ウォルト・ディズニー・カンパニーとLucasFilmが、世界中に根強いファンのいる「スター・ウォーズ」シリーズから新たな方法で利益を得ようとすることは、驚くべきことではありません。日本では6月1日から、アメリカやイギリスでは本日、4月10日から、シリーズ全6作品がiTunesをはじめとするサイトでデジタル配信されることになりました。それぞれを購入すると、特典映像と、新たに追加された未公開シーンを観ることが可能です。「スター・ウォーズ」シリーズは、過去にもリマスター版などのさまざまなバージョンをリリースしてきました。しかし、こうしたことは、本当に作品にとって喜ばしいことなのでしょうか?(#1)

そもそも、「スター・ウォーズ」は1977年に公開された第1作目が大ヒットしたため、後に後日譚(オリジナルの三部作)と前日譚(エピソードシリーズの三部作)が追加されていった作品です。監督のジョージ・ルーカス自身は、1999年に公開されたエピソード1からの鑑賞を勧めているようですが、その場合、第1作目(作品中の時系列では4番目)で明らかになるダース・ベイダーとルーク・スカイウォーカー衝撃の事実がさきに知られることになります。ベーダーショックと呼ばれる、映画史に残る名シーンの感動が、台無しになってしまうおそれがあるのです。では、公開順に観るのはどうでしょうか。オリジナル三部作のすばらしいグランドフィナーレを観たあとに、そこに至るまでの説明を6時間も長々と眺めるだけのかたちになってしまいます。(#2)

時系列順の「スター・ウォーズ」シリーズ

時系列順の「スター・ウォーズ」シリーズ

この問題は、多くのファンの間で議論されてきました。たとえば、ライターのアーネスト・リスターは、「物語構造の順序」という鑑賞順を思いつきました。エピソード4、5、1、2、3、6の順番にみることで、時系列的な理解をふまえながらも、ベーダーショックやその他の名シーンを守るというものです。この順番では、エピソードシリーズがオリジナル三部作のフラッシュバックとして機能します。(#3)

また、「スター・ウォーズ」シリーズは数々のリマスターを繰り返してきました。今回のデジタル配信版のオリジナルの三部作は、2004年にルーカスが大幅なCGI処理をほどこしたバージョンがもとになっています。長年にわたるリマスターと最新技術の導入は、さながらシリーズをコンピューター・グラフィックスのショーケースのようにしています。しかし、技術にこだわるあまり、物語そのものにとっては無関係な詳細が増えてしまったことも事実です。(#4)

「スター・ウォーズ」シリーズは、現代の民間伝承のひとつのかたちだといえるかもしれません。作品が、多くの人々の語りを通して破壊され、異なる目的のために再生され、多様なかたちで存在する様子は、まるで古典的なおとぎ話のようです。しかし、「スター・ウォーズ」という作品自体も、それを繰り返し見るファンも、ノスタルジアに縛られているということが問題です。過去の傑作を求め続けることは、オリジナルの作品に傷をつけてしまうことになりかねません。(#5)

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名作を守りながら、ビジネスを成立させ、後世に伝えていくために、私たちはどのように作品と向き合っていけばいいのでしょうか。「スター・ウォーズ」の歴史は、私たちにその示唆を与えてくれるでしょう。

参照

#1

http://www.starwars.com/news/the-star-wars-digital-movie-collection-coming-april-10

#2,4,5

http://www.theguardian.com/film/filmblog/2015/apr/07/star-wars-has-gone-digital-but-how-should-you-actually-watch-it

#3

http://talkbacker.com/movies/the-outsider-how-to-watch-star-wars/id=4562

掲載画像 http://www.starwars.com/news/the-star-wars-digital-movie-collection-coming-april-10

http://www.chron.com/entertainment/article/Star-Wars-coming-out-in-digital-HD-on-Friday-6182826.php

北島さつき World News担当。早稲田大学卒業後、現在は英国、レスター大学の修士課程 Film and Film Cultures MAにて世界各国の映画作品、産業、文化について勉強中。


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