今年は日本とオーストリア・ハンガリー二重帝国との国交成立から150年にあたるそうで、東京のあちこちで関連する展覧会が開催されていますが、「クリムト展」とタイアップしたドキュメンタリー映画『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』が公開中です。
グスタフ・クリムトとエゴン・シーレの没後100年となった昨年に製作されたこの映画は、彼らの作品、再現映像や、美術史家などのコメントとともに19世紀末ウィーンの文化の潮流を紹介しています。過去の芸術様式を模倣するばかりの、非常に保守的な空気にあった当時のウィーンにおいて興ったウィーン分離派や、ベルタ・ツッカーカンドルによる芸術サロン、フロイトやシュニッツラー、その後登場したエゴン・シーレの存在などが次々と語られていきます。

©Archiv des Belvedere, Wien, Nachlass Ankwicz-Kleehoven

私自身も「クリムト展」を鑑賞してからこの映画を観たのですが、その絵画に対して個人的に抱いた感想は、あまりにも華やかで、ただ美しいというよりも少しグロテスクな、なにかどろどろとしたものを孕んでいるのではないかということでした。展覧会では、クリムトが生まれて間もない息子を亡くしたなど、彼の死への意識を紹介していましたが、1918年、同じ年にクリムトとシーレが没したことでその黄金時代も終わっていった、と映画が語っているように、何かが終わる一歩手前の爛熟した時代の空気を反映していたのかもしれないと思います。

大規模な美術展などで紹介VTRのように短い映像が流されていることがありますが、展覧会とタイアップしたかたちでのドキュメンタリー映画の公開ということで、どのような内容なのだろうかと興味深く観ていました。展覧会や映画で得た知識と感想を呼応させてみるのも面白いかもしれませんが、世紀末ウィーンの芸術に興味のある人がふたつを梯子したら、華やかな雰囲気をたまらなく満喫できるだろうなと思うと、映画館で映画を観ることにはまだ色々な楽しみがあるのだと改めて感じました。
クリムトもシーレも女性をモデルにした絵画を数多く残していますが、当時のウィーンで、初めて大学へ行った女性の一人であるヘルミーネ・フーク=ヘルムートが少女の性への目覚めを描いた自身の日記を出版したり(フロイトが「小さな宝石」と呼んで絶賛したそうです)、若くして写真スタジオを開いたドーラ・カルムスが、女性をそれぞれの要望に応じて美しく撮影する手法を考案し大評判になったなど、映画で当時の女性をめぐる文化の一端を垣間見ることができたのが面白かったです。

© Belvedere, Wien, Photo: Johannes Stoll

『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』
日本語ナレーション:柄本佑
出演:ロレンツォ・リケルミー、リリー・コール
監督:ミシェル・マリー
脚本:マリアナ・マレリ
2018年/イタリア/イタリア語、ドイツ語、英語/カラー/90分/ドキュメンタリー
英語題:Klimt & Schiele – Eros and Psyche
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム
配給:彩プロ

6月8日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開!
『クリムト展 ウィーンと日本 1900』 東京都美術館で開催!(4/23-7/10)

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。大学は卒業したけれど英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。