1月5日に授賞式が迫る第77回ゴールデングローブ賞。アカデミー賞の前哨戦とも言われ賞レースの行方は毎年大きな注目を集めるが、各部門のノミネートが先月発表されると、”またもや”監督賞にノミネートされた女性監督が1人もいなかったことが波紋を呼んだ。77年間の歴史の中で監督賞にノミネートされた女性は僅か5人、受賞したことがあるのは『愛のイエントル』を監督したバーブラ・ストライサンド1人だけだ[#1]。ゴールデングローブ賞はハリウッド外国人映画記者協会の会員約100名の投票によって決まり、ナタリー・ポートマンが2年前の授賞式において監督賞にノミネートされたのが全員男性であることを問題視する発言をしたことは記憶に新しいが、今年も状況が変わることはなかった[#1][#2]。

監督賞に今回ノミネートされたのは、ポン・ジュノ(『パラサイト 半地下の家族』)、サム・メンデス(『1917 命をかけた伝令』(日本では2020年2月劇場公開予定[#3]))、トッド・フィリップス(『ジョーカー』)、マーティン・スコセッシ(『アイリッシュマン』)、クエンティン・タランティーノ(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)の5人[#4] 。ヴェネチア国際映画祭において最高賞の金獅子賞を受賞した『ジョーカー』に関しては批評家からの反応は賛否両論だったが、いずれも高い評価を受けており、外国語映画賞に作品がノミネートされている韓国出身のポン・ジュノが含まれていることも注目に値する[#5]。

しかし過去1年を振り返ると、グレタ・ガーウィグ(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』/日本では2020年3月劇場公開予定[#6])、ジェニファー・リー(『アナと雪の女王2』/ クリス・バックとの共同監督[#7])、過去にWorld Newsの記事でも取り上げたルル・ワン(『フェアウェル』/日本では2020年春劇場公開予定[#8])、ローリーン・スカファリア(『ハスラーズ』/日本では2020年2月劇場公開予定[#9])など女性監督の活躍も目覚ましかった[#1]。興行成績の面からも大きな成功を収めているこれらの作品の監督が1人もノミネートの対象とならなかったことは、映画界におけるジェンダーギャップを改善しようとする動きにもかかわらず、依然として女性監督が過小評価されている現実を浮き彫りにすると共に、賞の正当性に疑問を抱かせる結果をも招いている[#10]。

この話が示す通り、映画界における女性を取り巻く環境は厳しい。監督に関しては、そもそもメジャーな作品に携わる女性の割合が低いという問題がある。しかしながら、改善の兆しが全く見られない訳ではない。最新のレポートによると、2019年の興行収入上位100作品の内、女性監督の占める割合は10.6%。昨年は4.5%であり、レポートに記載のある最も古いデータである2007年の2.7%と比較すると、相対的とはいえ着実に数字が伸びてきていることが分かる[#11]。

興行収入上位作品の大半を製作するハリウッドメジャーでは、スタジオによって差はあるものの、ブロックバスター作品の監督に積極的に女性監督を起用する動きが出てきている。各スタジオが2020年から2021年にかけて公開を予定している女性監督による作品は以下の通り[#12]。

  • パラマウント・ピクチャーズ: 『The Rhythm Section(原題)』(日本公開未定)/ リード・モラーノ
  • ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/ ソニー・ピクチャーズ・クラシックス: 『Cinderella(原題)』(日本公開未定)/ ケイ・キャノン ほか2作品
  • ユニバーサル・ピクチャーズ/フォーカス・フィーチャーズ: 『The Turning (原題)』(日本公開未定)/ フローリア・シジスモンディ ほか9作品
  • ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ: 『ムーラン』(日本では2020年4月劇場公開予定[#13])/ ニキ・カーロ ほか3作品
  • ワーナー・ブラザース: 『ワンダーウーマン1984』(日本では2020年6月劇場公開予定[#14])/ パティ・ジェンキンス ほか3作品

これから始まる2020年代は変革の時代となるのだろうか?10年後、ゴールデングローブ賞のノミニ―はどのような顔ぶれになっているのだろう?ジェンダーを巡る映画界の動きに今後も注目していきたい。

引用URL:

[#1] https://variety.com/2019/film/news/golden-globe-nominations-female-director-snub-1203429487/

[#2] https://www.washingtonpost.com/news/arts-and-entertainment/wp/2018/01/07/natalie-portman-calls-out-all-male-golden-globe-directing-nominees/

[#3] https://1917-movie.jp/

[#4] https://www.goldenglobes.com/winners-nominees/2020/all#category-50

[#5] https://www.washingtonpost.com/arts-entertainment/2019/12/09/golden-globes-didnt-nominate-any-women-best-director-or-screenplay-or-motion-picture/

[#6] https://twitter.com/SPEeiga/status/1204048200681705472

[#7] https://www.imdb.com/title/tt4520988/

[#8] http://farewell-movie.com/

[#9] http://hustlers-movie.jp/

[#10] https://bust.com/movies/196696-women-get-snubbed-again-for-golden-globe-nominations.html

[#11] https://www.indiewire.com/2020/01/female-directors-2019-hollywood-reprsentation-1202199952/

[#12] https://www.indiewire.com/2020/01/studio-film-female-filmmakers-2020-2021-1202198614/

[#13] https://www.disney.co.jp/movie/mulan.html

[#14] http://wwws.warnerbros.co.jp/wonderwoman/

 

濱口ゆり子
レディースデイの水曜日は全力で定時退社を目指す会社員。映画はメジャー作品からアート系、サイレント映画まで広く浅く。旅先でその土地の映画館に行くことが好きです。自分はどのような角度から映画と関わってゆきたいのか日々模索中。


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