[東京フィルメックス日記 2018](鳥巣)

現在、1117日より開催中の第19回東京フィルメックスにて、1119日に鑑賞した作品「Your face」「マンタレイ」をご紹介したいと思う。 

「Your face」

台湾 / 2018 / 76
監督:ツァイ・ミンリャン(TSAI Ming Liang)

12人の人々、それぞれの顔がその人の生きてきた時間を映像の中に象徴的にあぶり出していく。本年度のヴェネチア映画祭でワールドプレミアを飾った、ツァイ・ミンリャン監督待望の最新作。音楽を坂本龍一が担当。

 

今年のヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された作品。近年ツァイ・ミンリャンは商業作品からの卒業を発表し、その後は実験的な作品づくりを続けている。

冒頭からおよそ10分間、初老の女性の顔を映し続ける。音はない。ひたすら黙り、緊張状態が続くが、あまりに長い沈黙に彼女は最終的に吹き出してしまう。とても可愛らしい瞬間だ。

内容としては、シンプルに12人にもおよぶ一般の老齢の人々と、そしてサプライズ的に登場の俳優リー・カンションの顔をクロースアップでひたすら映し出す作品である。一般の人たちとはいえ、やはりそこはミンリャンの力量なのだろうか、どの人々の顔もとても味わい深く、人生の様々な波を感じさせた。

最初からいきなり「お金を稼ぐのが大好き」という女性は、この作品に老齢の人々の一員として扱われるとは思えない、若々しい女性だ。彼女は仕事や家族、町いちばんの美女だったことを語る。最初の恋人と別れ、30年後に再会した話は、さながら昔ながらのアジア映画をみているようだった。

また、個人的には作品の中盤に出てくる、老齢の男性が好きだった。映画「グレムリン」に出てくるグレムリンのようにしわくちゃで目がきょろっとし、愛嬌がある。彼の場合は、全くしゃべらない。ただ 年を重ねると、人間は心の年齢が戻っていくというが、年をとった男性というより幼い子どものようにも思えた。

難を言えば、坂本龍一の音楽に期待したが、控えめにみても音響、と思われる範囲だった。もしかしたらもっと長い尺で使う予定だったのかもしれないし、サウンドトラックの発売の予定があるのならば、フルバージョンがあるのだろう。エンドロールも無音の為、物足りなかった。また、これだけの人数がいると、もう少し話を聞いてみたいと思う人物もいた。

おそらくミンリャンのファンでなければ、睡魔との闘いはあると思われるが、彼の人への優しい姿勢は、カメラの外から聞こえてくる彼の声にものすごく表れている。何かを得ようとする作品というより、無に近い状態になることで自分にあるものを考える、どこか癒しの要素がある作品と感じた。個人的にはミンリャンの来日とQAが聞きたかった。国内公開が決まるのが待ち遠しい。

また以前、同作品の紹介レビューを書いておりますので、よろしければご覧くださいませ。

 

 

「マンタレイ」

タイ、フランス、中国 / 2018 / 105
監督:プッティポン・アルンペン (Phuttiphong AROONPHENG)

ロヒンギャ難民(ミャンマーのイスラム系住民)の問題を背景に描いた、『消失点』(15)の撮影監督プッティポン・アルンペンの監督デビュー作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映され、最優秀作品賞を受賞した。

 

タイにおける難民という社会的問題から発想を得て、製作された作品。そうしたテーマから相反するような、光や音の映像の印象が強く、冒頭から、森の暗闇の中で人工的なライトを点滅させた人物が登場する。ユニークな監督の感性が発揮されていた。

上映終了後のQA では様々な質問が飛びかった。

司会の方からは今年のアジアを代表する作品なのは間違いなく、どう形容してよいかわからないと言われる作品。最初の挨拶には、「この作品を最後まで我慢強く観てくれてありがとうございます。観客の中には中盤で席を立ってしまう人も多いのです。」とユーモアをこめて話していた。

タイトルの「マンタレイ」とは世界最大のエイであるオニイトマキエイのことを指している。

企画自体は2009年からあり、その時にはまだどういった作品になるかは決めていなかったそうだ。

ロヒンギャ難民(ミャンマーにいるイスラム系少数民族であるロヒンギャ難民の船による入国を拒否した結果、彼らの船が消息不明の事態になった事件)を扱ったことに対して「興味をもっていたのはアイデンティティの差、もしくは違いで、2010年にタイで起きたロヒンギャ難民に影響を受けて、国籍、宗教に関わる物語を作りたいという気持ちから、本作がスタートした。」とのことだ。

好きな監督は、タイといえばまず名前が挙げられるアピチャートポン・ウィーラセータクンだが、アルンペン監督も例外ではなく、「小さい頃から観ていた大好きな監督」だそうだ。

光や森が印象的で、どのような意図が込められているかの質問には、「2009年にタイとミャンマーの国境を旅していた時、国境を隔てるはっきりした建物や警備の人間がおらず、国境となるものはどれなのか視覚化しようとした。その時に国を隔てるものは何もないのだと感じ、それを映画的言語に変換して表現したかった。 森という有機的な存在に、LEDという人間によって作られた人工的な光がもちこまれるというような事を描いている。」と語った。

どうしてもストーリーというより映像の美しさ、こだわりが強く出ており、理解するのに難解さがあったが、今まで個人的には知ることのなかったロヒンギャ難民について、知る機会となったのが本当に良かった。

東京フィルメックスは1125日まで、有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日比谷にて開催中です!

鳥巣まり子
ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。