日本では『熱波』が公開され話題となり、昨年には新文芸坐シネマテークで『自分に見合った顔』(2004)『私たちの好きな八月』(2008)の二作が公開されたミゲル・ゴメス監督。彼の作品は徐々に注目を集めていると言っていいでしょう。そんな彼の新作がシドニー映画祭でグランプリを受賞したようです。

Arabian Nights

新作『Arabian Nights』(2014)は、タイトルの通り「千夜一夜物語」を原作としています。しかし、そこで描かれるのは現代のポルトガルです。The Hollywood Reporterでは「この三部作は、社会のあらゆる正義が政治的圧力によって否定されて行くなか、シェヘラザード(「千夜一夜物語」の作者)が語る話と2013年から2014年に起こったポルトガルの事件から着想を得ています。」(*1)というカンヌのアーティスティックディレクターEdouard Waintropさんのコメントが紹介されています。また、シドニー受賞に際しては「一本の映画の野心と政治的なヴィジョンが直面し、挫折し、魅了し、そして最終的に思い出させるのは映画というものが人間の現状を考えるためのパワフルな乗り物だということ。『Arabian Nights』はそうした映画の一本なのです。」(*2)と審査員によって語られていることが報じられています。

 

「千夜一夜物語」をそのままアダプテーションするのではなく、その構造と記述を巧みに現代と融合せて綴られる、現代ポルトガルの“叙事詩”とも呼ばれるだけあって、作品は三部構成になっており、その合計の長さは6時間半にも及ぶようです。この映画がそうした現代の問題を扱っていることは、下のリンクから見れるその予告編を見ただけでも一目瞭然だと思います 。

http://www.indiewire.com/embed/player.jsp?videoId=0000014d-4885-d6e9-a96d-fbd7dcb30000&width=480

現代のポルトガルを語る上でも重要になって来るであろうこの作品を、日本で見て議論が出来る日を心待ちにしたいと思いますが、もしかしたら少し手を伸ばしてでも見なければいけない作品なのかもしれません。

 

さて、もしかしたら、シドニー映画祭は聞きなれない映画祭かもしれませんが、実は世界的に大きな映画祭です。カンヌ国際映画祭でプレミア上映された映画がいち早く公開される場所にもなっており、また、コンペ作品以外にも多数の作品が非コンペ作品として上映される機会にもなっているため(2014年度に上映されたのはなんと192作品)、世界中から映画ファンが駆け付ける映画祭になっているようです。実は、歴史的にも古く1954年にシドニー大学で始まってから、約60年以上も続く名誉ある映画祭なのです。受賞作品の選定などに関して言えば、ニコラス・ウェンディング・レフンやスティーヴ・マックイーン、クサヴィエ・ドランなど、巨匠というよりも新しい世代の監督を評価していくような傾向があります。

 

『Arabian Nights』は先日のカンヌ国際映画祭の監督週間でプレミア上映されました。カンヌでは受賞されることは無かったのですが、シドニー映画祭でいち早く上映されこうしてグランプリを受賞するというのは、ミゲル・ゴメス監督がいまドンドンと波に乗って行く予兆のような気さえしてきます。

 

(*1)http://www.hollywoodreporter.com/news/cannes-directors-fortnight-adds-miguel-789901

 

(*2)http://variety.com/2015/film/asia/arabian-nights-wins-sydney-festival-prize-1201519587/

 

(*3)http://www.indiewire.com/article/watch-epic-arabian-nights-trailer-introduces-this-years-most-ambitious-cannes-premiere-20150512

 

三浦翔
アーティクル部門担当、横浜国立大学人間文化課程3年、映画雑誌NOBODY編集部員、舞踏公演『グランヴァカンス』大橋可也&ダンサーズ(2013)出演、映画やインスタレーションアートなど思考するための芸術としてジャンルを定めずに制作活動を行う。


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