[225]神格化されたファスビンダーへ、現代からの目線

ベルリンのマルティン・グローピウス・バウで8月15日まで、『ファスビンダー NOW』展が開催されている。この展示は、ベルリン演劇祭とフランクフルトドイツ映画博物館、ファスビンダー財団の共同で作られている。今年はファスビンダー生誕70周年なのだ。  
展示は「ファスビンダーとはどのような人物だったのか、彼が引き起こしたのはどのような現象だったのか」という直接的なものを提示する構成となっている。ただ、ここで提唱されるイメージを額面通りに受け取ってはいけない。なにせよ、この展示にはファスビンダーの遺産で食べているユリアーネ・ローレンツら「ファスビンダー基金」が関わっているのだから。

第一展示室は、彼を「芸術の救世主」として扱う国際的な批評や、9つのモニターに映し出されるインタビュー映像など、ファスビンダーの人となりがわかる構成となっている。映画を撮り始める前から活動していた「アンチテアター」という彼の劇団についての記述もあり、彼がその後この劇団のメンバーとともにコミューン的な制作活動をしていった根底にある彼の孤独への恐怖を観察することができる。
ほか、制作風景や台本、絵コンテなども彼の仕事場というかたちで展示されている。台本にはサッカーリーグの成績表など彼の落書きもみてとれ、プライベートな趣向も観察できる。2000ものビデオカセットを収納する棚には、ヒッチコックやカーティス、サーク、シュタウテなどの作品が並ぶ。 その他、『マリア・ブラウンの結婚』などの撮影に使われた衣装の展示もある。 神格化された監督というイメージは今も残る。

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(ミン・ウォン 『ぺトラ・フォン・カントとドイツ語を学ぼう』)

あくまで『ファスビンダー NOW』と題されたこの展示で、現代のアーティストたちはファスビンダー神話をどう扱っていくのだろうか、ということが以降の展示室では展開される。 1998年にルナ・イスラムが制作した映像は、ファスビンダーの傑作メロドラマ『マルタ』(74)のなかでファスビンダーと彼のカメラマンであったバルハウスが撮った、有名な720°回転のカットを解説する。(*1) ほか、トム・ジーンズ、マリアム・ジャフリ、ミン・ウォン、ジェフ・ウォールなどの作家陣が、ファスビンダーという神話的作家をモチーフに彼ら自身のファスビンダーについての理解を提示し、今日におけるファスビンダーついて、その手法やモチーフ、テーマへの考察をする。(*2)

ausstellung-zu-rainer-werner-fassbinder2 展示はファスビンダー自身のポートレートで終わる。西ドイツの天才として神格化された夭折の監督は何を考えていたのだろう。彼は、「演劇におけるシェイクスピア、心理学におけるフロイト、政治におけるマルクスように、映画といえばファスビンダーという存在になりたい」と言っていた。.それゆえ、彼の映画は美しく、力強く、素晴らしいのだ。70年代作家主義の監督たちにはこういった純映画への欲望があった。 この展示を通し、過去のドイツ映画への目線を開いてほしい。そして、今のドイツの状況について考えてみるのも面白いかもしれない。(*1)

Deutsche Welle のサイトでこの展示の様子がビデオで見れます)

(*1)フランクフルター・アルゲマイネ誌 『ファスビンダー NOW展』

(*2)ベルリン演劇祭HP

藤原理子
World News 部門担当。上智大学外国語学部ドイツ語学科4年、研究分野はクリストフ・シュリンゲンズィーフのインスタレーションなどドイツのメディア・アート。上智大学ヨーロッパ研究所「映像ゼミナール2014」企画運営。ファスビンダーの『マルタ』のような結婚生活をおくることを日々夢見ております。


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