私は、今の時代にティーンエイジャーではないことに心から感謝している。とりたててスタイルがいいわけでもない地味顔メガネの10代。休み時間になるとクラスのイケてる女子を中心に上がる歓声の輪に、入りたくても入れなくて、「別に入りたくもないし!」と虚勢を張り図書館へ逃げ込んでいた“隅っ子”の自分には、常に「オン」してポジティヴでステキでナイスな自分を発信することが求められる(それが思い込みと錯覚であっても)SNS時代でうまくやっていける気がしない。今の子たちって本当にすごい、とまずは思った『エイスグレード 世界でいちばんクールな私へ』。

 

ケイラ(エルシー・フィッシャー)は中学卒業を間近に控えた、脱隅っ子したい隅っ子。四六時中スマホ片手に、SNS社会で適者生存していけるよう日々奮闘している。誰も観ない「よりよい自分になるためのアドバイス動画」をYouTubeで流し、「いいね」がもらえなくても、ニキビを消して角度をキメた自撮り写真をアップする。決していじめられているわけではないのだけれど、「なりたい自分」を手に入れて謳歌している同級生のグループには加われないことで、疎外を感じている。人気者になりたい、ボーイフレンドだって欲しい!憧れと承認欲求と諦めと絶望で今にも爆発しそうなケイラは、無事に高校生になれるのか。

SNSが映すのは現実でなく虚と理想、と割り切れない、ニーディーでワナビーな隅っ子の生きづらさと苦しさに、逃げ道を与えるでもなく、美化も昇華もさせないで描く。本作が「青春映画の新しい傑作」と評されるゆえんは、その残酷な優しさにあるのだろう。親への目配せとして、そんな面倒くさくて扱いづらい年頃とどう向き合うかのヒントもある。アナログの温かみと人とのリアルなつながりを嫌味なく散りばめる程よさは、YouTuberとして名を馳せソーシャルメディアの酸いも甘いも熟知した二十代の監督ならではの感度。ボー・バーナムのミュージックビデオ“Repeat Stuff”を観たことがある人なら、あのホラーとユーモアの入り混じった独特の世界観が初の長編映画となったこの作品でもいかんなく発揮されていることに気がつくに違いない。SNS疲れしているすべての人たちの心を晴れやかにしてくれる、魔法ではない、リアルがある。

『エイスグレード 世界でいちばんクールな私へ』
9月20日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷シネクイントほかロードショー

公式サイト

監督・脚本:ボー・バーナム

出演:エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソンほか

製作:A24 音楽:アンナ・メレディス

2018年/アメリカ/英語/93分/原題:EIGHTH GRADE/G/日本語字幕:石田泰子

配給:トランスフォーマー © 2018 A24 DISTRIBUTION, LLC

小島ともみ 80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。