[248]ドイツ映画賞総なめ 新たな波”Victoria”とは
先月19日、第65回ドイツ映画賞の受賞作品が発表された。9月に日本で公開が決まっている『ぼくらの家路』が銀賞、2014年度のベルリナーレで好評を博した若手作家による”Zeit der Kannibalen”(人食い人種の時代)が銅賞、脚本賞に輝いたほか、最優秀ドキュメンタリー賞にはエドワード・スノーデンの暴露事件を描いた”Citizenfour”が選ばれ、8月に日本でも公開されるクリスチャン・ペッツォルト監督の『あの日のように抱きしめて』のニナ・クンツェンドルフには助演女優賞が授与された。
名誉賞はファスビンダーなど著名な監督たちと共に働き、ドイツ映画界を長年コスチュームディレクターとして彩ったバーバラ・バウムへ送られた。680,000,000ユーロの興行収入を誇り前年度最も多くの観客動員数を獲得したのは、コメディの名匠であるティル・シュヴァイガーだった。(*1)

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そんな中、『ギガンティック』の監督として知られるセバスティアン・シッパー監督の“Victoria”が金賞、監督賞、主演女優賞、主演男優賞、撮影賞、音楽賞を総なめにした。

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物語はスペイン人の少女ビクトリアがベルリンのクラブで少年たちと出会うことから始まる。「太陽」、「ボクサー」、「ウインカー」、「足」と名乗る少年たちと意気投合し、そのなかの「太陽」に惹かれたヴィクトリアはクラブをあとしに、ベルリンの長い夜を楽しむ。遊びは次第に激化し、ヴィクトリアは運転手として突然犯罪の片棒を担ぐこととなるのだった。(*2)
映画が映しだす街は果たして真実なのだろうか、というのは映画黎明期から作家たちが常に考えてきた命題だ。俳優、監督として知られるシッパーは、大都市の路上で繰り広げられる息もつかせぬ物語を驚くべき手法で描き出す。カメラは時間と無数の空間をつなぎ合わせ、140分ワンシーンワンカットで物語を追いかける。脚本はたった12ページのシナリオしか用意されず、撮影はリアルタイムで行われたという。観客は本当にリアルな夜のベルリンの街を登場人物とともにドラマチックに旅することになるのだ。

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作品への評価に対し、シッパーはこう語る。
「私は映画においてカットを用いないということに関しては、芸術的に特別な意味を持つとは考えていない。しかしながら、このことが評価されて受賞したということは明らかだ。若い映画が人物造形に対して消極的な姿勢を保ちつつあると、我々は狭い視野で評価しているかもしれない。私はリアルな街頭でリアルな人物を撮りたいのだ。そのためにこういった手法を用いた。」(*3)
メトロポリタン化し、世界一ヒップな街とも称されるベルリンでは、近年こういった映画が良くとられている。そのひとつの例として、この作品は将来ベルリンの街のアーカイヴとしても観直されることとなるだろう。

(*1) ドイツ映画賞
(*2) epd-film.de
(*3) Spiegel誌インタビュー

藤原理子
World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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