今年はバウハウス設立100年周年を記念して、世界中でさまざまなイベントが開催されている。日本では、各地での巡回展『きたれ、バウハウス』に続き、11月23日(土)よりユーロスペースにて『バウハウス100年映画祭』がスタートする。

そもそもバウハウスとは何なのか?
アートや建築に興味のある方なら一度は耳にしたことがあるであろうこの名前。特にデザイン専攻で学んだ私のような者にとっては、”伝説的”な存在だ。
バウハウスは、1919年、第一次世界大戦後のドイツで、ワイマール工芸大学と造形芸術大学が合併し、芸術と技術の新たな統合を目指して設立された。初代学長のヴァルター・グロピウスを始め、パウル・クレー、ヴァシリー・カンディンスキー、ヨハネス・イッテン、ラースロー・モホイ=ナジなど、その時代を代表する建築家やアーティストが教師として集まったこともバウハウスを伝説たらしめる理由のひとつである。彼らの展開した独自の造形教育は、芸術的”革命”起こしたと言っても過言ではない。それまで現実から遊離していた芸術教育を見直し、戦後の社会状況、産業革命後の人々の暮らしに向き合うことで、ナチスに閉鎖されるまでのたった14年間という短い活動の中で、モダニズムの基礎を作ったのだ。また、教育機関であるとともに、学校内の工房では実際に生産活動が行われるなど、生産事業体としても機能していた。そこで生まれた工場生産に適した機能的な家具や、アイコニックな建築たちは今尚愛され続けている。

そんなバウハウスの実態や影響力を、さまざまな側面から紐解いてくれるのが今回の映画祭である。

『バウハウス 原形と神話』では、主に卒業生の言葉でバウハウスが語られる。彼らの発する「私たちは世界を変えると信じていた。」というような言葉からは、自分たちが時代を切り開いているんだという自信と熱量がひしひしと伝わってくる。私の学生時代では感じ得なかったこの感覚には憧れと嫉妬すら感じてしまう。また作中では、そういった変化を象徴するエピソードがいくつも語られる。例えば、バウハウスのあるヴァイマールで労働紛争の死者を偲んだモニュメントを建てようと行政がコンペを開催したエピソード。出品作品は、母の像など人間をモチーフにしたものばかりだった中、唯一抽象的な像を出品した当時の学長グロピウスが選ばれたそうだ。こんな出来事にも時代の移り変わりや、バウハウスの影響力を感じられる。

『バウハウス・スピリット』が映し出すのは現代。新たな表現を模索するダンサー、スウェーデンで新しい形態の学校をデザインする建築家、南米スラム街の都市開発を行うアーバン・シンクタンクなど、豊かな発想と斬新な手法で活躍する人々の活動が、バウハウスの思想を持ち出しつつ紹介される。戦後のモダニズムを追求したバウハウスの思想は、時代とともに変化する社会・都市のあり方にはもちろん当てはまらい部分もある。しかし、そこにバウハウスの思想を持ち出すことで、バウハウスの”精神(スピリット)”が見えてくるのだ。

『バウハウスの女性たち』では、バウハウスの影の部分が描かれる。当時としては珍しく、人種、性別、年齢に関わらずあらゆる学生を受け入れたバウハウスは、それまで美術アカデミーの入学が許されず、工芸学校に通うしかなかった芸術の道を志す女性たちにとって希望の場所となった。一見リベラルに見えるこの環境も、やはり社会の目には逆らえず、その後バウハウス内部でも女性が不遇な扱いをうけるようになっていく。バウハウスですばらしい作品を残した6人の女性たちの物語は、彼女たちの才能や勇敢さとともに、当時の芸術分野でどのような眼差しが女性に向けられていたか、その実態を伝えてくれる。

上記3作品を含め、6つのドキュメンタリー作品が4プログラムで上映される。これだけ貴重な記録映像をまとめて観れる機会はなかなかないだろう。ぜひこの”伝説”に触れてほしい。

バウハウス100年映画祭

11月23日(土)より、渋谷・ユーロスペースほか全国順次開催
公式HP:https://trenova.jp/bauhaus/

配給:トレノバ
協力:ゲーテ・インスティトゥート東京
後援:在日スイス大使館、ハウハウス100周年委員会、German Films

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。