東京国際映画祭5日目。コンペティション部門に選出され、東京国際映画祭での上映がワールドプレミアとなったフランス映画『戦場を探す旅』を紹介します。

 

舞台は1863年メキシコの山岳地帯。覇権をめぐり出兵したフランス軍と、迎え撃つメキシコ軍の間で激しい戦いが繰り広げられていた。その様子をフィルムに収めようとあとを追うフランス人写真家のルイは、地理がつかめず、厳しい天候と自然に阻まれて思うように進めずにいた。そこで偶然に出会ったのが現地住民のピント。言葉の通じない二人だったが、互いに助け合ううちに心を通わせていく。やがて戦場にたどり着いたルイは、自分が本当に探し求めていたものに気づかされることになる。

 

実際の戦闘を目の当たりにし、死を恐れながらも、真実を伝える者としての矜持を示す冷静な一面と、過去の出来事に取り憑かれ、死に近づくことを躊躇わない破滅的な一面を兼ね備えたルイ。演じたのは、黒沢清監督『ダゲレオタイプの女』にも出演するフランス人俳優のマリック・ジディさんです。オーレリアン・ベルネ=レルミュジオー監督と話し合って役をつくりあげていったというジディさんは、ルイを「諸刃の剣のような人物。理想を追い求めて立ち向かう強さがある一方で、もろさを持っている。弱さを抱えながらも突き進む人間だ」と表現しました。この人物像にさらに磨きをかけたのが、撮影地コロンビアの過酷な自然や殺伐とした風景だったといいます。

そんなルイの複雑な内面を伝えるのに一役買っているのが、UKオルタナティヴバンド、ティンダースティックスのフロントマン、スチュワート・A・ステイプルズによる音楽です。ステイプルズは、クレール・ドゥニとは20年以上、仕事を共にするなど、映画音楽作曲家としての顔も持っています。以前からティンダースティックスのファンで、ステイプルズとはいつか仕事をしたいと思っていたレルミュジオー監督。できあがった脚本に「書いている最中は恐怖を感じさせる音楽を連想していた」と一言添えてステイプルズに送ったところ、「私たちは気が合うようだ」とオファーを受けてくれたといいます。監督がリクエストしたのは2点。19世期半ばのメキシコが舞台ですが、時代劇の雰囲気にはしたくなかったので、エレクトリックな感じでもいいから、コンテンポラリーな音楽にしてほしいということ。もう一点は、主人公ルイの内面を浮かび上がらせるような曲調にしてほしいということ。あとはステイプルズさんの自由に任せ、レルミュジオー監督は、どの場面にどの曲を使うのか、その理由は、また、どんな楽器で演奏するのかといったことをやり取りしながら、初のコラボレーションを楽しんだそうです。

 

その効果は監督の狙いどおり、実際の史実になぞらえた作り込みのなかに響くステイプルズの音楽は、観る者の胸に時代を超え場所を越えた共感を呼び起こします。クリエイティビティにあふれた音楽と映像のエクスペリメンタルなコラボレーションにも注目したい作品です。

 

映画祭期間中の上映はあと1回、11月5日のみ。詳しくは公式サイトでご確認ください。

【作品情報】

戦場を探す旅(原題:Towards the Battle[Vers La Bataille])

監督:オーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー
出演:マリック・ジディ、レイナール・ゴメス、マクサンス・テュアルほか
89分/カラー/フランス、コロンビア/フランス語、スペイン語、英語
 

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。