カナダのケベックの海辺の街は、潮風が強いみたいだ。
主人公のレオニーの長い髪が、バサバサとたなびく。
そんな街の風に抗うみたいに、レオニーは終始イライラしている。

わかるなぁ。私も高校時代は学校も先生も友達も家族も、みんな一括りに嫌いになることがあった。
自分の思うようにいかない事ばかりだし、欲しい言葉も貰えない。

そうだ、私の生きていた街にも、時々潮風があった。
瀬戸内海が近くて、穏やかな海だ。
高校生の時は、景色はただの景色で、人のことばかりに目がいっていたような気がする。
わたしもあの頃は、この生活の中にある潮風に流されたくなくて、抗っていたな。

主人公のレオニーは、相入れない母と、その彼氏と暮らしている。
離れ離れになった父親は、どうやら色々あって街を出て働いているようだ。
友達とも何となくいるだけで、居心地は良くなさそう。

そんなある日、スティーブという、この街に似合わない格好をした男とダイナーで知り合いになる。
スティーブはギターの講師をしているらしく、レオニーもスティーブに興味津々で、ギターを習うことに。

スティーブは母親と犬と3人(?)暮らし。
一軒家の地下室でギターを教えていた。
スティーブはレオニーが急遽手に入れた中古のギターの弦をさらっと直してくれたり、かけたレコードの音楽に合わせてエアドラムを完璧にこなしたり、ユーモラスにも穏やかで、多少いかつめの風貌とは違って、レオニーは居心地の良さを感じ始める。

そんな中、離れて暮らす父親が2週間の休暇を取って帰ってきた。
レオニーは父親が好きみたいで、ちょっとオシャレもする。
レオニーが日々のイライラを父親に話すと、父親はレオニーのおじいちゃんの話をしてくれる。
それはレオニーの父親にとっては知らない父親の一面の話だったらしい。
そう、レオニーの父親にも、知らない一面があることを、後々知ることになる。

レオニーのイライラは、これぞ!という明確な事件や理由があった様には描かれない。
はたから見ればそれは大きく見えないだけで、本人からしたら、行き違うことしか出来ない日々はすごくやるせなくて、もどかしいと思う。
そんな気持ちを常に誰かと共有することも出来ず、心の中をいっぱいにしてしまうレオニーの事を考えると、街を出てしまいなよ!と思わず言いたくなる。
それはスティーブも言っていた。
けれど、レオニーにもこの街に好きなものがあった。

昔、この街には工場があった。
レオニーの父親は働いていて、小さい頃によく連れてこられたらしい。

従業員の入り口いる警備員はアメをくれたり、レオニーは少し楽しそうに話す。
小さい頃に大人からもらうアメって本当に美味しいと思うから、レオニーの気持ちがよく分かる。

けれど、工場は閉鎖し、閉鎖は組合のリーダーだったレオニーの父親のせいにされ、ロッカーにあった荷物も手荒く扱われた。
あっけなく好きな場所は無くなってしまった。
好きな人や好きな場所がなくなった街なんて、抜け殻のように感じるだろう。
街を出て行きたくてもまだ学生だし、非行に走るような性格でもない。

私は大学に行く事を口実に街を出て行ったけれど、レオニーはどうするだろう?
やりたい事が明確にないレオニーにとって、この街を出て行く事も、そう急ぐことでもなさそうだ。

この映画の原題は「蛍はいなくなった」という。

蛍の放つ光のように、消えたり光ったり、私たちの心だって、いつも明るいわけじゃないし、いつも暗いわけじゃない。
ほんのり光るような日々の幸せが、スティーブとの出会いで私には見え隠れしていたけれど、その事にレオニーは気付いているのだろうか?

今振り返ると、10代の頃に感じていた憤りは、日々の楽しさを覆い隠していたように思う。
楽しいことだってもちろんあったのに、見ようとしていなかっただけかもしれない。

ケベックの街は美しいと思った。

スティーブが犬の散歩をする日常的な道にも海が見えるし、レオニーの家からも海が見える。
私は海が好きだ。
それは大人になってから思うようなった事で、今でも実家に帰ったら見つめに帰る。

そんな事、昔は想像できなかった。
そう、いつか大人になって気づければいい。
レオニーが言うように、人生はまだまだこれからだ。

都会にはビル風はあるけれど、気持ちいいとは思わない。
都会では、もしかしたら風が街に抗っているんじゃないかと思う。

レオニーはいつか、抗ったりしなくてもいい、気持ちの良い風にふかれて、この街を歩いて行くのかもしれないな。

 

『さよなら、退屈なレオニー』は、6/15(土)~新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです!
是非、イライラしているレオニーに会いに行ってください!

公式HPhttp://sayonara-leonie.com/

 

住本尚子 イベント部門担当。 広島出身、多摩美術大学版画科卒業。映像とイラスト制作しています。