[235]「ドイツ映画史」映画化へ

ドイツ映画史上最も有名な本、ジークフリート・クラッカワーの『カリガリからヒトラーへ』が映画批評家であるリューディガー・ズーフスランドによってドキュメンタリーという形で映画化される。
1933年以前のドイツ映画の源泉を探し、どのようにその後全体主義が取り沙汰されるようになったのかを暴いていくという内容だ。
この映画化にともない、ファティ・アキンやフォルカー・シュレンドルフらも協力し、ワイマール共和国の映画の心理的構造を分析する。つまり、戦争への恐怖で国全体が社会不安に陥っており、それゆえ強いリーダーの存在を渇望していた時代の映画をということになる。(*1)

『カリガリからヒトラーへ』は1948年に英語で出版され、映画理論、映画分析と社会批評、心理学的分析といった複合的な視点からワイマール時代のマスメディアである映画を紐解いた。この本はドイツでは長い間オリジナル版では出版されていなかった。ワイマール時代の精神的歴史を直視することは避けられていたからだ。

ズーフランドはこの20年で格段に成長したフィルムアーカイブやムルナウ財団の力をかりて、『カリガリからヒトラーへ』の世界をより強固なものにした。

方法論としても、彼はクラッカワーの道から外れている。「大衆時代のドイツ映画」というコピーはクラッカワーの「ドイツ映画の心理的歴史」よりも攻撃的な印象を受ける。ここから彼のスタンスが見て取れる。
『カリガリ博士』など、表現主義的な現実と虚構の境を不可視化する動きを、クラッカワーはワイマール時代の特徴としてあげている。またもう一つの特徴として、現象学的傾向をあげているが、彼はウルマーの『日曜日の人々』を典型的な代表として映画の中であげている。ズーフランドはまた、クラッカワーの社会性よりリズムや大都市の偶然性に重きを置くモダニスト的視点に興味を示している。

ゴダールの『映画史』もまた、『カリガリからヒトラーへ』の映画化と言えるかもしれない。しかし、技術の進んだ現代において、さらなる素材を手にしたズーフランドのような批評家によってだからこそ、今回の映像化は実現したのかもしれない。(*2)

(*1) Filmportal.de
(*2)taz.de

藤原理子 World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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