来年125日より、フランス映画「ジュリアン」が公開される。本日は一足早く、レビューを載せたいと思う。

本作はフランスで40万人の観客動員を樹立、第74回ヴェネチア国際映画祭において、最優秀監督賞である銀獅子賞を受賞した、社会派スリラーだ。しかし、観るによってジャンルの捉え方は異なるであろう、人間ドラマ、家族ドラマもあわせもつ、多面的な作品である。今年横浜で開催されたフランス映画祭2018でも上映されており、上映タイトルは英題Custodyそのものずばり親権である。

「ストーリー」

両親が離婚したため、母ミリアム(レア・ドリュケール )、姉ジョセフィーヌ(マティルド・オネヴ)と暮らすことになった11歳の少年ジュリアン(トーマス・ジオリア)。離婚調整の取り決めで親権は共同となり、彼は隔週の週末ごとに別れた父アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ )と過ごさねばならなくなった。母ミリアムはかたくなに父アントワーヌに会おうとせず、電話番号さえも教えない。アントワーヌは共同親権を盾にジュリアンを通じて母の連絡先を突き止めようとする。ジュリアンは母を守るために必死で父に嘘をつき続けるが、それゆえに父アントワーヌの不満は徐々に溜まっていくのであった。家族の関係に緊張が走る中、想像を超える衝撃の展開が待っていた。

 

夫婦の家庭裁判所での話し合いからはじまる。冒頭だけでは、果たして夫と妻、どちらが本当のことを言っているのかはわからない。フランスの社会的な手続きはこのように進むのだと、ドキュメンタリーか、もしくは見本用の映像をみているかのようだ。夫の自信ありげな行動、妻の不穏な表情が目立つ。話し合いの結果が出さえしたら、夫婦は決着がつき、そのまま淡々と物語は進むのかと思いきや、徐々にほころびを見せはじめる。

執拗に妻や子どもたちの動向を気にかけ、息子との面会には態度を豹変させ、現在の住所を聞き出そうとするアントワーヌ。おびえ、必死で嘘をつく幼いジュリアン。ミリアムは必死に沈黙を保つことで、子どもたちを守ろうとする。ジョセフィーヌは、こんな家庭を抜け出したいと恋人を頼る。彼女の誕生日パーティのシーンがあるのだが、そこで歌う可憐な姿にすら、「何か」が漂うのだ。恐怖は大きい。

監督はヒッチコックを尊敬し、彼のような大がかりなしかけは作らないが、心理的サスペンス、スリラーの面で影響を受けているという。血なまぐさいシーンを演出するのは簡単だが、そういったありきたりの方法より、インターホンや時計といった日常音で恐怖を表現したかったそうだ。

最後の20分間は絶対に目が離せない。作品の色が一気に変わり、監督の才能が炸裂する。ネタばれ厳禁、劇場でぜひご覧頂きたい。

 

個人的に本作のおすすめな点は、内容もさることながら、アメリカのRotten Tomatoesの評価が95点とかなり高いところだ。IMDbよりずっとリアルな観客の声が集まる映画サイトなので、そこでの評価は本物だ。また、ヴェネチア国際映画祭はカンヌ国際映画祭より審査員団の個人的好みが色濃くでないので、品質のしっかりした作品の受賞率が高く、満足度が保証される。

俳優陣でいうと、これまで全く注目していなかったが、父親のアントワーヌを演じたドゥニ・メノーシュの演技が凄まじい。彼は「ハンニバル・ライジング」「イングロリアス・バスターズ」といったハリウッド作品から、フランソワ・オゾン、エマニュエル・カレールといったフランス人監督の作品までをこなす中堅俳優だが、本当に役柄そのままの人物なのかと思う上手さだ。彼のキャリアは今後よりひらけていくのではないだろうか。

また、幼いジュリアンを演じたトーマス・ジオリアは演技経験が浅いにも関わらず、緊迫した状況での演技がとてもリアルで、観ているこちらが心配するほどだった。

そして、何よりルグラン監督の若い才能が素晴らしい。舞台俳優である彼は、自身の監督作品で出演することもあるかもしれない。次回作を期待して待ちたい。

 

「ジュリアン」は2019125日より、シネマカリテ、ヒューマントラスト有楽町にて、全国順次ロードショー

監督:グザヴィエ・ルグラン

出演:ドゥニ・メノーシェ、レア・ドリュケール、トーマス・ジオリア、 マティルド・オネヴ

2016年/フランス/フランス語/93分/G 配給:アンプラグド

 

鳥巣まり子

ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。