イタリアの独裁者ムッソリーニが現代に蘇るというコメディー映画、ルカ・ミニエーロ『帰ってきたムッソリーニ』が、9月20日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開されます。先日、イタリア文化会館で行われた試写に行ってきました。

独裁者ムッソリーのが現代ローマに生き返った!?売れない映像作家カナレッティが、復活したムッソリーニを偶然カメラに収めたことから、一発逆転をかけたドキュメンタリー映画の制作を思い立つ。2人でイタリア全土を旅しながらの撮影旅行。ムッソリーニをそっくりさんだと思った若者が気軽にスマホを向けると戸惑いながらも撮影に応じ、またムッソリーニが市民の中に飛び込んで、不満はないか?と質問を投げかけると移民問題や政府に期待していない生の声があふれ出てくる。その様子が動画サイトに投稿されると、再生回数はどんどん増えネットで大きく拡散されていく。ついには、テレビ番組「ムッソリーニ・ショー」に出演するまでに。そのカリスマ的な演説が人々の心をつかみ、高視聴率を叩き出すと、絶大な人気を集め、再び国を征服しようと野望を抱くが…はたして、ムッソリーニが現代で権力を握ったらどうなるのか?(映画公式サイトより)

 『帰ってきたムッソリーニ』は、ティムール・ヴェルメシュの小説『帰ってきたヒトラー(Er ist wieder da:彼が帰ってきた)』(2012)を原作としている。2015年にはダーヴィト・ムネントによって映画化もされ、日本でも2016年に公開されているので、知っている人も多いだろう。構成やストーリーなどは『帰ってきたヒトラー』を踏襲しているのだが、しかし『帰ってきたムッソリーニ』の方がコメディ的な要素が多い印象を抱いた。

 街中での人々へのインタビューは、隠しカメラなどを用いてドキュメンタリーの手法で撮影されたというが、試写会後のトークイベントに登壇された小田原琳先生によると、『帰ってきたヒトラー』撮影時のヒトラーに対するドイツ人の敵対的な反応とは異なり、ムッソリーニに対するイタリア人の反応は好意的なものが多かったという。監督はこのような、ファシズムがコメディによって回収され消費されながら受容されていくことへの危険性を描こうとしている。現代のイタリアを描いた作品だが、政治に対する無関心や、子供や高齢者の貧困問題、政治家に期待できずに投票をやめた人々の姿は、今の日本の人々とも重なる部分が多い。新元号を発表した官房長官が「おじさん」として消費されてしまう日本において今こそ見るべき作品であることは間違いないだろう。

 

『帰ってきたムッソリーニ』

9月20日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開

『帰ってきたムッソリーニ』
監督:ルカ・ミニエーロ
出演:マッシモ・ポポリツィオ、フランク・マターノ、ステファニア・ロッカ
2018/イタリア/カラー/イタリア語/96分
原題:SONO TORNATO 英題:I’m Back
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
映倫:G
配給:ファインフィルムズ
公式サイト:www.finefilms.co.jp/imback
© 2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。