[233] デジタル時代の映画館が生き残っていくには – Netflixの映画市場への参入


私がイギリスに留学して驚いたことの一つは、家庭のテレビに、もとからNetflixやYouTubeが内蔵されている、ということです。ほとんどの街に、住宅地から徒歩圏内の距離に映画館(大型のシネコンとミニシアターの両方)があり、日常的に映画が話題にのぼるなど、日本より映画が身近なのだなとは感じていましたが、そのテレビの存在を知ったときはびっくりしました。Netflix、iTunes、 Amazon(*1)などの映画業界への参入により、映画の劇場配給は、かつてないほどの脅威にさらされています。時代とともに映画の見かたが変化していく中で、映画館の将来はどうなっていくのでしょうか。

先月おこなわれたカンヌ国際映画祭では、Netflixのコンテンツ部門の代表テッド・サランドスが、映画産業への進出を表明しました。現在、Netflixは、アダム・サンドラー主演の『The Ridiculous 6(原題)』、キャリー・フクナガ監督の『Beasts of No Nation(原題)』を含める、5つほどの長編映画のプロジェクトを進行中です。これらの映画の制作費は莫大ですが(1000万ドル(約13億円)から5000万ドル(約65億円))、そのうちいくつかの作品は劇場公開されず、Netflixでの公開になる予定です。#1

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サランドスは、Netflixがしていることは、反映画産業でも、反映画館でもなく、映画産業自体を大きくするためだと主張しました。「私は、消費者により多様な映画の見かたの選択肢が与えられるならば、一本の映画からより多くの利益を産むことが可能だと思います。たとえば、映画が劇場公開と同時に家庭でも観られるようになれば素晴らしいと思っています。その場合、たしかに映画館は少し負けてしまうかもしれませんが、映画産業自体は大きくなることでしょう。」#2

アメリカの興行収入の記録は、こうした配信事業により劇場鑑賞が影響を受け、ヒット作がうまれないのではという懸念が差し迫った問題でないことを示唆します。たとえば、最近では『アメリカン・スナイパー』や『ワイルドスピード7』の成功が、映画館での鑑賞の需要がまだあることを証明しました。#3

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しかし、イギリスでの状況は真逆です。独自の配給の増加と、劇場と家庭用エンターテインメント機器での同時公開の影響を受けて、多くの映画が短期で劇場公開を切り上げていき、昨年は英国で最も多くの映画が、最も短期で公開された年になりました。イギリスの映画製作者たちは、多くの映画が公開されればされるほど、一本の映画に対する鑑賞者の数は減り、支持者をつくるチャンスがなくなり、正当な評価がくだされないのでは、と危惧しています。#4

これに加えて、デジタル時代の映画製作者の生き残りを脅かすものがもう一つあります。映画配給協会の欧州委員会は、映画が国単位の規制にのっとって配給されるという伝統的な市場を見直し、統一のルールを持つ「一つのデジタル市場」と入れ替えるという計画を立てています。ヨーロッパの映画市場がいくつかの強国にコントロールされてしまうのではないか、ビジネスの合理性と文化的な多様性は両立できるのかなど、議論がおこっています。#5

このような状況の中で、『英国王のスピーチ』のプロデューサー、ガレス・エリス−アンウィンは、「これからの時代、映画コンテンツ産業のどんな新しい機会でも歓迎しなければなりません。これからは、映画配信企業と映画配給の争いは続くでしょう。」と指摘します。しかし、一方で、配信事業の活動は小規模のインディペンデント映画には影響を与えないと、補足します。「低予算の映画をNetflixが欲しがるのは、遠い将来のことで、インディペンデント映画は、小規模作品のための特別な市場にとどまるでしょう。そのかわり、映画館は自ら新しい環境に順応していかなければなりません。コンサートの生放送をしたり、映画に対する感性を養うイベントをおこなったり、ヒットが確約されていない映画にチャンスを与えたり、独自の活動をすることが大切になっていくでしょう。」#6

そのような映画館のこころみの一つとして、ロンドンのClose-up Film Centreではこの夏、約一ヶ月に渡りジョン・カサヴェテスのオリジナルの35mmフィルムの上映がおこなわれます。館長は、この画期的なイベントについて、以下のようにコメントしています。「これらの映画は理由があって35mmフィルムで撮影されました。私たちがそのことを尊重して、彼らが見せたかったものを見せるのは言わずもがなです。デジタルテクノロジーの進歩は映画に多くのものをもたらしましたが、一方でフィルムの個性もより明確になりました。美術館では、オリジナルの油絵でなく、プリントした複製を展示することはしません。私たちがやっているのは、それと同じことです。」#7

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さまざまな脅威にさらされる中、映画館が生き残っていくには、革新的な配信事業に対抗できる創意工夫が必要となっていくのではないでしょうか。しかし、映画館でこそ観られるべき映画、映画館でしか観られない映画があることも事実です。劇場での体験が特別である限り、映画館は生き残っていくでしょう。

*1 Amazonの傘下で、ストリーミング配信向けコンテンツを制作するAmazon StudiosがTVシリーズの製作の契約をウディ・アレン監督と結んだ。

[World News #152] ウディ・アレン監督初のTVシリーズ決定 http://indietokyo.com/?p=509

#1,2

http://variety.com/2015/film/news/cannes-ted-sarandos-on-how-netflix-will-revolutionize-the-movie-business-1201497272/

#3,6,7

http://www.theguardian.com/film/filmblog/2015/jun/05/the-film-distributors-association-has-turned-100-so-whats-the-current-life-expectancy-for-cinematic-releases

#4

http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/british-film-institute-twentythree-films-released-in-one-day-stop-the-madness-10220046.html

#5

http://www.screendaily.com/news/distribution/lord-puttnam-sees-eu-digital-strategy-shift/5085936.article

掲載画像1

http://www.gadgethelpline.com/netflix-signs-adam-sandler-4-original-movies/

掲載画像2

http://www.impawards.com/2014/american_sniper_ver2.html

掲載画像3

http://www.closeupfilmcentre.com/film_programmes/2015/close-up-on-john-cassavetes/

北島さつき World News担当。早稲田大学卒業後、現在は英国、レスター大学の修士課程 Film and Film Cultures MAにて世界各国の映画作品、産業、文化について勉強中。


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