2019年のマーベル・スタジオの映画『キャプテン・マーベル』の音楽を担当した人物は、トルコ出身の作曲家ピナー・トプラクである。
トプラクは、『キャプテン・マーベル』のテーマ曲を思い付いた瞬間を振り返る。その大規模な映画には、驚異的な力に合うスコアを与えられたスーパーヒーローが必要であった[#1]。

「私は、テーマ曲を考えながらスタジオにいましたが、うまくいっていませんでした。何もつかめなかったのです。だから、スタジオを飛び出し、散歩に出掛けました。それから、口ずさみ始めました。たくさんの人たちには、おかしな人だと思われたに違いありません。だけど、口ずさんで、口ずさんで、自分のチームの仲のよい友人に電話をしました。『これをどう思う?』と聞くと、『いいね。ちょっと、電話を切るね。ヴォイスメモとして録音するよ』と返ってきました。信じられないような話ですが、これこそが、『キャプテン・マーベル』のテーマ曲なのです。」[#2]

トプラクは、長きにわたってスーパーヒーローの映画音楽のファンである。イスタンブールで育ち、5歳くらいのときに音楽を勉強し始めた。ヴァイオリン、クラシック・ギターに重点を置いていた。しかし、1978年のリチャード・ドナー監督による『スーパーマン』のスコアのようなクラシックな作曲に魅了された。その音楽の作曲家は、ジョン・ウィリアムズであった。その後、彼女は、映画のために作曲をしたいと思うようになった[#3]。

トプラクは、しばしばスーパーヒーローのテーマ曲はある音程で始まると述べる。普通はfourthやfifthである(ウィリアムズの『スーパーマン』のテーマ曲はfifthで始まる)。
キャプテン・マーベルのために、トプラクは少し違う何かを試みたかった[#4]。

「私のテーマ曲は、minor seventhで始まります。…キャプテン・マーベルは、高く、高く飛んで、遠くに行くことができて、速く移動できます。」[#5]

トプラクが17歳のとき、英語は少ししかできなかったが、大学に合格するためにアメリカに引越して、音楽を勉強した。最初の年に、彼女はシカゴで兄弟と暮らし、そのすぐ後に、ボストンにあるバークリー音楽大学に入学した。しかし、フィルム・スコアリングを勉強するためではなかった。トプラクは、映画音楽の作曲家になりたかったが、彼女の家族や友人たちからは押し退けられたからである[#6]。

「皆は、フィルム・スコアリングが学位を取得するに当たって賢明な方法ではないと言いました。そこに私のようなトルコ人女性は、ほかにはいなかったからです。私は自分を疑いました。だから、最初、バークリーに行き着いたとき、ピアノ・パフォーマンスを専攻しました。」[#7]

しかし、すぐにトプラクは、自分が幸福ではないと理解した。映画を観に行って音楽を聞けば聞くほど、映画音楽を手掛けるという夢を隠すことができなくなっていった。彼女は、自分の専攻をフィルム・スコアリングに変更した[#8]。
「少しからかわれたこともありました。だけど、自分の道を進み続けたかったのです」とトプラクは笑いながら述べた[#9]。

2000年に、トプラクはロサンゼルスに引越し、修士課程においてカリフォルニア州立大学ノースリッジ校でクラシックの作曲を勉強し始めた。パラマウント映画の音楽部門でインターンに選ばれた際には、はじめて音楽関係の仕事に触れた。『スタートレック:エンタープライズ』やJAGのようなたくさんの作品のために、クラシックの音楽のアレンジに参加した。彼女は、デモを家に送り、さらにそれらを必要としている仕事関係者に送り届けた。そのことで、彼女はデヴィッド・エリソンに興味を持たれた。彼は、オラクルのCTOのラリー・エリソンの息子である。現在はSkydance Mediaの設立者であり、CEOである[#10]。

そのとき、デヴィッド・エリソンは、トプラクと境遇が似ていた。映画に足を踏み入れようとしていたからである。彼は、2005年の自身の短編映画When All Else Failedのスコアのために、トプラクを雇った。そのとき、トプラクは、はじめて大きな仕事を得た[#11]。

「彼が誰なのかを知るまでに時間が掛かりました。私たちの友好関係が始まりました。いくつかのプロジェクトで彼と仕事をしました。Skydanceのロゴのために音楽を書きました。」[#12]

【Skydance Productions Logo Musicのレコーディングセッション】

年を経るごとに、トプラクは頑張りを見せた。彼女は、ハンス・ジマーのスタジオでプログラミングの仕事を得た。ヴィデオ・ゲームのスコアを書き、そのことでエージェントを得て、そして、インディ映画のスコアを書いた。彼女は、自分の作品を送付し続けていた[#13]。

「自分のリヴィング・ルームを製造ラインに変えました。YouTubeやSoundCloudが出る前でしたので、個々の映画製作者にCDをプリントして履歴書と添え状を送りました。その中には、捨てられたものもあることは分かっています。だけど、そこから、何本かの映画を得たのです。口コミは、別の仕事へと繋がりました。」[#14]

ダニー・エルフマンと同じエージェントであることは、好機をもたらした。その繋がりによって、彼にデモンストレーションできたからである。2017年の『ジャスティス・リーグ』において、エルフマンの側で仕事をし、その映画のために追加音楽を提供した[#15]。

トプラクは、『キャプテン・マーベル』における音楽の仕事を得ようとしていたことをエージェントに明らかにしていた[#16]。

CDや履歴書を郵送していたかつての日々とは異なり、トプラクは、マーベルのために思い切って行動した。デモのために多くの音楽を書き、それを演奏するために70人編成のオーケストラを雇った。それから、彼女は、自分でオーケストラを指揮している姿を映したヴィデオを制作した。トプラクによれば、ミュージシャンたちは『キャプテン・マーベル』のためのデモであることを知らなかった[#17]。

「その音楽は、“demo one”や“demo two”とタイトルが付けられていて、誰も知らなかったのです」と彼女は述べた[#18]。

トプラクは、自分にとってなぜその映画音楽を担当することが重要であるのかについてキャメラに話し掛けながら、スタジオの内部の別のヴィデオを録画した。そして、ピアノで自らいくつかのアレンジを演奏した。
トプラクは、マーベルに証明するためにはそれほど行き過ぎた行動ではないと述べる[#19]。

「どのくらいの人たちが考慮されていたのかは分かりませんが、私が誰なのか、どれほど私にとってこれが大切なのかということが必ず伝わっていて欲しかったのです。」[#20]

1ヶ月間が過ぎて、トプラクは、『キャプテン・マーベル』の作曲家に抜擢されたという知らせを受け取った。その音楽には5ヶ月間を費やし、100分近くのスコアをレコーディングした[#21]。

トプラクによれば、映画を通してオーケストラとエレクトロニックの楽曲をミックスするというアイデアは、アンナ・ボーデンとライアン・フレックという2人の映画監督との話し合いから生まれた[#22]。

「宇宙のサウンドを望んでいました。それから、1990年代の地球の側面がとても必要でした」とトプラクは述べる。自分の家のスタジオで働いているとき、エイリアンのためにカラフルなアナログシンセサイザーのサウンドを創り出した。しかし、ロンドンにあるアビー・ロード・スタジオにおいて90人編成のオーケストラでレコーディングされた。ヒロイックなテーマ曲を演奏し、ほとんどのスコアの基盤を創り上げるためである[#23]。

時折、エレクトリック・ギターが挿入された。「フューリーのためのそのアイデアをとても気に入っていました」とトプラクは話す。S.H.I.E.L.Dのエージェントであるニック・フューリーを表現する際の音楽だ。冒険を共にするキャプテン・マーベルのパートナーである。「これは、90年代のアクション警察映画のサウンドです。」[#24]

トプラクは、ハリウッドの映画音楽の世界の中で男性が支配する専門職で活動しているが、ジェンダーの比較には興味を示さない[#25]。また、彼女は、「女性作曲家」と呼ばれることを好ましく思わない。なぜなら、男性作曲家は、「男性作曲家」とは呼ばれないからである[#26]。

「どの男性も決して尋ねてはきたことはありません。『自分のジェンダーがきっかけでこのアクション映画の仕事を得たのか?』と。近い将来、質問されることがなくなること、または2度と聞かれることがなくなることを願っています。これは規範となるでしょう。私が人生において女性ではなかったり、作曲家ではない日は決してありません。これらは、スタート地点からの自分なのです。」[#27]

トプラクは、映画音楽の作曲家を志望している若い女性に以下のようなアドヴァイスを残している[#28]。

「断固とした態度を取って、情熱に忠実であってください。日々の浮き沈みよりも総合的な円弧に目を向けてください。目隠しを付けて、自分を照らしているものを理解したら、Plan B(第2の計画)を考えないでください。Plan Bがあると、結局はPlan Bを行ってしまうのです。私はこれができないと言ってきた人たちに耳を傾けていたことがありますが、幸運なことに長くは続きませんでいた。」[#29]

参考URL:

[#1][#2][#3][#4][#5]https://www.bostonglobe.com/arts/2019/02/28/berklee-grad-pinar-toprak-wrote-score-for-captain-marvel/bG6GEdy87JaGdbQZmGdWNP/story.html

[#6][#7][#8][#9][#10][#11][#12][#13][#14][#15][#16][#17][#18][#19][#20][#21][#22]https://www.businessinsider.com/captain-marvel-composer-pinar-toprak-first-female-composer-of-marvel-movie-2019-3

[#23][#24][#25][#27]https://variety.com/2019/artisans/production/captain-marvel-composer-1203155677/

[#26][#28][#29]https://www.bustle.com/p/captain-marvel-composer-pinar-toprak-on-the-double-edged-sword-of-being-the-first-woman-to-score-mcu-film-16826133

https://www.vulture.com/2019/03/captain-marvel-pinar-toprak-first-female-composer.html

https://variety.com/2019/film/news/captain-marvel-composer-pinar-toprak-top-grossing-movie-scored-by-woman-1203159811/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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