任天堂が国際的な批判に晒されている。彼らがリリースした「トモダチコレクション」海外版がその発端だ。これはもちろんゲームの話題だが、報道は既にゲーム関連メディアを超え、TIMEやCNN、abc、guardian、Forbes、Independentなどでも詳しく紹介されている(#1)。そしてその論調は、フィクションと現実との関わり、あるいはその問題に対する日本(企業)独特の姿勢を論点としたものが多い。したがって、これは決してゲームの問題にとどまらず、広く関心を持たれるべきものだと思われる。

 任天堂3DSソフト「トモダチコレクション(海外タイトルはTomodachi Life)」は、Miiと呼ばれるアバターを作成し、プレイヤー自身や友人・知人たちを箱庭の中で生活させたり干渉して楽しむバーチャル人生シミュレーターのようなゲームである。Miiたちは互いにコミュニケーションするばかりではなく、結婚して子供を作ることもできる。しかし、この最後のパートを楽しむためには、Mii同士が異性カップルでなければならない。このため、日本版発売時から既に同性結婚を実現したいと願うプレイヤーからのリクエストが数多く寄せられ、そしてゲーム内での性別を逆に認識させるというバグから、それが現実に可能でもあったようだ。しかし、このバグは任天堂によって塞がれてしまう。

 そして、2014年6月に海外発売予定の「Tomodachi Life」もまた、日本版と同じく同性愛結婚ができない仕様となった。このため、これを実現したいプレイヤーがウェブサイトを立ち上げ、#Miiqualityのハッシュタグを使ったキャンペーンを行った(#2)。このキャンペーンは直ちに多くの賛同を集め、無視できない規模になったが、任天堂がそれに対して発表したコメントは否定的なものだった。(#3)任天堂の出したコメントとハフィントンポストによる日本語訳はこちらのサイトで読める。(#4)

 この中で、とりわけ以下の記述が多くの批判を集めた。「任天堂が社会的な見解を表現しようとする意図はありません。異性婚しかないのは、現実世界を再現したものというよりかは、ちょっと変わった、愉快なもうひとつの世界だからです」とした部分だ。例えばForbesの記事にあるように(#5)、同性婚を許さないのは明らかに「社会的な見解」であり、そのゲームを「ちょっと変わった、愉快なもうひとつの世界」と呼びつつ、そこから同性愛カップルを排除するのは決してニュートラルな態度とは言えないからだ。任天堂は、ヘテロセクシャルな関係がスタンダードであるとの認識を強化し、それ以外の家族や同性愛結婚をゲーム内で実現しようとするプレイヤーの希望をむしろ攻撃的な政治声明であると前提している。しかし、それこそが、無自覚な多数派による抑圧そのものであり政治的態度なのだ、といった批判が寄せられている。

 大きくなるばかりの騒動に対して、任天堂は再び声明を発表した(#6)。今回は、同性愛結婚をゲームに盛り込まなかったことを謝罪し、次回以降はより多くのプレイヤーの希望を反映したゲーム体験を目指すとしたものだった。これに関しても、大規模なパッチやDLCが当然となった時代の対応としては不適切であり単に批判をかわしたいだけではないかと言った懐疑的意見や、あるいはGLAAD(LGBTコミュニティの意見をメディアに反映させるための組織)のように、エレクトロニック・アーツといった他社と比べ任天堂がいかに時代遅れかといった指摘もなされている(#7)。

 因みに、エレクトロニック・アーツのゲーム「マス・エフェクト」や「ドラゴン・エイジ」などでは同性愛が普通に可能であることが知られている。また、昨年発表され数多くの賞に輝いたインディペンデント・ゲーム「ゴーン・ホーム」は、この問題を正面から取り上げたもので、その物語性が高く評価されている(#8)。

 プレイヤーの直接的関与を前提とするゲーム体験や、「トモダチコレクション」のような人生シミュレーターのような要素は、たとえば映画のようにインタラクティブ性を前提としない作品鑑賞体験とは一見異なったものであるように思える。しかし、文化のグローバル化が進み、映画自体もまたソーシャルな関係性の中で受容されることが当然となっていく中で、今回の問題は決して任天堂やゲーム業界にとどまるものではない。たとえば、「ゴーン・ホーム」のデザイナーによって今年3月に行われたGDCセッションでは、ゲームや映画といったメディアがいかにして自らの形式を定義するか、そしてそれは現在の社会状況とどのような関わりを持つかといった視点から極めて興味深いものであった(#9)。一つの作品を作ろうとする意図やその環境と現実との関わり、そして日本独特の閉鎖性や多数派による抑圧が含み持つ政治的意味合いが、グローバルなコミュニティの中で再び視界の中に浮上しているのではないだろうか。

大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
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#1
http://time.com/91308/nintendo-gay-marriage-ban-tomodachi-life/
http://www.theguardian.com/world/2014/may/07/nintendo-miiquality-campaign-gay-tomodachi-life
http://www.independent.co.uk/voices/what-world-are-they-living-in-nintendos-denial-of-gay-characters-is-super-outdated-9345611.html
#2
https://twitter.com/Miiquality
#3
http://abcnews.go.com/Entertainment/wireStory/nintendo-virtual-equality-life-game-23620844
#4
http://www.huffingtonpost.jp/2014/05/08/nintendo-tomodachi_n_5292748.html
#5
http://www.forbes.com/sites/insertcoin/2014/05/10/nintendos-lesson-learned-from-tomodachi-life/
#6
http://www.nintendo.com/whatsnew/detail/c4FWbi-Uave2T9R1h7SFzX0aoa-d4pgx
#7
http://www.glaad.org/blog/nintendo-releases-new-statement-promises-make-future-tomodachi-life-games-more-inclusive-and
#8
http://www.gonehomegame.com/
#9
http://schedule.gdconf.com/session-id/825919


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