[206]タバコが映画から消える日


XVMc4ff65ae-df89-11e4-ab81-f38664597617 (1) エヴァン法。1991年フランス、当時の健康相クロード・エヴァンの発案により制定されたタバコとアルコールを取り締まる法律。これにより非喫煙者の保護という目標が掲げられ、健康に及ぼす悪影響や危険性を大々的に示してきた。フランス国内の公共施設や公共交通機関の喫煙に対する規制が強化され、分煙もしくは全面禁煙が徹底された。従っているかはどうかは別として…。タバコに寛容というイメージの国がこの時から一変したのだ。

 現在、元大臣ミシェル・ドロネー氏による4月3日のツイッターの書き込みが議論を呼んでいる。”喫煙シーンを多く含むフランス映画界に、エヴァン法の適用を。” 現にフランス映画における喫煙描写は問題視されており、少なくとも一回は喫煙シーンがある作品は全体の80%、十回以上のものは30%にも及ぶという調査結果が出ている。長編映画だと、平均して2.4秒。若年者の喫煙率の多さは映画が原因と言われる始末だ。このツイートに対する世論の反応は、どうやら非難轟々の様子。”ディズニーのリメイクでも始める気か?”との皮肉交じりのリツイートも見られる。 というのも、俗に言う“ディスられた”米ウォルト・ディズニー・カンパニーはつい先月、登場するキャラクターの喫煙に対して否定的な考えを公表したばかりだ。CEOのボブ・アイガー氏は「マーベル、ルーカスフィルム、ピクサーを含む全ての映画において喫煙行為禁止の方針で進めていきたい」との意向を示した。この発言にクルエラやピーター・パン、『不思議の国のアリス』のイモムシ達は気が気ではないはずだ。

 このような嫌煙の動きは前々から幾度となく取り沙汰されてきた。2009年パリ、メトロ。エヴァン法に“律儀に”従ったメトロを運営するRATPグループ(パリ交通公団)がタバコを用いた映画広告ポスターの使用を拒否したのだ。これによって『ココ・アヴァン・シャネル』のタバコを指に挟んだオドレイ・トトゥのポスターは撤去され、差し替えを余儀なくされた。同様に、ジャック・タチ監督作品『ぼくの伯父さん』がシネマテーク・フランセーズにて上映された際には、彼の咥えるパイプが黄色い風車に置き換えられたのはなんとも滑稽な有様である。

 一方で、前述のドロネー氏はフランス映画におけるエヴァン法の適用に関していくつかのケースを除いて施行すると述べている。つまり「例外」が存在するということだ。喫煙という行為自体が “ストレスや絶望を表現するツール”になる場合、“タバコの有毒性を強調する描写”である場合、また伝記映画において“歴史的価値がある”と判断される場合がそれに当たる。従って、ココ・シャネル、セルジュ・ゲンズブール、イヴ・サンローランらはエヴァン法から逃れることができるということだ。では、生きる伝説ジャン=ポール・ベルモンドやブリジット・バルドー、ファニー・アルダン、『La French(原題)』でのジャン・デュジャルダンの愛煙家ぶりは果たしてどうであろう。このなんとも誇り高い例外、いわゆる“特権”の座を手に入れることはなかなか難しいのではなかろうか。

XVM07ba263c-df84-11e4-9f0c-01d836c0a27d-805x453 喫煙シーンがスクリーンから消える・・・ということは『ドリーマーズ』でルイ・ガレルとエヴァ・グリーンが両親と共に会食するシーンも、『アデル、ブルーは熱い色』で愛する人を前に一糸まとわぬ姿でポーズを取るアデル・エグザルホプロスも、最新作『L’Astragale(原題)』(2015、日本未公開)で大量の箱を消費するレイラ・ベクティの名演も、もう二度と見られないなんてことも有り得る。それらのシーンが我々に悪影響を与えるなど、誰が思ったことか。誰もいないだろう、あのツイートまでは。

 芸術は、独立性と創造の自由を保たれなければならない。フランスでは、映画は第七芸術(Septième Art)と呼ばれ、建築、絵画、彫刻、音楽、舞踏、文学に次ぐ七番目の芸術であると言われている。そしてそれは<カタルシス=浄化>の役割を果たしている。負の部分でさえ削ぎ落とすことなくありのままの事実として明らかにすることによって、映画という仮想世界に感情移入し、共感し、怒り、憐れみ、救われる。我々はそこにカタルシスを求めているのだ。ある日のパーティーや、コンサート、レクリエーション、仕事中の休憩・・・それらの行為と同じように、するしないはさておき、「喫煙」は我々のありのままの日常の一部であり、それは映画を構成するのに必要な一つの要素に過ぎない。銃や殺人、薬物なんかよりはるかに一般的な生活の中に存在する“合法の行為”だ。

 何はともあれ、声を大にして言いたいのは“映画は芸術であり、公共施設ではない”ということに尽きる。

 

 

参考資料

・http://www.lefigaro.fr/cinema/2015/04/10/03002-20150410ARTFIG00221-la-cigarette-bientot-bannie-du-cinema.php

・http://www.slate.fr/story/100067/cinema-francais-sans-cigarette

・http://sante.lefigaro.fr/actualite/2012/05/30/18270-quand-cinema-fait-promotion-tabac

・http://www.bfmtv.com/societe/l-ancienne-ministre-michele-delaunay-veut-interdire-le-tabac-dans-les-films-francais-874866.html

・http://www.lefigaro.fr/cinema/2015/04/10/03002-20150410ARTFIG00237-les-fumeurs-mythiques-du-cinema-francais.php

 

田中めぐみ World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。


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