サンダンス映画祭がアメリカのユタ州で1月末から開催されている。本映画祭は世界最大のインディペンデント映画祭として知られている。長編映画、短編映画、ドキュメンタリー映画が上映される上、ニューフロンティア部門ではマルチメディア・インスタレーションやパフォーマンスを含む新しい映像表現を扱っている。

サンダンス映画祭では、2012年からニューフロンティア部門でVRコンテンツの特集を組んでいる。VR開発の最初の波が来たのは、撮影監督のモートン・ハイリグが1962年にSensoramaというバーチャルリアリティの先駆けとなったヘッドセットを発表した頃と重なる。Sensoramaは立体音、振動、匂い、そして風の効果により、自転車やヘリコプターに乗っている感覚を得られる3D体験装置だ。半世紀後、モートン・ハイリグの技術は実現を待っている状態だ。

2012年のサンダンス映画祭では、ヘッドキュレーターのShari FrilotがジャーナリストのNonny de la Penaによる没入型映像作品「LAでの飢餓」を初演した。(#1)1年も経たないうちに、de la Penaのインターンであったパーマー・ラッキーがオキュラス・リフトの原型を発明し、2014年にFacebook社が20億ドルで購入した。それ以来、VRは飛躍的に進歩するのではなく、段階的に進歩してきた。

2019年のラインナップでは、de la PenaのEmblematic Groupによって制作された『Reach』などの注目作品が上映された。Felix & Paul Studioはアカデミー賞受賞監督ロジャー・ロス・ウィリアムズ『Traveling While Black』をプロデュースした。(#2)

しかし、これらの作品は6DoFヘッドセットや360度動画などの概念についてNetflixレベルの慣れから遠く離れている一般消費者の関心を引くものではない。ただし、必見のコンテンツが見逃せなくなるまでは、最新のヘッドセットを気にする必要はない。

ヘッドキュレーターのFrilotは「技術者や技術を持つ企業は、360度キャプチャよりも6DoF機能に夢中になっていると思いますが、それは間違いです。360度キャプチャとジャーナリズムの関連性はまだ出てきています。360度キャプチャでジャーナリズムを扱うことは本当に重要です」と語る。2019年の新フロンティアラインナップには、VRとAR動画14作品と360度動画11作品があったが、その中にはソーシャルヨガのVR作品であるメリッサ・ペインターの『Eultivy』がある。また『Grisaille』はバーチャルペインティングに参加できるVRインスタレーションだ。

一方で、VRハードウェアの販売は苦戦している。VRヘッドセットの売上は2018年の第3四半期に190万円に達したが、調査会社のCCS Insightが予測していた売り上げ2200万円とは大きくかけ離れている。この原因は投資戦略にもある。ベンチャーキャピタルの投資家はコンテンツではなく、ハードウェアやプラットフォームに関心を持っている。そのため、消費者の間でVRコンテンツをマネタイズする方法がわかっていない。

VRはUnityやアンリアルエンジンなどのゲームエンジンで開発されため、初期の開発者はゲーム開発者が多かった。そのため、現在のVRコンテンツにはゲーマーの興味が反映されている。また、研究開発に利用できる資金がほとんどないため、多くの消費者向けコンテンツはソンビやエイリアンの襲撃ゲームであり、VRの物語やドキュメンタリー、ホラー、コメディの探求はまだ始まったばかりだ。

ニューフロンティア部門の作品は非常に実験的なものである。『Sweet Dreams』は、ソーシャルVR、AI、デジタルフードで構成される「空間ドラマ」であるし、『Emergence』は、5,000を超える人間の行動に没頭することにより、群衆の中のアイデンティティに焦点を当てたオープンワールド環境だ。
AT&TやGoogleが支援するMagic Leapの作品『The Seven Stages of Man』はARを用いた劇場パフォーマンスのプロトタイプだが、一般消費者向けの準備は整っていない。

これらの作品はVRヘッドセット市場を支えられるほど消費者を魅了しない。この間に、VRのスタートアップ企業は初期の資金を使い果たして縮小していき、ハードウェア製造業者は適度な改良で自分たちを慰めるしかない。

ニューフロンティア部門は、2000万台のヘッドセットを販売するのに十分強い畏敬の念を刺激することができるが、その需要は起こりそうもなく、また公平でもない。しかし、何かがその需要を生み出すまで、投資家は業界を維持するのに必要なコンテンツの開発のために何十億も資金調達することを正当化することはないだろう。

■参考資料:
(#1) https://www.youtube.com/watch?v=SSLG8auUZKc&feature=youtu.be
(#2) https://www.youtube.com/watch?v=Z-vWaT_hZOk

■参考記事:
https://www.sundance.org/vr

VR Still Lacks Its ‘Jazz Singer,’ a Game-Changing Breakthrough — Sundance


https://www.forbes.com/sites/laurencoleman/2019/01/31/sundance-film-festival-2019-3-hot-emerging-tech-trends-to-watch/#5cdfcb49421a

兒玉奈々
World News担当。映画に出てくる女優さん、ダンスシーン、音楽が大好きです。


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