[東京フィルメックス日記 2018③](鳥巣)

現在、1117日より開催中の第19回東京フィルメックスにて、1122日に鑑賞した作品「自由行」「8人の女と1つの舞台」をご紹介したいと思う。

 

 

「自由行」

台湾、香港、シンガポール、マレーシア / 2018 / 107
監督:イン・リャン(YING Liang)

中国から香港に移住して活動を続けるイン・リャンが自己の境遇を投影した作品。創作の自由のために自主亡命せざるを得なかった映画作家の葛藤が見る者の胸に突き刺さる。ロカルノ映画祭で上映された。

中国当局から思想的な弾圧を受ける映画作家が、久々に会える病気に苦しむ母と台湾旅行に参加するが。。というストーリーだ。

とても静謐で、淡々とした作品だと感じた。ところどころで主人公の女性監督がつくる詩がはさまれるのだが、言葉が美しく印象的だ。映像が澄みきっていてごちゃっとした描写がなく、台詞もストレートに発されるのので、道をまげない強さを感じた。主人公は女性におきかえられているが、監督自身の境遇が強く反映されている為、観る者の心をうつ。背景を台湾という観光地にすることで、物語に動きやエンターテイメント性が生まれている。

上映終了後のQA では、久々に来日が叶った監督に対して、様々な質問が飛びかった。

監督は開始の挨拶で、「今日はこうやってフィルメックスに来ることができて、本当に嬉しいです。こうやって皆さんとお会いできるのはなかなか簡単なことではないので、私にとっては素晴らしいチャンスなんですね。古い友達と語り合うような、そういう目的で作った作品なので、フィルメックスという私の馴染みの観客の皆さんがいる映画祭でかけていただくというのは、とてもふさわしいと思います。この作品はここ67年の私の変化ですね、どういう年月を送ってきたかということを表現したんです。それによってここ数年間の決着、まとめがつくと感じています。」と述べた。

作品のきっかけについて「台湾旅行に行ったのは実際にあったことで、違うのは妻の親に会ったという点です。私自身は、自分の親には6、7年会っていません。私には今5歳になる子供がいるので、この映画でどうしてその旅行にいったのか、説明をしたかったんです。中国というのは世代を超えて、様々な味わっています。国に対する恐れがありますが、そういった苦難を表現できないでいます。この作品によってそうした流れを変革したい気持ちから、本作をつくりました。」と語った。

女性におきかえた理由について「この作品の脚本は私を含めて3人で書いており、他の2人は女性です。私の妻ともうひとりはチェン・ホイという中国の小説家です。自分で経験することはあまりに近すぎて見えなくなりますが、そうでない人に参加してもらうことで、自分自身のことが見えることが非常に良かったと思っています。男性にすると、100%私のことでしょうと思われてしまうので、ほかの同じような経験をした人たちの経験も含めて表現したかったんです。」と述べた。

QAの後も、ホールのロビーに現れ、観客のサインや質問に温かく応えていらっしゃった。他の監督、出演者が同じことをしているのを今年は見かけていなかった為、誠実で人に対してまっすぐな監督の姿勢が素晴らしいと思った。奥様(本作の脚本を担当、また作中で主人公たちが参加するツアーのガイド役として出演)とお子さんも横にいらっしゃって、とてもほほえましかった。

中国の表現に対する当局の弾圧というものは、想像より大きいものなのだと感じた。本作には中国の資本がいっさい入っておらず、台湾、香港、シンガポール、マレーシアだ。中国のチャン・イーモウやジャ・ジャンクーなどほかの監督も受けてきた洗礼になるが、よりよい時代の変化がくることを祈りたい。

 

8人の女と1つの舞台」

香港、中国 / 2018 / 100
監督:スタンリー・クワン (Stanly KWAN)

舞台復帰をめざすかつてのスターと、同じ舞台で初出演となる人気女優など、8人の女性たちが演技合戦を繰り広げる華麗なバックステージもの。香港、中国のスター女優たちが女性映画の名匠スタンリー・クワンの下に集結した。

香港の名監督の久々の新作映画である。邦題がフランス映画「8人の女たち」とかけているのだろうと思ったが、原題は「First night nerves」だ。香港映画のスター、ジジ・リョンとサミー・チェンが共演するというのは、大きな話題だろう。来日が予定されていなかったにも関わらず、急遽参加してくれた監督は、ユーモラスで明るくパワフルなオーラをまとっていた。

ストーリーとしては、往年のライバル同士の女優が舞台で共演を果たすが、それぞれの感情や思惑、ゴシップが展開されていく。。というものだ。個人的に香港映画が活気をおびていた時代の作品が好きだった為、昔からの大スター同士の競演はとても嬉しかった。

作品のきっかけについて「3年前に香港政府のある計画がありまして、香港のランドマークともいえる、作中に登場したシティホールという劇場を壊そうという話がありました。この話題が出たときにたくさんの反対の声があがりました。世代をこえて皆さん猛反対なんですね。幸い、その計画はなくなりましたが、香港政府によると、来年この劇場をいったん閉鎖して改装をするそうです。

私たち、香港で生まれて育ったものにとっては、イギリス統治時代の内装というのは、とても懐かしいものなんですね。おそらく改装後の劇場はまったく違うものになってしまうのではないかと心配しています。」と語った。

演劇の世界には関わりはあるのかについて「私が中学生の時に通っていた学校には、有名な演劇のサークルがあって、その頃からどっぷりとつかっていました。また、私の母親は、私がお腹にいた時から広東オペラが大好きで、赤ちゃんの時、生まれる前から聴いていました。幼少期から観にいっていたので、舞台にある光とか音、そういったものに心が惹かれていたのです。映画の話に戻ると、映画を作るうえで、詳細にすべてを語るべきとは思っていません。観客の皆さんに余白を残しておくべきだと思っていますし、時々は現実、時々は想像の世界、そういったことが必要です。」と述べた。

作風が変わっているが、自身の変化なのか、香港の中国返還などが起因しているのかについて「実はここ10年ちょっと映画は撮っていませんでした。90年代の半ば、終わりほど、香港の映画人はたくさん中国に招かれて作品を撮りました。中国側からしたら、香港の映画人の映画製作に対する真面目さであったり、システムがしっかりしている、それぞれのジャンルの映画製作に対して把握しているところは魅力的だったのです。ただ、はじめは中国映画の現場は慣れるのは大変でした。どうしても中国を題材にしたものを作る必要がありました。

監督になった時から私は思っていたのですが、雇われ監督をやるだけでは嫌で、こちらにも投資側を選ぶ権利があると思っています。中国にもたくさんの優秀な監督はいますから、私はプロデューサーとしての経験も楽しんでいて、監督をやるよりもプロデュースをするほうが合っているとも思っています。本作に関しても、シティホールが壊されるという話を聞いて、お金を集めて作品を作らなければと思ったのです。」と述べた。

やはり有名監督だけあり、QAでの観客の手を挙げる人数も多く、びっくりした。最後に監督が「また映画を撮ります!」と宣言して帰っていった姿に笑いを誘われ、元気をもらった。

東京フィルメックスは1125日まで、有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日比谷にて開催中です!

 

 

鳥巣まり子

ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。