ハンナ_チラシ表面完成版これはおそらく短期的には2011年の東日本大震災以降のことだと思うのですが、私たちはもう何年も様々な「問題」に直面させられ、そのたびに国家を罵り大企業に毒づき時代の変化に呪詛の言葉を投げかけてきました。しかしそこで何を得たのか?もっと重要なことには何に気づいたのか?

私たちは、大きな相手を前に敗北を繰り返し、そのたびにこれが新たなスタートだとばかり述べてきたと思うのです。しかし、そこで本当に新たにスタートした人がどれだけいるか。単に「問題」を乗り換え、別のフィールドでまた同じパターンで同じ敗北を繰り返したに過ぎないのではないか?

闘争とは(1)意味のある闘いを(2)継続することにおいて価値を持つものだと思います。そのためには、(1)大きな歴史的視野を持ち、時代の変化を味方に付けて、(2)自らのフィールドに踏みとどまりその変化に肯定的な関与を継続させることでしか為しえないと私は思う。

様々な「問題」にそのたびに動員されて、それが全ての闘いの最前線であるとばかり同じ敗北を繰り返すことばかりが闘争ではない。私は基本的に意味のある敗北という概念を持ちません。闘争は勝たなければ意味がない。勝つためにはどうするか。それを考えるのが闘争の第一歩です。

hannah460負けるに決まってる闘いをロマンチックに敗北し続けることなんて全くコミットしたくない。そんなものに意味があるとは全然思わない。闘うのであれば、勝つために闘うべきなんです。最終的に勝つか負けるかではなく、勝つための方法を正しく考えているか?勝てる場所で闘っているか?

勝つためには時代の側に立つしかない。その変化を味方に付け、その最前線において、変化が肯定的に導かれるよう助力する。これが本質的には左翼的なものの考え方だと私は思う。時代の変化に対しては、より良く、より早く、より正しく時代の変化を味方に付け、そこで闘うしかない。

ところでIndieTokyoの活動は、個人的には2011年からはじまった映画上映の延長線上にあります。それは、東日本大震災に伴う不況と自粛モード、そして映画デジタル化によるミニシアター消滅という大きな流れに対し、文化と映画の多様性を守るため、別の可能性を探そうとする試みです。

私たちの最大の興味は、これまであった映画や映画館をそのままの形で守ることではありません。時代の変化の中で失われるものは失われるでしょう。しかし、新たな時代の中で伝統やこれまでの映画の批評軸・価値観が新たな形で息づくこともあるのではないか。私たちの賭金はそこに置かれています。

この辺りに関しては、ITmediaなどに掲載していただいた私のインタビュー(前・後編)でもう少し詳しく話していますので、是非そちらを参照してください! http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1506/01/news018.html / http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1506/08/news008.html

HANNAH TAKES THE STAIRS, Ry Russo-Young, Kent Osborne, Greta Gerwig, 2007. ©IFC Films

HANNAH TAKES THE STAIRS, Ry Russo-Young, Kent Osborne, Greta Gerwig, 2007. ©IFC Films

もちろんこれは私たちの闘いであり、万人がコミットすべきものではない。人にはそれぞれ別の興味があり別の闘いがある。しかし、映画に興味がある人、ミニシアターやシネクラブ活動による映画上映の多様性の恩恵をこれまで受けてきたと感じる人であれば、同じフィールドにいるのではないか。

そしてまた、そのオルタナティブな映画上映のための私たちのDIY活動は、2011年から5年の継続を経て、ついに明日、2015年9月19日(土)に『ハンナだけど、生きていく!』という作品を一般劇場のシアター・イメージフォーラムでロードショウ公開させるという大きな節目を迎えるのです。

作品の権利購入から字幕などの作成、チラシやポスター制作、そして配給・宣伝にともなう全ての作業に至るまで、全てDIYによる完全な自主配給です。それを上映の専門家ではない映画批評家の私と学生中心の団体IndieTokyoが実現するわけです。これは決して小さな出来事ではありません。

IndieTokyoは「万人が見るべき映画」を上映するための組織ではない。少ないかもしれないけど「誰かの心には確実に届く映画」を「誰かの心に確実に届けるため」大切に上映する組織です。(むしろ「万人が見るべき映画」とは今やグローバル資本主義の体の良い搾取の口実に過ぎないのでは?)

このような文化のパーツが現在の社会の中で確実に失われつつある。ならば、むしろ時代の変化を味方に付け、より身軽に、より自由に、自分たちの見たい映画を自分たちの好きなスタイルで自分たちと同じように映画を愛してくれる人たちに届けたい。こうした可能性を私たちは模索しています。

事実、『ハンナ』という作品自体、そのような理念で作られたDIY映画なのです。『フランシス・ハ』でブレイクしたグレタ・ガーウィグ主演ということで私たちもこの点を主に宣伝していますが、しかし作品の背後に存在する彼ら彼女らの映画への思いと理念もまた感じてもらえると嬉しいです。

『ハンナだけど、生きていく!』(東京はシアター・イメージフォーラム、関西は京都シネマ) http://indietokyo.com/?page_id=1600

『若き詩人』 監督:ダミアン・マニヴェル

『若き詩人』
監督:ダミアン・マニヴェル

そして『ハンナだけど、生きていく!』公開後も、さらに私たちは活動を継続します。同じくシアター・イメージフォーラムで今年11月後半よりダミアン・マニヴェル監督による『若き詩人』という映画を配給公開するのです。こちらもまた、フランスで生まれた新世代DIY映画です!

無名の監督とキャスト、そして国からの助成金もなしに、短編制作で得た映画祭の賞金と個人資金の投入のみで作られた超低予算映画にも関わらず、フランス全国20館で拡大ロードショウされ大きな賞賛に包まれた、本気で新世代の登場を感じさせるフレッシュな素晴らしい作品です!

『若き詩人』(東京はシアター・イメージフォーラム、関西はシネ・ヌーヴォ) http://indietokyo.com/?page_id=2572

闘争は、正しく理念を持ち、正しい場所で、正しく継続することにおいて価値を持つ。私はそう考えています。最終的にこの闘争が勝利に結びつくかどうかは分かりません。しかし、少なくともIndieTokyoは勝つための方法を考え、勝つための場所で、勝つために闘いを続けています。

IndieTokyoの活動、そして明日からイメージフォーラムで公開となる『ハンナだけど、生きていく!』、さらに年末公開の『若き詩人』にご支援・ご協力いただけると嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いします! http://indietokyo.com/

HANNAH TAKES THE STAIRSそして、明日からの『ハンナだけど、生きていく!』@イメージフォーラム公開スタートを前に、さらに2つの媒体で本作品を取り上げていただきました!まずは、WebDICEでなんと本作監督ジョー・スワンバーグのインタビューが掲載!絶対必読! http://www.webdice.jp/dice/detail/4851/

そしてもう一つは、「The Fashion Post」でも『ハンナだけど、生きていく!』公開情報を掲載していただいてます! http://fashionpost.jp/archives/45457

その他、新聞など活字媒体でも幾つか掲載予定があるのですが、こちらはまた確定次第告知させていただこうと思います。ともあれ、明日から公開の『ハンナだけど、生きていく!』、どうぞよろしくお願いします!良い映画なんだ!私たちは闘いを楽しんでるんじゃなく、楽しむために闘ってるんだから!

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
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