14歳。将来の可能性は無限に広がっているように思えるが、実際はまだ自力で自分の可能性を模索できるほど自立できない年齢。本作はその14歳という微妙な年齢の少年、ジョーの目を通して描かれる、迷える大人たちの物語だ。

 本作で脚本を共同執筆しているゾーイ・カザンが脚本とヒロインを務め、ポール・ダノが主人公を演じた『ルビー・スパークス』は、自分がフィクションとして作ったキャラクターが生身の人間として目の前に現れるという、「もしも」が現実になったら……というファンタジックなロマンチック・コメディーだった。本作で描かれる一組の家族も、絵に描いたような理想的な家族として登場する。庭でアメフトの練習をする父と息子、若々しく美しい母。しかし、父の失職をきっかけに、この一見幸せな家族にも、実は細かい亀裂が入っていたことが明らかになってくる。父親であるジェリーはプライドが高く、自分を解雇した職場からの復帰要請にも応じようとせず、一度行くと数か月は戻れず、稼ぎにもならない、山火事の消火活動への参加を勝手に決め、家を出ていってしまう。『ルビー・スパークス』が、味気ない毎日の中で夢見る「もしも」から始まる物語だったのに対し、本作の大人たちは、現実を直視することも、「もしも」を夢見ることもできない。ただひたすら、今の自分にとって、少しでも明るく見える選択をすることで、その場をやり過ごそうとするが、それはさらなる事態の悪化を招くだけだ。一度入ってしまった亀裂は元には戻せないし、一度亀裂に気づいてしまったら、もう見なかったことにはできない。

 自分の夢/理想と、現実の間で葛藤する登場人物たちを描いた作品は多々あるが、自分が一体何を求めているかもわからず、その場しのぎの選択を重ねていってしまう本作での大人たちの描かれ方には、とても現代的なものを感じる。本作が初監督作となるポール・ダノは1984年生まれ。ミレニアル世代である。かつての世代が持っていたアメリカンドリームへの憧れも、資本主義的な生活への憧れもないとされる世代。この作品を初監督作に選び、希望と呼ぶにはためらわれるが、それでもたしかに淡い希望を感じさせるラストシーンで終わらせたダノ監督に、ミレニアル世代ならではの繊細さを見たような気がした。

『ワイルドライフ』公式サイト

7月5日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか、全国順次ロードショー

佐藤更紗
国際基督教大学卒。映像業界を経て、現在はIT業界勤務。目下の目標は、「映画を観に外へ出る」。