10月23日にフランスで公開になった『Braquer Poitiers(Carwash)』は、59分と26分の二本の短編が一つになった作品である。59分のヴァージョンは、今年のジャン・ヴィゴ賞短編部門を受賞したほか、世界の様々な映画祭に出品されている。

クロード・シュミッツとは

 クロード・シュミッツは、ベルギーのブリュッセル出身の映画監督である。ベルギー国立高等視覚芸術放送技術院(INSAS)で学んだ彼は、2018年から2022年までリエージュ劇場のコンパニョナージュ(研修生)に選出されている。彼の作品は、様々な場所で発表されている。これまでGirls In Hawaiの「This Light」のMV(2017)や、『Le Mali (en Afrique)』(2016)、『Rien Sauf L’été』(2017)などの短編映画を制作している。本作である『Braquer Poitiers(Carwash)』は、彼の長編第一作である。また同時に、モンス高等芸術学校やトゥールーズの国立高等視覚芸術学校(ENSAV)で教鞭を執ったり、俳優としても活躍している。

映画のあらすじ

 トマとフランシスは、自動洗車ステーションの経営者で別荘の所有者であるウィルフリッドを監禁し、毎日彼の売り上げを盗むのだった。小金を手にした二人の強盗は、マルセイユにいる恋人たちに宝石をプレゼントしたいと願っている。ストックホルム症候群となったウィルフリッドは、金庫の中身を盗むことを許可し、彼らに好意的な感情を抱くようになる。まもなく、彼らの恋人であるエレーヌとリュシーがやってきて、ポワチエの夏を楽しむ。

 

本作品の制作過程について

 本作品で、二人の男に襲撃されることになる自動洗車ステーションの経営者ウィルフリッドを演じるのは、Lavanceという会社で実際に自動洗車装置を販売しているウィルフリッド・アムイユである。この作品は2017年に、シュミッツが彼の叔父の友人であるアムイユと出会ったことから生まれたという。アムイユは映画撮影を経験することを夢見ており、自宅で映画を撮るようにシュミッツを招待をしたのだ。シュミッツは、Lavanceによる資金援助を条件に、この案を受け入れたのだった。この作品は、シナリオを書かず、俳優の即興的な演技によってストーリーを構築する方法で撮影されたという。

反応について

 Le Mondeはこの作品について、「この奇妙で自由な作品は、92歳のジャック・ロジエの『アデュー・フィリピーヌ』(1962)や『メーヌ・オセアン』(1986)を思い起こさせる」と書き、Le Figaroは、「クロード・シュミッツは、強盗なき強盗映画を発表した。このアプローチは『レザボア・ドックス』(1992)を想起させる」と書いている。どの雑誌も概ね好評のようである。

 

監督インタビュー

先述のように、この映画はウィルフリッドとの出会いがきっかけとなって制作されている。シュミッツ監督はウィルフリッドとの出会いについてこう語っている。

2、3年前に短編映画を撮影したのですが、私の叔父の友人であるウィルフリッドがそれを見てくれて、好意を抱いてくれたのです。彼は私に、「何かを撮影しに私の家に来たいと思わないか」と、少し非常識な方法で尋ねました。私は彼が驚くべき、特有のパーソナリティを持っていることに気づきました。私は彼にこう答えました。「いいですよ。しかし、あなたがこの映画をプロデユースするのです」と。彼は少し驚いていましたが、しかし数ヶ月後にもう一度念を押しました。彼自身の生活に何かを加えることは、私にとって興味深いことのように思えました。私はそこから、この映画のアイデアを得たのです。

この映画は、ジャン・ヴィゴ賞を受賞したヴァージョン(59分)と、10月23日に公開されたヴァージョン(1時間29分)とではその上映時間が異なっている。シュミッツはこの作品を独特な撮影と編集の方法によって制作したようである。

映画はプロジェクトの予算もシナリオもなく撮影されたことを知っておく必要があります。それゆえ、この映画は計画的ではなく、書かれてもいませんでしたので、実際にどれくらいの長さになるのかわかりませんでした。『braquer Poitiers』はそれゆえ、撮影中に発明された映画です。素材に立ちかえり、最終的にこの長さになりました。それは映画に対応する持続時間であると考えますが、しかし「時間」に形式に関して前もって考えてはいませんでした。

実際には、編集の時点で『Braquer Poitiers』が書かれました。そのため、シーン間のバランスを見つけるために、編集に多くの時間を費やしました。細かく切り分けることのない、切れ目のないロングテイク(長回し)なので、ある場所でシーンを開始し、他の場所でシーンを終えるという選択もありますが、そのようなシーンの内部ではこれといったことが起こる可能性はありません。だから、かなり退屈な仕事です。どのブロックが他のブロックと連携するか、どのように連携し、どのようにバランスをとり、どのように対照されるかを見出さなくてはなりません。

10分間のシークエンスがあり、そこから1分間だけを抜き出すことができますが、開始のポイントと、終わりのポイントを見つけるのが難しい場合があります。

この映画は、4:3のアスペクト比で構成されているが、シュミッツはその理由についてこう答えている。

私が好きな70年代の映画、とくにロメールを想起させる映画を作りたかったのです。それは、生み出すものや喚起するものが少し古い形式です。また、絵画のような多色刷りの形式を持つイメージで作業したかったのです。それは、ヴァカンス映画を連想させるものです。だからこそ、今日もっとも普及しているフォーマットを採用しなかったのです。また別の理由として、16mmセンサーを備えたカメラを使用したことが挙げられます。これは4:3で考えられています。これらすべての理由の組み合わせですが、特別な雰囲気を作るためなのです。

この映画は主人公の恋人役を演じた二人の女性以外にはプロの俳優を用いていないという。シュミッツはキャスティングについてこう語っている。

映画に出演しているプロではない俳優たちは、長いあいだ、私と一緒に劇場で働いていました。私は、俳優として形成されていない人々とたくさん働いています。私は彼らとたくさんのショーをしました。そして、これは私たちが一緒に作った3番目の映画です。それは自然に起こり、長い間コラボレーションしています。『braquer Poitiers』はシナリオのない企画でしたので、何かが起こることを期待して、本当に適切な人を選ぶ必要がありました。難しいのは、映画に愛情と興味深い収穫をもたらすことを期待して数人の配置を考案することでした。

シュミッツ監督にとって、この作品がジャン・ヴィゴ賞を獲得したことは驚くべきことであったという。この作品はそのほかにも多くの映画祭に招待され広く受け入れらている。その理由について語っている。

単純に、とても驚きました。驚くべきことは、たとえ海外であっても、たとえばチリであっても、ジャック・ブレル(※ベルギー出身のシャンソン歌手)に関するフランス語話者のアクセントの言及が、彼/女らの話の主題になるということです。映画のユーモアは、つねに何らかのかたちで通用するのです。素晴らしいのは、これが計画的なものではない、私たちの出会いの産物としての映画であることです。この映画は、参加したすべての人に属する、かなり自然発生的=ハプニング的spontanéな行為なのです。映画に参加した人々は非常に豊かであり、シナリオやキャラクターのアイデアを超えたものを提供してくれました。それが、観客が感じるものなのです。

参考URL

http://claudeschmitz.be/projets/braquer-poitiers
https://www.lemonde.fr/culture/article/2019/10/23/braquer-poitiers-reglements-de-comptes-au-car-wash_6016547_3246.html
https://www.francebleu.fr/infos/culture-loisirs/insolite-un-patron-poitevin-joue-son-propre-role-dans-le-film-braquer-poitiers-1571766573
https://www.lefigaro.fr/cinema/braquer-poitiers-cambriolage-a-la-belge-chez-voltaire-20191022
https://next.liberation.fr/cinema/2019/10/22/braquer-poitiers-amitie-en-bande-organisee_1759091
https://www.troiscouleurs.fr/cinema/trois-question-a-claude-schmitz-realisateur-de-braquer-poitiers/
https://www.rayonvertcinema.org/braquer-poitiers-claude-schmitz/
http://frenchmania.fr/claude-schmitz-braquer-poitiers-ce-film-cest-un-geste-assez-spontane-qui-appartient-a-toutes-les-personnes-qui-lont-fait/

板井 仁 大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。


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