マーティン・スコセッシの新作が2019年に2本公開される。一つは夏公開予定の『Rolling Thunder Revenue : A Bob Dylan Story 』というボブ・ディランを扱ったドキュメンタリー。もう一つは秋公開予定の『The Irishman』というマフィア映画。両作ともNetflixとNetflix指定の映画館で公開される。続々と数を増やすNetflix映画だが、今回のスコセッシの新作を通じて、その事情の一端が垣間見えた。

Vanity FairによればスコセッシがNetflixとの制作を決めたのは、Netflixが「資金と自由を提供してくれた」からだという。ヒーロー映画や大作シリーズものが興行成績を支えるようになった現在では、ハリウッドで映画監督が十分な資金と自由を確保するのは難しくなってきている。

『The Irishman』は元々パラマウント・ピクチャの下で製作されていたが、特殊効果による予算の膨張やスコセッシの『沈黙』による赤字から厳しい状況に置かれていた。Netflixはそこに資金提供を行なったのである。更にNetflixは、『The Irishman』と『Rolling Thunder Revenue : A Bob Dylan Story』の劇場公開にも関与している。


Netflixと言えば、アカデミー賞との緊張関係でも何かと話題をさらっている。対立の原因は主にNetflixが「シアトリカル・ウィンドウ」というルールを守っていないことにある。「シアトリカル・ウィンドウ」は劇場での独占公開を90日間確保するというものだが、Netflixは劇場とオンラインの同時公開を複数の作品で行なっているのである。アカデミー賞を受賞した『Roma ローマ』の公開の際にもNetflixは劇場で3週間しか独占公開期間を設けなかった。先月には、配信サービス作品をアカデミー賞の選考対象から外そうとする動きがあり、そこに米司法省が介入するような事態も生じていた。

スコセッシは両者の緊張関係について次のようにコメントしている。
「彼ら(Netflix)にはチャンスを与えるべきだ。なぜならそれは新しい世界だからだ。興行大作を無視できない事情がある一方で、そういった映画には『卒業』や『シンドラーのリスト』、あるいは私の作品なんかは含まれていない。彼らは上手くやるだろう。私は、人々には彼らに寛容になって欲しいと思ってる。彼らは今までとは違ったことに挑戦する必要があるからだ。それに、議論も尽くして欲しい。映画とは何か、映画はどのように提供されるべきなのか、特に新しい世界の中でそれはどうあるべきかを考えて欲しいんだ。私は、大規模な予算を組むことに不利な現状に問題があると思っている」

配信サービス業者製作の作品が増える裏には、予算の確保や製作の自由を巡る問題がありそうだ。とはいえ、劇場公開を必ずしも前提としない配信サービスが成長し「映画館にかからない映画」が主流になった時、「映画」は一体どうなるのだろうか。引き続き今後の動向に注目していきたい。

参考
https://www.indiewire.com/2019/04/martin-scorsese-netflix-movies-freedom-money-1202129808/
https://www.vanityfair.com/hollywood/2019/04/film-at-lincoln-center-50th-anniversary-gala-martin-scorsese
https://variety.com/2019/politics/news/doj-oscar-rules-changes-netflix-1203178413/

貳方勝太 (にのかたしょうた)迷える社会人。大学在学時は映画の制作に耽るなどして徒らに過ごし、現在は重度のヘヴィ・メタル好きが高じて作曲に手を出す。好きな監督はハル・ハートリーやマルコ・ベロッキオなどなど。文化に触れる時間を確保するのが日々の課題。


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