本日9月15日から、渋谷のシアター・イメージフォーラムにて、中村拓朗監督作品『西北西』(2015)が公開されます。本記事では、『西北西』の作品紹介と、IndieTokyoに所属する渡辺と板井の二人によるレビューをお伝えします。

 


 

 

作品紹介

 レズビアンのケイ(韓英恵)は、モデルの恋人アイ(山内優花)との関係や自身の生き方に不安を感じる日々を過ごしている。一方、日本画を学ぶムスリムのイラン人留学生ナイマ(サヘル・ローズ)はビザや、将来的な日本での生活、同級生との交流に不安を抱えていた。ある日、ナイマとの出会いをきっかけにケイの中で何かが変わり始める。異質なものに触れることへの恐れ、戸惑い、拒絶…。

 3人の女性たちはそれぞれに性別、国、文化、宗教のボーダーで揺れるカオティックな感情を抱えながら、自らにとっての“西北西”を探求していきます。

 

 俳優出身の中村拓朗監督は、初の長編作品である『TAITO』(緑朗名義)で第33回PFFぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞を受賞しています。 

 長編第二作目である本作『西北西』は、第20回釜山国際映画祭メインコンペティション・ニューカレンツ部門や、ミュンヘン国際映画祭2016 正式出品されたほか、マルディグラ映画祭、Casa Asia Film Week、レインボーリール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)など、世界各国の映画祭に出品されています。

 韓英恵とサヘル・ローズが劇中で出会うシーンでは、ふたりの役者が実際に初対面の状態で撮影したといいます。

 また恋人役の韓英恵と山内優花には、ダブルベッドのホテルで一泊二日のふたりきりのデートをしてもらうなど、独特の演出手法を用いました。

 


 

 

ケイはナイアがオレンジジュースを頼むだろうことを知っている。

誰かを大切に思うことは、誰かを愛するということは、きっとそういうことなのだと思う

この映画のケイとナイアとアイという3人の女性たちの生きている時間に性別や言語や国境は関係ない。

性別も言語も国境も文化も価値観も味覚も超えたところにある愛しいものたちが、続いたらいいなと真剣に、ただただ祈り続けるのだ。

 

“ねえ、もっと感情出してくれないとわからないよ。私はケイじゃないからケイの考えていることがわからないの”

アイがケイへ向けた言葉がチクリとする。自分ではない存在のことをわかるなんてきっとできない。

それなのに、誰かを愛そうとするとき、どうしたってわからない他者を、わかろうとする。

 

不安と痛みと幸せと、色々な出来事の間を揺らぎながら、どっちへ行けばいいのか、どう生きて行こうか、一歩一歩進もうと、その方角を探そうとする彼女たちの姿は、一見脆そうでいて案外強い。

彼女たちの祈りを込めた視線の先には、たぶん絶対、愛おしいものが、しっかりと存在しているのだと思う。(渡辺)

 


 

 

 『西北西』というタイトルクレジットのあと、どこか待合席のような場所が映し出される。画面外から片言の日本語で何かを訴えている女性の声が聞こえるが、カットが切り替わりキャメラが受付窓口を捉えると、その声の持ち主がビザの申請をするも却下される女性のものであったことがわかる。

 今年の4月13日、茨城県牛久市にある東日本入国管理センターに収容されていたインド人男性が自殺をする事件があった。また5月にも3件の自殺未遂が起こっているが、日本のメディアではほとんど取り上げられることがない。『西北西』は、三人の女性の姿を描きながら、こうした日本の現状を告発してもいるだろう。

 この作品は、「他者に対する不寛容」ということも、重要な一つの要素となっているのではないだろうか。たとえば喫茶店のシーン、掛かってきた電話にペルシャ語で応答するナイマに対して、感情を露わに「うるさい」と怒鳴り散らすサラリーマン。たとえば病院でのシーン、自分の子どもがレズビアンであったことを知り、恋人のケイに対して差別的な言葉を浴びせかけるアイの母。慣習やルールを遵守し、自分とは異なるものを尊重することのない登場人物たちの姿が浮き彫りにされるのだ。

 オリンピック招致の際にはみずからを「おもてなし」の国としてアピールした日本という国は、人権よりもルールや慣習の方が無批判にも重視され、「普通」なるものから外れるものたちに対して圧倒的に不寛容な場所である。われわれはこの映画を通じて、多くの問いに直面するだろう。 (板井)

 


 

 

9月15日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開

公式WEBサイト(http://seihokusei.com/)

 

『西北西』(2015)

[1:2.35/ color/102min] [出演]韓英恵、サヘル・ローズ、山内優花、林初寒、松村龍樹、田野聖子、高崎二郎、中吉卓郎、大方斐紗子

[監督・脚本]中村拓朗

[プロデューサー]汐田海平、郝青、韓愈

[撮影監督]關根靖享

[整音]瀬川徹夫

[照明]酒井隆英

[録音]松野泉

[効果]倉橋静男

[助監督]速水萌巴

[制作]小原康照、八木宇希、佐藤和貴

[スタイリスト]ハヤミマリヤ

[ヘアメイク]須見有樹子

[美術監修]浅田崇

[主題歌]“Kazahana”by hakobune

[音楽]中里正幸(production orfeu)

[制作プロダクション]好漢影視

[宣伝]エイゾーラボ

[配給]オンリーハーツ

 

 

渡辺花
大学で映像について学んでいます。「光の墓」がすきです!

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。