[719] 12月頃刊行の映画本について


 今回のWorld Newsでは12月頃刊行の、英仏語の映画に関する書籍を紹介したい。

 まず1冊目はオックスフォード大学出版から①『日本映画の手引き』(2018/12/1)である。本書は2014年に刊行された書籍のペーパーバック版であり、編者の宮尾大輔はオレゴン大学の准教授として日本映画やシネマスタディーズを専門しており、日本語でも『映画はネコである;はじめてのシネマ・スタディーズ』という新書を出している。(#1)本書はまず日本映画研究とは何か?と題された、4本の論文からなる第一部から始まり、ついで日本映画とは何か?と題された16本の論文からなる残りの部分で構成されている。日本で暮らしていると全世界的なナショナルな境界の危機という観点を持ちづらいように思われるが、全体を通してグローバリゼーションやデジタル化によって既存の枠組みが脅かされる現代という時代が意識されているようである。また本書の目的としては、日本人の日本映画研究者と、アングロアメリカないしヨーロッパの日本映画研究者の間の対話の促進が挙げられている。(#2)また同様に日本映画に関する書籍として、ペーパーバック版として刊行される②『小津安二郎の映画:日常の歴史』(2018/12/1)も挙げておく。(#3)

 続いてはRoutledgeより③『現代映画におけるメランコリーエモーション:映画経験(Film Experience)のスピノザ的分析』(2018/1/10)である。著者のFrancesco Sticchiはオックスフォード・ブルックス大学で主にフィルムスタディーズの講師をしており、タイトルにもあるようにスピノザの思想と身体化認識理論(embodied cognitive theories)の関係に関心があるようである。やはり本書の特徴はスピノザと映画というあまり見かけない組み合わせにあり、実際に三部構成のうち二部がスピノザ的思想や現代的な認識メディア理論を用いた映画経験の理論に充てられている。例えば著者はスピノザの導入により崇高やカタルシスといった伝統的な概念を用いることなく否定的な感情や悲しい情念を伝えることができるという。そして最後の第三部で4つの映画作品を実際にケーススタディとして分析することで実践としている。(#4)

 続いてはWiley-Blackwellより、④『アフリカ映画への手引き』(2018/12/27)である。編者のKenneth W. HarrowとCarmela Garritanoはそれぞれミシガン州立大学とテキサスA&M大学でアフリカ文学・映画やアフリカ・スタディーズを専攻する特別教授、准教授である。512ページにもわたる本書の扱う対象は幅広く、映画経済やビデオムービー、映画の中の都市の生活や人権、そしてジェンダー的不平等による限界を乗り越える女性映画作家についてなどが挙げられる。またグローバリゼーションに関するコマーシャルビデオやネオコロニアリズムによる政治的変化なども強調されている。(#5)

 続いてはエディンバラ大学出版より⑤『厄介な日常:ヨーロッパのアートシネマにおける暴力と日常の美学』(2018/12/1)の書籍版であり、著者のAlison Taylorはボンド大学のティーチングフェローをしている。本書はサブタイトルの通り現代ヨーロッパのアートシネマにおける日常と暴力表象の関係を扱っており、その細かな分析は初だという。そして著者はパゾリーニの『ソドムの市』やブレッソンの『ラルジャン』から21世紀の映画作品まで全9本のケーススタディを通して、歴史的思想的文脈から検討されている。(#6)
また同じくエディンバラ大学出版より⑥『生からの描写:アニメドキュメンタリー映画における諸問題とテーマ』(2018/12/1)は、本来日常生活から紡がれるはずのドキュメンタリーにおいて、現代ではアニメーションが使われることが多く、その効果影響を分析している論集である。(#7)

 続いてはオックスフォード大学出版より⑦『あらゆる人を喜ばせる:ルネサンス期のロンドン及び黄金期のハリウッドにおける大衆娯楽』(2018/12/1)のペーパーバック版であり、著者のJeffrey Knappはカルフォルニアバークレーの英文学の教授である。本書はタイトルの通り、ルネサンス期のロンドンにおけるシェイクスピアの劇と黄金期のハリウッド映画を、同じ大衆娯楽というカテゴリーから語ることで従来の偏見に挑戦し、ルネサンス演劇と同時にハリウッド映画にも新たな視点をもたらそうと志向している。(#8)

 ここからは仏語の書籍を紹介したい。

 PURより⑧『魔術師の映画(cinématographe):1886-1906, 魔術的サイクル』(2018/12/6)であり、主に映画の黎明期の魔術的芸術とシネマトグラフの関係を、およそメリエスの作品群に至るまで追いかけている。(#9)
 続いてはモントリオール大学出版より⑨『親密なものの分有(Le partage de l’intime);歴史、美学、政治:映画』(2018/12/6)は、隠され、奪われているはずの親密なものが、映画経験というある種の親密さの中で分有されうるというパラドクス的な問題を扱っているという。そして具体的に取り上げられるのはユスターシュ、リンクレイターやルノワール、小津などである。(#10)

 また最後に駆け足ではあるが、RKOを扱った書籍⑩『RKO,ハリウッドの30年』(2018/12/6)と、Jean-Michel Place編集による「詩人の映画」コレクションのの新刊⑪『エプスタインと映画』(2018/12/31)も挙げておきたい。(ちなみにこのコレクションはこれまで15冊刊行されており、どれも比較的珍しい人物と映画との関係が扱われている。気になる方は以下を参照。(#11))


#1
http://www.heibonsha.co.jp/book/b163527.html
#2
http://www.oxfordhandbooks.com/view/10.1093/oxfordhb/9780199731664.001.0001/oxfordhb-9780199731664


#3
http://edinburgh.universitypressscholarship.com/view/10.3366/edinburgh/9780748696321.001.0001/upso-9780748696321

https://www.amazon.com/Melancholy-Emotion-Contemporary-Cinema-Experience/dp/1138317748/ref=sr_1_52?s=books&ie=UTF8&qid=1543955511&sr=1-52&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A1250228011
#4
https://www.routledge.com/Melancholy-Emotion-in-Contemporary-Cinema-A-Spinozian-Analysis-of-Film/Sticchi/p/book/9781138317741


#5
https://www.wiley.com/en-ae/A+Companion+to+African+Cinema-p-9781119100577


#6
https://edinburghuniversitypress.com/book-troubled-everyday.html

https://www.amazon.com/Drawn-Life-Documentary-Edinburgh-Intermediality/dp/0748694110/ref=sr_1_7?s=books&ie=UTF8&qid=1543955379&sr=1-7&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A1250226011
#7
https://edinburghuniversitypress.com/book-drawn-from-life.html


#8
https://global.oup.com/academic/product/pleasing-everyone-9780190634063?cc=se&lang=en&#

https://www.amazon.fr/Cin%C3%A9matographe-magiciens-1896-1906-cycle-magique/dp/2753573174/ref=sr_1_106?s=books&ie=UTF8&qid=1543956215&sr=1-106&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A183198031
#9
https://www.babelio.com/livres/Tabet-Cinematographe-des-magiciens-1896-1906-un-cycle-m/1077573


#10
https://www.pum.umontreal.ca/catalogue/le-partage-de-lintime

https://www.amazon.fr/RKO-ans-dHollywood-Emile-Mahler/dp/249046700X/ref=sr_1_104?s=books&ie=UTF8&qid=1543956215&sr=1-104&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A183198031

https://www.amazon.fr/Epstein-cin%C3%A9ma-Prosper-Hillairet/dp/2858939748/ref=sr_1_88?s=books&ie=UTF8&qid=1543956524&sr=1-88&keywords=cinema&refinements=p_n_publication_date%3A183198031
#11
https://www.livres-cinema.info/editeur/place-jean-michel/cinema-des-poetes

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修4年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。


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