【第二部「日本のスーパーヒーロー!過去から未来へ」】

第二部「日本のスーパーヒーロー!過去から未来へ」は、タイトルの通り、音楽で時の流れを体験するかのような構成であった。その中心は、ウルトラマンシリーズの音楽である。
この第二部の中では思いがけないことが起こった。『ウルトラセブン』や『帰ってきたウルトラマン』でスーツアクターを担当したきくち英一さんが観客席で観覧していたが、戸田さんによってきくちさんが紹介されたのだ。その際に、きくちさんは2階席で立ち上がり、スペシウム光線のポーズをとってくれた。たとえスーツを着ていなくとも、そこに英雄の姿は健在であった。

1曲目は、「なつかし日本ヒーローメドレー」(2020年 編曲:宮崎慎二)。『月光仮面』、『鉄腕アトム』、『ウルトラマン』、『仮面ライダー』、『科学忍者隊ガッチャマン』、『デビルマン』、『パーマン』、『それいけ!アンパンパン』、『キューティーハニー』、『ドラゴンボール』と続けてそれぞれの作品を象徴する音楽が演奏された。このメドレーは、フィルフィルのために、アニメーション版『ポケットモンスター』の音楽の作曲家で知られる宮崎慎二さんによって書き下ろされている。メドレーの中で、『仮面ライダー』の曲へと変わる前にはバイク音、『パーマン』の曲へと変わる前にはパーマンバッジの呼び出し音が挿入され、効果音が映像をさらに鮮明に想起させる。

2曲目、3曲目、4曲目は『ウルトラセブン』からの楽曲。冬木さんは、子供時代に父親のSPレコードでクラシック音楽を聴いていたが、その体験からそのジャンルの音楽への内面的親しみができたと述べている。そして、『ウルトラセブン』の音楽を作曲するにあたっても、マーラー、ベートーヴェン、ワーグナーを意識したことを明かしている[#1]。だから、ここでは、クラシカルなオーケストラの音楽が展開した。

3曲目は、TV『ウルトラセブン』より「ULTRA SEVEN」(1967年 作曲:冬木透)。この楽曲の歌には、合唱団だけでなく、オーケストラの楽器奏者も参加した。男声で表現されるこの楽曲のために、練習が行われた際にパート分けが行われていた。低音のコーラスが大いに活躍した。

2曲目と4曲目は、交響詩「ウルトラセブン」(1967年 作曲:冬木透)からの楽曲。2曲目は「第1楽章 ウルトラセブン登場」と、4曲目は「第3楽章 ウルトラホーク発進」である。
「第1楽章 ウルトラセブン登場」には、「ウルトラセブンの歌」も含まれる。円谷一監督は、子供の耳が教育され、自然に和声感が身につく音楽を求めた。『ウルトラセブン』を見た子供たちが、自然とハーモニーを合わせたくなる音楽だ。冬木透さんはそのことについて何度も考えた。結果的に、「セブン」を重ねていき、ド・ミ・ソの和音へと展開する音楽を書くことでその要求に応えた。その歌詞は、東京一さん(円谷監督のペンネーム)によって書かれたが、歌詞に対してテーマ曲の時間が短かったため冬木さんは冒頭のセブンを何度か繰り返すようにしたのだ。このこともまた冒頭の和声感を生むことにつながった[#2]。
「第1楽章 ウルトラセブン登場」の中の「ウルトラセブンの歌」には、本来は合唱が含まれてはいない。しかし、今回の公演では合唱が加えられている[#3]。それは、もともと円谷監督が意図した音楽を聴くことでもあったといえるだろう。

『ウルトラセブン』における円谷監督の創作過程からは、冬木さんの音楽に対する考え方の一端を知ることができる。『ウルトラセブン』のようなシリーズ作品の劇中音楽の場合、監督が要求するメニューをもとに、まとめて録音が行われていた。毎回の仕上げのときに、その中から選曲をする。しかし、円谷監督が最初に持ってきたメニューとは、シリーズ全体に対して、様々な音楽を過不足なく用意するきっかけに過ぎなかったという。つまり、メニューに指示があったとしても、それに依存しなかったのだ。例えば、怪獣の場面を想定して書かれた音楽が別の使われ方をして、その音楽は新たな意味や性格を持つこともあった。それは、円谷監督が映像に合わせて音楽を補っていく手法を嫌ったためであった。冬木さんによれば、円谷監督はむしろ音楽に流れやテーマ性を持たせた。特撮やアクションでは、映像のリズムに音楽を合わせていく手法が一般的であったが、その手法を用いずに音楽を軸にして創作していくという逆転の発想でもあったといえるだろう[#3]。
円谷監督は、映像が特定の枠の中に視界を強制してしまうと考え、フレームから広がる発展の役割を音楽に託したのだ。冬木さんは、そのフレームを意識させないようにする手段として音楽があると述べる。そして、映像になぞった音楽では、フレーム外に視聴者を導けないが、独自の流れで音楽の描写をすることで無限の空間が得られるようになるのだという[#4]。
『ウルトラセブン』で採用された音楽の作曲と使用のプロセスは、厳密に映像に基づいて作曲を行うフィルムスコアリングとは大きく異なるだけでなく、部分的には対照的であるとさえいえる。そして、『ウルトラセブン』の音楽は、ハリウッド作品がコンサートプログラムの大部分を占める中で映像音楽をより相対化してくれている。そのことで、それぞれの演奏曲の特徴がさらに際立って聴こえるのだ。

5曲目は、アニメ『ULTRAMAN』より「ULTRAMAN THEME」(2019年 作曲:戸田信子×陣内一真)。この楽曲は、戸田さんと陣内一真さんによって作曲された。お互いに作曲家として長年にわたるパートナーである。戸田さんは、テーマ曲として大切なことは「覚えやすいメロディ」だけではなく、「聞き飽きないこと」だと話している[#5]。
監督からは、模倣ではなく新たなものを創作するために、ウルトラマンシリーズの既存の音楽を聴く必要はないと指示されていた。その考えに基づいて、2人の作曲家は、ウルトラマンシリーズにおいて斬新な性格を持つ音楽を作曲することを目指したといえる。現代的なオーケストラとシンセサイザーを合わせたハイブリッドサウンドであることや、映像に合わせて作曲するフィルムスコアリングが取り入れられていることもまた、シリーズの中でこの音楽を差別化しているといえるのではないだろうか[#6]。
また、コンサートにおいて、戸田さんは作品に登場する星人たちにそれぞれを識別する「音」を与えたことを話してくれた。キャラクターを表す「音」を決めて曲の全体を構成していくという作曲のプロセスがとられているが、ここにはコンサート内での話に出てきた星人たちも含まれているだろう[#7]。
『ULTRAMAN』において、数曲のサウンドトラックのレコーディングをフィルフィルのオーケストラが担当した。それは、実際にフィルムスコアリングで作曲された映像の音楽を演奏したということでもある。戸田さんは自分の楽曲をフィルフィルの演奏家たちの演奏に委ねているが、これは戸田さんとフィルフィルのオーケストラとの深い信頼関係の証左だ。そして、今回の公演では、オリジナルの作曲家と演奏家が参加していたのだ。いつか作曲家の陣内さんを迎えてのコンサートも期待するばかりだ。

【Part1】
【Part3】

参考文献:

[#1]青山通『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』(新潮社、2020年)、46-47頁。

[#2][#4]実相寺昭雄『ウルトラマン誕生』(筑摩書房、2008年)、258-276頁。

[#3]公式パンフレット『SUPER HEROES ORCHESTRA CONCERT』

参考URL:

[#5][#6][#7]https://heros-ultraman.com/news/anime_movie/20190301/post-531

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。