先日、渋谷のユーロスペースにて8月25日公開を控える映画『若い女』のトークショー付き試写会が催された。今作はフランス期待の新人女性監督レオノール・セライユの長編デビュー作で、昨年のカンヌ映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞、フランスで最も権威のあるリュミエール賞にもノミネートされた。また、主演のレティシア・ドッシュはリュミエール賞最有望女優賞を受賞し、今後の活躍が期待されている。

製作スタッフがすべて女性であることにちなんで女性限定となった本イベントには、多くの女性がつめかけ、満席状態であった。また、上映後のトークショーには、モデルで執筆業もこなす小谷実由と映画ライターの新谷里映がネタバレありの楽しいトークを繰り広げた。本記事では、作品とイベントの模様をレポートする。

「出してよ!!」

真っ暗な空間の中で一人の女が必死にドアを叩き、泣き叫ぶ姿から物語ははじまる。主人公ポーラと私たちの出会いは唐突であり、画面が切り替わると、こちらを力強い瞳で眼差すポーラが必死に私たちに語りかけてくる。それは病院での医師との会話であることがわかるのだが、私たちはただ主人公の叫びに圧倒される。

31歳のポーラは、10年付き合った写真家の恋人ジョアキムに突然別れを告げられる。彼は大学時代の教授であり、ポーラは教授の女としてメキシコで何不自由ない豊かな暮らしをしていた。そんな恋人に突然捨てられ、お金も、家も、仕事もなく、全てを失ったところからはじまったポーラは現状から這い上がる為に、孤独をより一層引き立てる冬のパリの曇り空の下に放り出された彼女は、赤色のコートを着て小脇に猫を抱えて右へ左へと彷徨い歩いていく。

ポーラはまず、友人の家に身を寄せるが、妊娠中の友人は猫を連れてきたポーラに激怒し、ポーラもそれに逆上する。しまいには、お金を貸してと懇願し、簡単には引き下がらないポーラのしぶとさには圧巻されるほどである。泣きじゃくり、自分の不幸な状況を周囲に喚き散らす彼女は破天荒で自由奔放なのだが、恋人に捨てられても、友人にそっぽを向かれても、なんとかごまかして関係を築こうとした束の間の友人に嘘がばれても、いつだって止まらずになんとか羽を下ろす場所をみつけようと人生を駆け抜けてゆく彼女を応援せずにはいられない。「安定ってなんなの?」と、居場所の見つけるために彷徨い続けるわたしたちの言葉をポーラは堂々と叫んでくれる。

大きな決断をし人生の転機となる最後、彼女は青色のパジャマを丁寧に畳み、病室を後にする。ベッドの青色が映える片付けた女中部屋からパリの街をまなざす彼女の瞳は、オープニングのそれとは全く異なって見える。彼女はこの先も冷たいこの街を、力強く勇敢に歩いていくのだろう。

上映終了後のトークショーにて、小谷さんは作品内でヒロインのポーラが着ていたニンジン色のコートからインスパイアされたという、赤い衣装で登場した。事前に2度鑑賞されたという小谷さんは、受け取り方が人それぞれとの感想があるだけに、初めて鑑賞する時とはまた異なった気づきがあったそうだ。ポーラのめまぐるしく変わる表情豊かなところから、「感情的なグラデーションのある作品」と評し、パリといえばきらびやかで良い意味で現実的でない美しさを思い描くことが多いが、今作では、それとは異なる「冷たいパリ」が描かれていると指摘した。

また、モデルとして活躍する小谷さんらしく、劇中のポーラのファッションにも注目。ニンジン色のコートもさることながら、後半で着ていた青いブルーのセーターも「とても可愛かった」そうだ。また、自身も猫を飼っていることから、ポーラの元恋人の飼い猫であるムチャチャについて、「猫好き必見」「あんなに大人しい子は見たことがない」とその愛くるしさを語った。

映画ライターである新谷さんは、感情的な浮き沈みの多い女性であるポーラに嫌われる可能性もあることに触れ、「でもなんだか憎めないですよね。」と、ポーラの魅力を語る。また、仕事や住む場所を失った彼女がゴミ箱を漁るシーンもあることなど、小谷さんが指摘していたように、今までに見たことのないパリがあると感じたそうだ。女性ならではの目線で語られたトークは終わりがつきなかった。

冒頭のシーンで度肝を抜かれるように、感情の起伏が激しく、作品内のセリフでも出てくるように「猿の子どものような」野生的な雰囲気も醸し出すヒロイン。レオノール・セライユ監督は、フランスの国立映画学校(FEMIS)での卒業制作の脚本を元にして作った本作で、アイロニカルな響きをも含む「若い女」というタイトルのもと、女性にとっては大きな意味をもつ出来事を軽やかに自然に映し出す。どんなことがあったとしても人生は続く、辛い事も嬉しい事も、何もかも包み込んで前に進むポーラの姿勢は健気だ。また、新進気鋭の作曲家ジュリー・ルエによる、作品のそれぞれのシーンに合った音楽も素晴らしい。

コメディチックな要素を描きつつも、フランス映画らしいシリアスな目線も忘れない、長編デビュー作からすでに自らの色をはっきり見せている監督の今後も楽しみでならない。

『若い女』は、8月25日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

『若い女』
監督・脚本:レオノール・セライユ 
出演:レティシア・ドッシュ、グレゴワール・モンサンジョン、スレイマン・セイ・ンディアイ、ナタリー・リシャール
2017年/フランス/フランス語/97分/カラー/原題:Jeune Femme/英題:Montparnasse Bienvenüe/日本語字幕:手束紀子  
配給・宣伝:サンリス
8月25日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

三浦珠青
早稲田大学文化構想学部4年生。時間があれば本を読み映画を観ては眠っています。最近のマイブームは台湾映画と銭湯と日記をつけること。

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鳥巣まり子
ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。

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