東京国際映画祭5日目。コンペティション部門に選出されたイラン版“ドラッグ・ウォー”『ジャスト6.5』を紹介します。イラン警察と麻薬組織の息詰まる戦いを、観る者を震え上がらせる圧で押し描いた強烈な作品です。

 

物語は、末端の運び屋をたぐりながら元締めのディーラーを執念で追い詰める刑事の姿を追って展開されますが、まさに“すべてが規格外”。運び屋や容疑者への容赦のない取り調べ、留置場内での小競り合い、刑事同士の駆け引きですら、どの場面をとっても激しい台詞の応酬と並々ならぬ緊迫感に満ちています。その迫力は、記者会見の場で、同国の記者から「こんな雰囲気の映画は初めて。すべてが目新しい」という驚嘆の声が上がるほど。

監督のサイード・ルスタイさんは、つい先日30歳になったばかりの若い監督です。26歳で撮り始め、本作は長編2本目。エピソードを丹念に重ね、溝を埋めるようにしてテーマを明確にしながらも、仕掛けと興奮をたっぷり盛り込みエンタメの面白さもきっちり成り立たせる非凡!今後の作品にも注目したい監督です。映画をつくるにあたっては、常に社会の中に視点を置き、現実に即した作品にすることを心がけているというルスタイ監督。『ジャスト6.5』が描く麻薬汚染の実態も、周辺国から大量安価に流入してくるドラッグは、国の力をもってですら食い止めることができないという難しい現状を反映しています。

 

主役の強面刑事を演じたのは、アスガル・ファルハーディー監督の『別離』で世界に躍り出たペイマン・マアディさん。彼と対峙する麻薬組織のボスはナヴィド・モハマドザデーさんが演じました。イランを代表する人気二大俳優の“対決”も見所の一つです。完璧なヒール役を演じたモハマドザデーさんは、そのボス像について、撮影に入る2年ほど前から監督と入念に話し合いを重ね構築していったといいます。まず役柄を理解し、自分の判断に基づいて行う役づくりの手法は、尊敬する三船敏郎から学んだと明かしてくれました。

 

一瞬たりとも目が離せない本作ですが、会見の席では、一つユニークな撮影秘話が披露されました。とあるシーンの撮影で、ハイウェイにいろいろな車を入れてわざと渋滞をつくりあげた監督。その渋滞があまりにひどい状態になってしまい、ラジオのニュースでは「あのハイウェイは一体どうなっているんだ」と速報が流れたといいます。さらに、SNSに投稿された映像を見た海外のメディアが「アメリカのイランに対する制裁の影響で、今イランではこのように大変なデモが起きています」と報じたという笑い話も。撮影はもちろん警察の許可を得て行われましたが、チャンスは一度だけ。納得のいく映像が撮れるまで、警察には「あと5分、あと5分」と言い訳をして引き延ばし、結局一日かけて撮り上げたといいます。その迫力の映像はぜひスクリーンで!

東京国際映画祭での上映で現在、空席があるのは11月4日の回のみ(監督ほかゲストQ&A付)。詳しくは公式サイトでご確認ください。

 

 

【作品情報】

ジャスト6.5(原題:Just 6.5[Metri Shesh Va Nim])

監督・脚本:サイード・ルスタイ
出演:ペイマン・モアディ、ナヴィド・モハマドザデー、ファルハド・アスラニほか
131分/カラー/イラン/ペルシャ語

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。