのディナー、クレジットへの氏名記載、国際上映への招待など、出資者ならではのレアな特典も付属します。

日本でも似た事例として、2013年の小津安二郎生誕110年を記念した『晩春』デジタル修復プロジェクトが記憶に新しいですが、こちらは活動団体・READYFORのサイト上で約600万、121%という目標額以上の達成率にて成功を納めています。*4
クラウドファンディングにおける寄付の対象は様々ですが、資金繰りと宣伝の問題が避けては通れない映画において、このような個人の行動と公的な活動が融合するシステムはより高い相乗効果が期待できるのかもしれません。

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ウェルズが晩年執心した本作が幻のままに終わるか、それとも映画史を塗り替える作品として世に出るかどうかは、まさにわたしたちの手、正しく言えばその指に委ねられているのです。

参考
*1
http://www.indiewire.com/article/you-can-help-finish-orson-welles-final-film-20150507

*2
http://blogs.indiewire.com/thompsononhollywood/checking-in-on-that-orson-welles-crowdfunding-campaign-20150611

*3
https://www.indiegogo.com/projects/finish-orson-welles-last-film#/

*4
https://readyfor.jp/projects/ozu_remastering

西山晴菜
WorldNews部門担当。早稲田大学文化構想学部卒。大学では主にフロイト精神分析と映画理論を研究。フットワークの軽さだけが自慢。映画・放送業界の片隅で日々駆け回ってます。


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