ルーマニアの映画監督コルネリウ・ポルンボユの新作『The Whistler (La Gomera)』(2019)が、今年のカンヌ国際映画祭において、テレンス・マリックやダルデンヌ兄弟、グザヴィエ・ドランなどと並んでコンペティション部門に選出された。彼の作品はまだ日本では公開されていないが、過去にもカンヌにてさまざまな賞を受賞している。本記事では、ポルンポユ監督と彼の新作『The Whistler (La Gomera)』について紹介したい。

コルネリウ・ポルンボユ監督

ポルンボユ監督について

 コルネリウ・ポルンボユは、1975年にルーマニアの北東バスルイで生まれた。首都ブカレストにあるI.Lカラギアル映画大学で学び、2003年に学位を取得。2本の短編『Pe aripile vinului』(2002)と『Călătorie la oraş』(2003)は国際的な注目を集め、『Călătorie la oraş』は2004年のカンヌ国際映画祭の短編部門であるシネフォンダシオンで準グランプリを受賞。

 2006年に撮影した長編第1作である『12:08 East of Bucharest (A fost sau n-a fost?)』はカンヌの監督週間で上映され、新人賞であるカメラドールを受賞。この作品は、独裁者チャウシェスクが失脚する契機となった1989年のルーマニア革命から16年後の2005年のバスルイを舞台として、独特なユーモアセンスによってルーマニア革命を顧みる作品である。

 2009年に公開した長編第2作『Police, Adjective』はカンヌ国際映画祭ある視点部門で上映され、審査員賞と国際批評家連盟賞を受賞し、またアカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされた。この作品は、学校で大麻を売った若者を逮捕することをためらう警察官の物語であり、法と道徳の問いを投げかける作品となっている。[1][2][3]

『The Whistler (La Gomera)』

『The Whistler (La Gomera)』について

 今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされた『The Whistler (La Gomera)』(ルーマニア、フランス、ドイツ/2019/97分)は、ポルンボユ監督の最新作であり、彼のキャリアではじめてコンペティション部門に選出された。また初めて海外で撮影した映画であるという。主演である警察官のクリスティ役を、ネメシュ・ラースロー『サンセット』や、マーレン・アデ『ありがとう、トニ・エルドマン』などに出演したヴラド・イヴァノフが演じる。

 クリスティは、麻薬密売人によって買収された警察の検査官である。上司に疑われている彼は盗聴されている。スペインのカナリア諸島ラ・ゴメラ島に到着した彼は、ブカレストで収監されている実業家のゾルトを釈放するため、その島で先祖代々使用されている口笛言語エル・シルボを習得しなければならなかった。ゾルトは、メキシコのギャングであるパコが所有する4200万ユーロのありかを知っている唯一の人物である。もし大金が戻らなかったら、パコは全員を殺すという。しかしクリスティはギルダという女性に恋をし、計画は思うように進まないのだった。[4][5][6][7]

 ポルンボユ監督は、この作品を制作したきっかけについて、こう語っている。「数年前、私はエル・シルボに関するドキェメンタリーを見ました。今ではほとんど消滅しており、唯一ラ・ゴメラ島の人々だけが使用しているこの魅力的な言語が、この物語を書く動機となりました。」また彼は、この映画において「コミュニケーションがより統制された世界において、言語と非言語の間の直接的な対立とともに、この先祖の言語を使用することが可能であるのか」に焦点を当てているという。[7]

 エル・シルボとは、スペインのラ・ゴメラ島で使用されている口笛言語であり、2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録されている。[6][8]

 本作品は、今年の5月14日から開催されるカンヌ国際映画祭で初めて公開される。

[1]https://www.festival-cannes.com/fr/artiste/corneliu-porumboiu-1

[2] https://www.newyorker.com/culture/richard-brody/police-adjective

[3] https://www.festival-cannes.com/fr/films/politist-adjectiv

[4] http://www.allocine.fr/film/fichefilm_gen_cfilm=263312.html

[5] https://en.unifrance.org/movie/46107/the-whistlers

[6]https://www.romaniajournal.ro/spare-time/la-gomera-by-romanian-director-corneliu-porumboiu-competing-at-cannes/

[7]https://cineuropa.org/fr/newsdetail/349312/#cm

[8]昨年の東京フィルメックスで上映されたチャーラ・ゼンジルジ&ギヨーム・ジョヴァネッティ『シベル』(2018)もまた、口笛言語を題材にした映画である。エル・シルボとは異なる口笛言語であり、鳥言葉と呼ばれている。鳥言葉もまた、2017年に無形文化遺産に登録されている。

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。


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