“新宿タイガー”
あなたはこの名前を聞いたことがあるだろうか?
 
ド派手な衣装に虎のお面
その謎の人物の正体はシネマと美女と酒をこよなく愛するひとりのロマンチストだ。
 
この映画は、新宿タイガー(以下タイガーさん)をよく知る人々へのインタビューとタイガーさん自身を追ったドキュメンタリーである。激動の時代を新宿と共に生きて来たタイガーさんを、ある人はこう呼ぶーーー風のような人。
 
彼は約50年もこの姿でタイガーとして新宿で生活し続けている。
誰もがその理由を知りたいと思うが、彼は彼自身について多くを語らない。
 
しかしシネマと美女と酒を目の前にしたタイガーさんはあっさりとマスクを外し饒舌に語り始める。特に美女を目の前にしたときの彼の饒舌っぷりといったら!彼の口は自分のことではなく彼が愛するものを語るためにあるようだ。
 
しかしインタビューを通して彼の生き様や人間性はよく伝わってくる。
彼と知り合って30年のNorie.Wフレアバタフライ(渡部倫枝)さんとの会話の中に、彼の生き方を表す言葉があると感じた。
 
Norieさん『新宿は随分変わって来たと思うけれど、どう思う?』
タイガーさん『昔は自由、野放し。今は規制が激しくなった。でも良いか悪いかは未来が決めるからね。
Norieさん『(タイガーとして生きることで)色々な(悪い)こと言われなかった?』
タイガーさん『そりゃあ、山程言われたって選択は自分だからね。
 
彼の人間性はその2つの言葉に凝縮されているように思えるのだ。
彼は何者でもない。
ド派手な衣装で虎のお面を被りながら暮らす新宿タイガーである。彼はそれをわかっている。
変わりゆく新宿の中で、その変化を感じていても彼は昔の様な自由を求めて叫んだりはしない。
 
それも全て、彼自身が自分で決めた選択なのだ。
 
そしてそれをやり通す。それがタイガーさんの生き方。
 
風は痕跡を残さない。
彼もふわっと誰かの心を通り抜けては、衣装の花びらを数枚残して去っていく。
タイガーさんが自転車で新宿を駆け抜ける姿とその生き様はまさに風そのものだ。
 
さらにこの映画を通して、新宿のたどって来た歴史を振り返ることも出来る。
彼がタイガーとして生きることを決意した時代にまだ生まれていない私にとっては、劇中の中に出て来た『新宿メディアポリス宣言』なるものからいまの新宿が始まっていることなど新しく知ることも多かった。
 
この時代を知る世代の人にも、私の様に知らない世代の人にも、この映画を通してタイガーさんに出会って欲しい。
 
今日もまた、変わりゆく新宿のどこかにタイガーさんがいる。
この映画を観たらきっと誰もが新宿タイガーに会いたくなる。
 
 
「新宿タイガー」3月22日よりテアトル新宿にて公開。

出演:新宿タイガー
ナレーション:寺島しのぶ

監督・撮影・編集:佐藤慶紀
配給:渋谷プロダクション

公式サイト:http://shinjuku-tiger.com/
予告編:https://youtu.be/W1o-_tQBBNk

■あらすじ

東京のエンターテインメントをリードする街・新宿。
1960年代から1970年代にかけ、新宿は社会運動の中心だった。
2018年、この街には“新宿タイガー“と呼ばれる年配の男性がいる。彼はいつも虎のお面を被り、ド派手な格好をし、毎日新宿中を歩いている。
彼は、彼が24歳だった1972年に、死ぬまでこの格好でタイガーとして生きることを決意した。1972年当時、何が彼をそう決意させたのか?
彼が働く新聞販売店や、1998年のオープン時と2012年のリニューアル時のポスターにタイガーを起用したTOWER RECORDS新宿店の関係者、ゴールデン街の店主たちなど、様々な人へのインタビューを通じ、虎のお面の裏に隠された彼の意図と、一つのことを貫き通すことの素晴らしさ、そして新宿の街が担ってきた重要な役割に迫る。

 

永山桃

早稲田大学4年生休学中。ロンドン留学中。お芝居や声優のお仕事をしています。帰ったらタイガーさんに会いたいです。猫が好きなのに、柴犬をかっています。ワンワン!