昨日、第30回目となる東京国際映画祭が開幕した。不安定な天候にもかかわらず総勢90組ほどのゲストがレッドカーペットを歩き、会場には終始歓声が上がった。

 

 さて、プレスとしては初参加の筆者、東京国際映画祭日記なるものを書く以上一応写真も数枚撮らねば帰れまい、と思い取材スペースに赴くも、考えが甘かったことにすぐ気付く。たった一人乗り込み手持ちのiPhone片手にできるようなことではない。唯一の収穫といえば、アレハンドロ・ホドロフスキー監督作品『エンドレス・ポエトリー』チームを賑わせていた“骸骨の皆様”の写真である(なんとIndieTokyoスタッフの一人も“骸骨役”をしていたという)。というわけで、当初は写真たくさん見栄えある記事に仕立てようと思っていたが、願い叶わず文字多量になることをここで断っておきたい。

 

 

 午後三時、同映画祭のアンバサダーを務める橋本環奈を筆頭に、続々とゲストがレッドカーペットを歩く。歩く前、そして歩き終わった後には一言ずつゲストからのコメントがあるのだが、印象的だったのは『リュミエール!』の監督・脚本・ナレーションを務めたティエリー・フレモー監督だ。彼の名はカンヌ国際映画祭総代表、そしてフランス・リヨンにあるリュミエール研究所の所長として広く知られている。そんな映画の守り人とでもいえる人が今回、初の監督作品『リュミエール!』を携え来日したのである。「120年ほど前、リュミエール兄弟が映画を作るために東京に来ました。今こうやって自分がここにいることを本当に嬉しく思います」という短いながらも一気に映画史へ引きこませるような言葉は感慨深い。自身の作品についてコメントを求められた際にはこう答えていた。

 

「私はカンヌ国際映画祭のディレクター以外にもリュミエール研究所の所長をしています。今回はシネマトグラフのルーツを探るという目的があって……リュミエール兄弟はたくさん映画を作りました。なのでそれを紹介することで、観る方にも映画のルーツに触れてほしいと思っています。僕はただ皆さんにそれをお届けする意義を感じているので、映画という形でご紹介しています」

 

 レッドカーペットに続くオープニングセレモニーでは、「映画を観る歓びの共有」、「映画人たちの交流の促進」、「映画の未来の開拓」という本映画祭の提案する三つのビジョンが紹介されたあと、各プログラムの紹介、審査員からの挨拶などが行われた。その中から一つ、Japan Now「銀幕のミューズたち」特集についてここでは書こうと思う。

 

 Japan Nowというプログラムは「日本映画の現在を認識してほしい」という思いから用意されたもので、「過去一年の日本映画を振り返りセレクション」された作品が上映される。今年はさらに、「今最も輝く女優にスポットライトを当て」て選ばれた作品も特集上映されることになった。銀幕のミューズとして選ばれた女優は、安藤サクラと満島ひかり、蒼井優、そして宮崎あおいという同学年の四名だ。このような特集が組まれたことについて、以下彼女たちのコメントを引用しよう。

 

安藤サクラ

 謙遜するのもおこがましいという気持ちです。どんな気持ち、というのはすごく難しいですね。あまりそういうことを考えずに、一映画ファンとして楽しめたらいいな、というところにたどり着いたんです。私はこの方々[他の三人]を見ながら育ちました。私にとっては同世代の映画にでていく開拓者のような存在です。なので、こうやって一緒に特集されることが特別な時間です

 

満島ひかり

 ここにいる女優さんたちを筆頭に、日本の女優さんは他の国に比べて体も薄いし小さいし、ここにいる四人は特別そうかもしれないけれど、小動物が持っている、内に持っている湧き上がるような狂気とか形容できない愛情の塊だとかを、いつもスクリーンを観ていて感じています。[……]東京は日本の中でもたくさんのものの窓口になっていて、そこで私たちが、小さい頃から映画の中で育って、いろんなことを諦めきれないなかまだ映画の中にいて、ここに今立てていていることを嬉しく思います。こういう式って苦手なんですけれど、私たちが発信した言葉によって、「映画を観にいこうかな」とか、最近エンターテイメントから離れてたなと思う人が映画館に足を運んでくれたらいいな、と思います。

 

蒼井優

 あおいとはデビューした頃に何回か一緒に撮影していて、そこからしばらくはバラバラにお仕事をしていて、三十近くになってひかりちゃんやサクラちゃんに出会ってお仕事するようになって……本当に私、85年組の女優さんがすごく好きで、ああ、よかったなって思うし、地道に一本一本やっていったらこうやってまた再会できるんだなって思ってとても嬉しいです。映画しか楽しみのなかった十代を経てきて、そういう人もまだいらっしゃると思うんですけど、映画によって誰かと繋がることができたり、繋がらなくても同じ空間でものを観るという時間が私はとっても好きなので、このお祭りの最中、みなさんに楽しんでもらえたらな、と思いますし、私も楽しめたらいいなと思います。

 

宮崎あおい

 とても光栄に思っています。みんなそれぞれ過去の作品を上映していただけるということで、やっぱりなかなか劇場では観たいけど観られなかった映画とか、ずいぶん前のものでなかなか観る機会のないものなんかも、今回の映画祭で観ていただける貴重な機会だと思いますので、たくさんの人に足を運んでいただいて楽しんでいただきたいなと思っています。

 

 

「銀幕のミューズたち」上映作品およびスケジュールは以下の通り。

安藤サクラ出演作品

・『かぞくのくに』(2013)   10/29(日)14:40 TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

・『0.5ミリ』(2013)      10/29(日)10:00  TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

満島ひかり出演作品

・『愚行録』(2017)      10/27(金)15:20 TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

・『海辺の生と死』(2017)   10/27(金)11:25 TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

蒼井優出演作品

・『花とアリス』(2004)    10/30(月)18:50 TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

・『家族はつらいよ2』(2017) 10/30(月)15:20  TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

宮崎あおい出演作品

・『EUREKA』(2001       11/1(水)14:50 TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

・『怒り』(2016)       11/1(水)11:05  TOHOシネマズ六本木ヒルズScreen2

 

原田麻衣
WorldNews部門
京都大学大学院 人間・環境学研究科修士課程在籍。フランソワ・トリュフォーについて研究中。
フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。