4月24日から5月4日にかけて、ニューヨーク・マンハッタンで第18回トライベッカ映画祭が開催され、国内コンペティション部門最優秀作品賞は、フィリップ・ユーマンス(Phillip Youmans)監督の”Burning Cane”が受賞した。本作品は、最優秀作品賞に加え最優秀撮影賞と主演男優賞(日本ではドラマ「SUITS/スーツ」などで知られるウェンデル・ピアースが受賞)も獲得し、合計3つの賞に輝く快挙となった[#1]。

90年代後半のルイジアナ南部の郊外を舞台に、無職でアルコール依存症の息子ダニエル、彼と病気の犬を心配する母親ヘレン、彼らが住む地区の牧師で、最近妻を亡くし酒に溺れているティルマンを中心に日々の暮らしが描かれる。手持ちカメラによる叙情的な映像が、場所というものがそこで暮らす者たちに与える影響への興味を誘い、自然の美しさと人間の行いの野蛮さがかくも対比されうることを示す。物語を語るのではなく、まるでドキュメンタリー映画のように淡々と人々の生活の様子を提示する”Burning Cane”の映画としての在り方について、テレンス・マリックを彷彿とさせると評価する評論家もいる[#1][#2][#3]。

予告編(日本語字幕なし)

“Burning Cane”は、監督の個人的な体験に着想を得ている。幼少の頃の、アメリカ南部のバプテスト教会での体験―やがて彼は教会から距離を置くことになるのだが、コミュニティに対する教会の強大な影響を映画の中で描く作業は、宗教や家族をはじめとする教会に通う人々に対して彼自身が抱く複雑な思いと向き合い、折り合いをつけることと重なったという[#4]。

映画の内容もさることながら、フィリップ・ユーマンス監督がまだ19歳であることも大きな注目を集めている。ニューオーリンズ出身で現在ニューヨーク大学芸術学部にて学ぶフィリップ・ユーマンスは、16歳の時に”Burning Cane”の下敷きとなる短編の脚本を執筆し、周囲からのすすめを受けてこれを長編映画の構想へと発展させ、17歳の時に高校卒業と時を同じくして”Burning Cane”を完成させた。トライベッカ映画祭のコンペティション部門に選出された作品の監督としては史上最年少、さらに国内コンペティション部門最優秀作品賞をアフリカ系アメリカ人が受賞するのも今回が初である[#4][#5]。

尚、本作品を制作するにあたり「ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜」を監督したベン・ザイトリンがエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねている。フィリップ・ユーマンスが彼の作品のファンであったことに加え、自身の出身地であるニューオーリンズにベン・ザイトリンが移住したことに繋がりを見出しインスタグラムを通して打診したところ、共同制作が実現。ベン・ザイトリンとの仕事についてフィリップ・ユーマンスは、「映画作りについて日々フィードバックを受け、多くの学びがあった」と振り返っている。“Burning Cane”の今回の快挙に関して、若手監督の支援を快く引き受けたベン・ザイトリンの存在も忘れてはならないだろう[#4]。

トライベッカ映画祭での受賞により脚光を浴びているフィリップ・ユーマンス監督だが、早くも次回作の制作が始まっている。1978年のニューオーリンズを舞台にブラックパンサ―党を描く作品で、脚本は既に書き終えているという。まずは“Burning Cane”の日本での公開を期待すると共に、若き新星フィリップ・ユーマンス監督の今後の作品にも注目していきたい[#4]。

引用URL:
[#1]https://www.tribecafilm.com/filmguide?s_name=Awards+Screenings&section=512d46b61c7d76af1f000019
[#2]https://variety.com/2019/film/reviews/burning-cane-review-tribeca-film-festival-1203211209/
[#3]https://shadowandact.com/history-maker-19-year-old-director-phillip-youmans-talks-the-black-church-burning-cane-and-trusting-his-vision-tribeca-interview
[#4]https://www.indiewire.com/2019/05/burning-cane-phillip-youmans-tribeca-benh-zeitlin-1202130264/
[#5]https://www.washingtonpost.com/national/19-year-old-director-wins-top-award-at-tribeca-film-festival/2019/05/02/7b9c6dc6-6d2e-11e9-bbe7-1c798fb80536_story.html?noredirect=on&utm_term=.ed1622f1f328

濱口ゆり子
レディースデイの水曜日は全力で定時退社を目指す会社員。映画はメジャー作品からアート系、サイレント映画まで広く浅く。旅先でその土地の映画館に行くことが好きです。自分はどのような角度から映画と関わってゆきたいのか日々模索中。



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