[197]アサイヤス:国境を越える困難と喜び


CLOUDS-OF-SILS-MARIA オリヴィエ・アサイヤスの最新作『クラウズ・オブ・シルス・マリア』(日本公開情報は近日解禁とのこと…必見!)は、昨年のカンヌコンペに出品され、惜しくも受賞は逃したものの、セザール賞において主演女優賞(ジュリエット・ビノシュ)、助演女優賞(クリステン・スチュワート)、そして脚本賞(アサイヤス)に輝くなど高い評価を受けた作品である。中でもスチュワートの受賞は、アメリカ人女優として初めてのセザール受賞となり、大きな注目を集めている。アサイヤスはさらにキャリアを前に進め、2014年にもう一本の新作『アイドルズ・アイ』を撮る予定になっていた。これはしかし、残念ながらキャンセルされてしまったようだ(#1)。

 『アイドルズ・アイ』は、ロバート・デ・ニーロとロバート・パティンソン、レイチェル・ワイズをキャストに迎え、アサイヤスにとってはじめてアメリカ資本作品としてシカゴとトロントで撮影が行われる予定だった。しかし、2014年11月、製作会社のBenaroya Picturesによって公式に製作中止が決定された。Benayoraのリリースによると、製作資金が十分集まらずリスクが高いと判断されたのが原因のようだ。彼らは「映画の権利を引き続き所有し、脚本を改稿した上で新たなチームによって製作を再開させる予定だ」としている。これに対し、沈黙を守っていたアサイヤスがはじめてこの間の事情に触れたインタビューがThe Playlistに掲載された。以下で、その抜粋を紹介したい(#2)。

idols_eye アサイヤスによると、作品の製作がキャンセルされたのは本当に撮影開始直前のことだったようだ。
 「何もかもが馬鹿げた話だった。だって、僕は完璧なキャストを揃え、とってもエキサイティングなプロジェクトだったんだから。全ての準備が整った後、撮影が開始する24時間前になって、出資者が突然製作を打ち切ったんだ。とっても苛立たしい事態だったよ。こんなの聞いたことがない。撮影開始24時間前ということはつまり、全ての素材が揃い、キャストが集まり、セットも完成し、映画全体が頭の中に出来ている状態だってこと。僕の頭の中では、もう映画全てが映写できる状態だったんだ。」

 それはまさに悪夢のような経験だったと言うアサイヤスは、今後アメリカ資本で新作を撮るつもりがないのだろうか。
 「アメリカで撮ることに関しては、これまでよりずっと慎重になるだろうね。問題なのは、映画作りへのアプローチが全く違うってことなんだ。僕が関わりたいと思わない人たち(アメリカの出資者たち)と関わらざるを得なくなるからね。」
 「映画を撮ると言うことは、自分が好きな人たち、同じような世界に生きている人たちと関わりを持つということなんだ。しかし、『アイドルズ・アイ』では、全く異なった世界に生きて全く異なった価値観と機能を持った人々に巻き込まれてしまった。それでも、どこかで話す余地があると僕は思っていたんだけど、そんなものは全く存在しない事に気づいたんだ。」

 アサイヤスが述べる「同じような世界に生きている人たち」とは、しかし、彼の作品とキャリアを知るものであれば誰もが理解できるように、決してフランス人や同世代の仲間たちを意味する訳ではない。現在、世界の映画作家の間には同世代的連帯(トリュフォーがミロシュ・フォアマンを救い、スピルバーグがトリュフォーを自作に出演させたような)が全く存在しないと悲しむクリストフ・オノレの言葉に対しアサイヤスが触れた別のインタビュー(#3)からの発言を以下に抜粋しよう。

OAgd 「オノレが言うことは完全に理解できる。でも僕は、自分なりのやり方でそれを打開しようとしてきたんだ。オノレがフランスで映画作りを始めたとき、新しいインディペンデントな動きが彼の周りにはあった。でも、僕の時代はもう少し困難で、と言うのは、年上世代のフィルムメイカーはいたものの、同世代で話の合う映画作家が周囲にいなかったんだ。だから、初期の頃、僕は別のカルチャーや国の人たちと繋がりを持つ必要があった。僕のキャリアがスタートしたのは、ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンと1984年に台湾で出会ったときだと思う。彼らはまさに中国映画を刷新している最中だった。それはすごい出来事だった。そしてその現場に僕はいたんだ!当時「カイエ・デュ・シネマ」に寄稿していた僕は、彼らを西欧に紹介した最初の書き手だったと思う。」

 「アトム・エゴヤンとは、彼がまだ映画を撮り始めたばかりの頃に出会って、すぐに友達になった。彼とは同じ言葉(映画の言葉)を話すことが出来る。香港で出会ったウォン・カーウァイやスタンリー・クワンは言うまでもない。僕はいつだってこういうことに関心を抱いてきた。そして、それを何とかしようとしてきたんだ。エドワード・ヤンが『カップルズ』でヴィルジニ・ルドワイヤンを使ったのは、彼が僕の映画でヴィルジニを見たからなんだ。京都映画祭に参加していたヴィルジニと僕は、そこでエドワードとランチを共にした。翌日彼からメールが来て、ヴィルジニを自分の映画に出演させられないか尋ねてきたんだよ。マギー・チャン(アサイヤスの元妻であり、彼の『イルマ・ヴェップ』『クリーン』に出演している)がフランスに来たのも全く同じことだ。こうした出来事や関係が、現在の映画文化からもはや失われてしまったことは理解できる。しかし、であるならば、それを自分たちの手で打ち壊すべきなんだ。少なくとも僕はそうしてきた。それはもしかすると、僕が映画ジャーナリスト出身で、フランスの映画作家が疎遠になっているインターナショナルな環境に晒されてきたことに原因があるのかも知れないが。」

#1
http://variety.com/2014/film/news/idols-eye-shuts-down-robert-de-niro-robert-pattinson-1201346343/
#2
http://blogs.indiewire.com/theplaylist/olivier-assayas-talks-the-painful-horror-behind-the-shut-down-of-idols-eye-with-robert-pattinson-robert-de-niro-20150406
#3
http://twitchfilm.com/2015/04/interview-olivier-assayas-on-clouds-of-sils-maria-and-hall-of-mirrors.html

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

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